会談に臨む(左から)立憲民主党の野田佳彦代表、石破茂首相(自民党総裁)、公明党の斉藤鉄夫代表=19日、国会内 自民、公明、立憲民主3党の党首会談は、石破茂首相(自民党総裁)が退陣を間近に控える異例の状況下で行われた。首相は総裁選を戦う「ポスト石破」に「石破路線」を継承させることを狙う。立民の野田佳彦代表は多党化する野党の第1党として主導権を発揮したい考え。双方の思惑が一致した形だ。
首相は19日の党首会談で、立民が訴える「給付付き税額控除」について、「政調会長を中心に協議体を立ち上げ、速やかに協議を始めたい」と宣言した。ガソリン税の暫定税率や政治改革に関する協議の継続、社会保障制度の将来像の議論も提起した。退任が決まり、本来はレームダック(死に体)となるはずの首相が野党とのトップ会談に精力的に臨む姿に、自民関係者は「極めて異例だ」と驚いた。
首相は党内の「石破降ろし」を受けて7日に退陣を表明。ただ、その直前まで衆院解散・総選挙を検討するなど続投を探った。新総裁や次期首相には「自身が進めた政策を継承してくれること」(周辺)を望んでいるという。
首相が路線継続を公明、立民両党の党首に約束したことは、22日告示の総裁選にも一定の影響を与えるとみられる。有力候補となる小泉進次郎農林水産相は19日の衆院予算委員会で、協議体設置などに関し「約束の履行に努力するのは当然だ」と言い切った。
小泉氏は17日に首相と面会した際、コメ農政改革を継続するよう要請された。小泉氏はこの後、記者団に「地方経済、防災庁、農政はしっかりと引き継いで進めたい」と表明。党関係者は、首相は「次は小泉氏」という流れをつくろうとしているとみている。
小泉氏と争う高市早苗前経済安全保障担当相も19日の総裁選出馬表明の記者会見で、給付付き税額控除の制度設計を進める方針を打ち出した。「暫定税率を廃止していく」とも訴え、野党との政策協議に前向きに取り組む姿勢を見せた。
一方、7月の参院選で伸びず、党勢立て直しを模索する立民にとっても、党首会談は「渡りに船」だった。党関係者は首相に「塩を送る」ことになり、参院選躍進で勢いづく国民民主党や参政党など他の野党への「けん制」にもなると解説する。
給付付き税額控除の導入は、給与所得や資産を正確に把握する必要があり、制度設計に「2、3年かかる」(立民幹部)との声もある。総裁選後も各党が制度実現に向けて協力できるかが問われる。
国民民主は3党首会談に冷ややかだ。榛葉賀津也幹事長は19日の会見で、物価高対策について「スピード感が大事だ」と強調。「石破氏はもう首相ではなくなる。(会談は)正直意味がない」と切って捨てた。

記者団の質問に答える石破茂首相=19日、首相官邸