船便遅延の短縮決戦はヒョンデ勢が逆襲。アズコナ予選最速にミケリス&ジロラミが勝利/TCRワールドツアー第5戦

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2025年09月18日 17:50  AUTOSPORT web

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直前のBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)更新で息を吹き返したヒョンデ陣営のBRCスクアドラ・コルセが躍進を見せる展開に
 サマーブレイクを挟んで南半球へと向かい、9月11〜13日にオーストラリアのザ・ベンドで開催されたFIA TCRワールドツアー第5戦は、船便での輸送中に悪天候による遅延が発生し、開催直前で大幅にスケジュールが変更に。

 急遽フリープラクティス(FP)を1回削減、レース数を3から2へと圧縮した短期決戦は、直前のBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)更新で息を吹き返したヒョンデ陣営のBRCスクアドラ・コルセが躍進を見せる展開となり、ミケル・アズコナ(ヒョンデ・エラントラN TCR)が予選最速発進を決めると、レース1ではノルベルト・ミケリスが、続くレース2ではネストール・ジロラミがアルゼンチン勢揃いの表彰台で頂点を射止めている。

 ポルトガルのヴィラ・レアルにて7月上旬に最後の欧州ラウンドを終えたシリーズは、赤道を越えて“ダウンアンダー”からのアジア・フライアウェイへ突入するが、その世界戦を迎え入れる現地TCRオーストラリアは、参戦台数不足による度重なる開幕延期がアナウンスされ、このワールドツアー併催の週末が今季2025年の実質的なシーズンオープナーになる異例の事態となっていた。

 そんな不安定な情勢により、イベント開催前から各エントラントの判断や態度が分かれる状況となり、タイトル獲得経験もある豪州ホンダを支援母体とするウォール・レーシングは、改めてシリーズからの撤退を表明。ザ・ベンド、そしてマカオへと続く国内選手権への不参加を決めた。

「本当に大変な道のりだった。残念ながら、今季のワールドツアーとTCRオーストラリアにマシンを投入することはできない」とチームリリースに記された。「すべてのチームの健闘を祈り、近いうちにサーキットで彼らと会えることを願っている。TCRで我々の未来がどうなるか、見てみよう」

 これによりチームに所属していたハリス兄弟の長兄であるブラッドは、自らのハリス・モータースポーツ・チームを結成してFL5型ホンダ・シビック・タイプR TCRをスタンバイ。週末を通してGOATレーシングとJASモータースポーツ双方からのサポートを受ける体制を整えた。

「TCRに復帰できてワクワクしている。直近にはシドニー・モータースポーツパークでナイトテストを終え、ここ数カ月はトランポや備品の内外装を改修し、プロフェッショナルなチームとして走れるよう準備してきた。GOATレーシングとJASモータースポーツとともに、初めて自分たちのチームとしてTCRマシンを走らせるという挑戦を楽しみにしているよ」とハリス。

 同じく古豪ギャリー・ロジャース・モータースポーツ(GRM)は、昨年オーストラリアで総合5位に入ったジョーダン・コックスのために、最新世代のGRM製プジョー308 P51 TCRのレースカー4台のうち1台を投入。現チャンピオンでヒョンデ陣営HMOカスタマー・レーシングのジョシュ・バカンや僚友ライアン・マクミラン、同2位のザック・スーター(チーム・スーター・モータースポーツ/アウディRS3 LMS2)など総勢8台のエントリーが加わった。

 またTCRのライツホルダーであるWSCからは最新のBoPパラメータも公表され、先代のシビック・タイプRと、こちらも旧型ハッチであるヒョンデi30 N TCRの車重が10kg軽量化され合計1275kgになる一方で、世界戦を戦う最新型のリンク&コー03 FL TCRの最低重量は20kg増加した1285kgとされた。

 これで今週末は、タイトル候補エステバン・グエリエリ(GOATレーシング/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)に27ポイント差をつけ、ランキング首位を行くリンク&コー・シアン・レーシングのヤン・エルラシェール(リンク&コー03 TCR FL)が、BoP重量の20kgに加え前者の30kgに対し40kgの補正重量も背負うヘビー級車両に。総合3位のウルティアも30kg、同4位のテッド・ビョークは10kgのウエイトを搭載する。

 これでシーズン開幕の惨憺たるスタートから徐々に挽回を図っていたヒョンデ陣営や、以前の重量を維持しているホンダ陣営がどのような勝負を見せるかに注目が集まるなか、レースウイークに突入する前週末には思わぬ情報が飛び込んでくる。

 洋上の悪天候により11台のワールドツアー車両を載せた船便が遅着する見込みとなり、当初は月曜と火曜にザ・ベンドに到着する予定だったトランスポーターは「金曜の午後遅くから夕方にかけて」サーキットへ到達することに。

 事態を受けFIA TCRワールドツアー運営委員会は、豪州最高峰RSCレプコ・スーパーカー・チャンピオンシップとの併催が予定されたザ・ベンドのスケジュールを、当初予定されていた30分×3レースではなく13周の2レースのみに変更する決断を下した。

「これはモータースポーツの真髄であり、最も生々しく情熱的な舞台だ」と語るのは、おなじみWSC会長のマルチェロ・ロッティ。

「チームとドライバーの献身的な姿勢により、ファンはレースの熱演だけでなく世界選手権マシンをグリッドに並べるまでの並外れた人間の努力を目の当たりにすることができる。これは勝負の真髄であり、文字通り一晩でマシンを準備するのだ」

 こうして夜通しの作業によるクルーの懸命な努力の末に走り出した週末は、まず土曜午前のFPでグエリエリのシビックRがトップタイムで先行。背後に3台のヒョンデ陣営を挟み、イグナシオ・モンテネグロ(GOATレーシング/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)のトップ5という順当なスタートを切る。

 しかし一発勝負となった土曜午前の予選では、選手権首位エルラシェールがポールポジションから1.1538秒差の3番手タイムと喰い下がる一方、ヒョンデのアズコナが僚友ミケリスに0.7229秒の大差をつけてポールを獲得した。

「シーズン前半は厳しい戦いだったが、ポールポジションを獲得できて本当にうれしい。とくに今朝のFPとは路面コンディションが大きく異なっていたから簡単ではなかったが、チームは素晴らしい仕事をしてくれた」

 そのままアズコナのライト・トゥ・フラッグが有力視されたレース1は、ポールシッターがジャンプスタートでまさかの5秒のペナルティを受けたことで、最後まで予断を許さない混戦模様に。

 グリッド上でのわずかな動きにより、数周後にペナルティを科せられたアズコナは、レース全体をリードするなかペナルティを挽回しようとプッシュし続けたが、チェッカーフラッグを受けた時点でミケリスとの差は0.2秒にも満たず。勝利を僚友ミケリスに譲る結果となったが、幸運にも背後に位置したエルラシェールにはペナルティ適用後もコンマ8秒差を堅持。これで表彰台はミケリス、アズコナ、エルラシェールの正式結果となった。

「とてもうれしいよ! レースに勝つのはいつも最高の気分だ。でも正直に言うと、今日はミケルが最速だったし、ペナルティを受けなければ勝利に値した」とミケリスが語れば、そのアズコナも正直に「ジャンプスタートの後は少しガッカリした」と振り返った。

「ただペースは非常に良かった。クルマのバランスには満足しており、ギャップを広げることができた。ペナルティを聞いた後は、左フロントタイヤが心配になったが、パンクのリスクを冒したくなかったから、力強くフィニッシュすることに集中した。チームとしてワン・ツーフィニッシュは素晴らしい、正直言って今季最高のレースだったと感じている」

 そして予選トップ10リバースのレース2は、オーレリアン・コンテ(SPコンペティション/クプラ・レオンVZ TCR)とフロントロウをシェアしたジロラミが、BRCヒョンデ陣営の完璧な週末にさらに花を添え、グエリエリとモンテネグロのシビックR艦隊を従え、自身の古巣でもある同郷の“アルゼンチン・エクスプレス”によるポディウム占拠を成し遂げた。

「スタートがすべてで、リスクを負う必要があった。でもエステバン(・グエリエリ)が僕をリスペクトしてくれたおかげで、レースはうまく進んだよ」とジロラミ。

「今週末のマシンは素晴らしい感触だったが、年初は苦戦した。メキシコはヒドいものだったし、ヴィラ・レアルでもそうだ。チャンピオンシップではまだかなり後れを取っているが、今の目標はレースごとに順位を上げていくこと。(次戦)韓国は僕たちにとって非常に重要だからね」

 その言葉どおり、続く第6戦は韓国のインジェ・スピーディアムで再開され、10月17〜19日にTCRアジア・シリーズがグリッドに加わる。

https://www.youtube.com/watch?v=Zzk1-k9Fn0s

[オートスポーツweb 2025年09月18日]

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