SF開発ドライバー・山本尚貴が背負う新たな責任と、苦労する“気持ちの準備”。開発テストならではの難しさも実感

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2025年09月18日 18:20  AUTOSPORT web

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2025年のスーパーフォーミュラ開発テストドライバーを務める山本尚貴
 9月9〜11日、静岡県の富士スピードウェイで、スーパーフォーミュラの開発テストが行われた。5月末のスポーツランドSUGOでの開発テストに続き、ホンダエンジンを搭載するSF23開発車両『白寅』のステアリングを握ったのは、今季から開発テストドライバーを務める山本尚貴だった。

 昨年限りでスーパーフォーミュラのシートから退いた山本は、今季に向けてJRPアスリート委員会の委員長に就任。開幕前の公式テストの時期から、ドライバーたちの意見を集約しつつプロモーターやサーキット側とコミュニケーションを取ったり、新規参戦ドライバーに対してコース上のマナー等に関して確認する姿などを見せており、アスリートたるドライバーが関わる部分を中心にスーパーフォーミュラの現場の細部までをフォローしながら、環境をより良くすべく業務にあたっている印象だ。


■“レースウイークとの1〜2秒差”を読む仕事

 その“委員長”としての役割に加え、同じく昨年までステアリングを握っていた国本雄資(トヨタエンジン搭載車担当)とともに、開発テストのドライバーを任されることになった。今回の富士テストでは来季導入される新型燃料や、将来的な導入が予定されているタイヤや電子部品のチェックやフィードバックを2台で実施。スーパーGTでは引き続き現役を続ける山本は、SFの開発ドライバーという役職にどんな心持ちで臨んでいるのだろうか。

「当然、割り切ってここには来ています。今回のテストは自分が速く走るアピールの場でもないですし、マシンを速くするためだけのテストではないですからね」と富士テスト初日の走行を終えた山本は心の内を明かす。その表情には、これまでとは違った環境に順応しつつ、与えられた役割をしっかりと果たしたいという意思が見て取れた。

「やっぱり今までは速く走るためのテストをしてきた身ですから、切り替えるのは簡単ではないですけどね。まずは安全に戦えるパッケージを用意すること。そして、このパッケージをレギュラー陣に渡したときに、誰が乗っても差がなく、それぞれの能力を引き出せる土壌を作ること。それが大事なことだと思っています」

 導入時期は未定ではあるものの、今回富士テストでは複数の新たなタイヤスペックの比較も2日目以降に行われた。JRPの永井洋治テクニカルアドバイザーによれば、よりソフトな方向のスペックを試し、ウォームアップ性能やエンターテインメント性向上を狙ったものだ。

 これについて山本は「意図したわけではありませんが、今年のタイヤは結果的に硬くなってしまったところがあり、それがウォームアップの際やグリップが抜けるときの唐突な挙動につながっている部分があります」と指摘。「速さというよりはコントロール性を上げる方向」で開発を進めていくという。

「アタックする前の(ウォームアップの)段階で、難しさがある必要はないと思っています。そのあたり、変に尖ってしまっている部分を少し整えてあげて、レギュラー陣に渡せればいいかなと思っています」

 ただ、実際のレースウイークの状況をよく知る山本だけに、基本的に2台しか走行しない開発テスト特有のコンディションには、難しさも感じているよう。

「レースウイークは22人のレギュラードライバーが細かいところを突き詰めた結果、かなり速いタイムで走っています。(開発テストでの)そこから1秒、2秒遅いところでの評価というものが、果たして正しい評価につながるのか? というのは、正直この2回のテストで感じているところでもあります」

「あくまでも『自分が走っているタイムから1〜2秒速く走ったときにどういうことが起きるのか』、そのあたりのイメージも膨らましながら、やっていかなければならないと強く感じています」


■テストであっても必要な『覚悟』

 レギュラー参戦するGT500よりも速いフォーミュラカーに乗れる機会があるという意味では、ドライバー個人としても良い作用があるように思える開発の任務だが、スーパーフォーミュラマシンに乗るのは簡単なことではない、と山本は示唆する。

「当然、GTがドキドキしないわけではないし、GTにはGTのプレッシャーはあるのですが、やっぱりフォーミュラに乗るとなると、数日前からそわそわするんですね。それは『ちゃんと乗れるかどうか』という不安ではなく、この速度レンジのクルマに乗る『覚悟』のようなことです」

「現役ならばそれが常に身体に染み付いているから、オンシーズンの間はずっとその状態でいられるのですが、SFを降りたことで一回気持ちは切れているので、年に2〜3回のテストのためにその気持ちと覚悟を高めていくというのは、ちょっと別の大変さがあります」

「もちろんGTだってあの重さと大きさであのスピードで走っているのは“異次元”なのですが、やっぱりフォーミュラカーのこの軽さとこのスピードは特別ですし、『覚悟』が必要なんだな、というのはテストで乗るたびに改めて感じています」

 さまざまな難しさと向き合いながら、山本は新たな環境のなかで新たな役割をまっとうしようとしているように見えた。

[オートスポーツweb 2025年09月18日]

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