
自民党総裁選の告示まで1週間を切る中で、候補者5人の公約も少しずつ見えてきた。高市早苗氏、小泉進次郎氏、林芳正氏、小林鷹之氏、茂木敏充氏。それぞれが総理になったら何が変わるのか?
TBS政治部で林芳正氏を取材する 堀 宏太朗記者、そして小林鷹之氏を取材する 原 尉之記者の2人とともに、物価高対策、外国人政策、党改革などの重要課題に対する公約を徹底比較し、候補者たちの思い描く“日本の未来像”に迫る。
5人の候補者たちの最新動向自民党総裁選の告示が9月22日に迫る中、各候補者の動きが活発化している。9月10日の茂木敏充前幹事長を皮切りに、小林鷹之元経済安全保障担当大臣、林芳正官房長官、高市早苗前経済安全保障担当大臣が正式に出馬会見をしており、小泉進次郎農林水産大臣も出馬の意向を表明している。
林氏の取材を担当する堀記者は、「官房長官という立場もあって、安定した答弁で説明していた印象がある。本人はかなり意欲を持って望んでいるという話も聞いていて、岸田内閣・安倍内閣と2つの内閣で官房長官を務めてきた中で、『もう自分が先頭に立ってやっていきたい』という思いは強いのではないか」と分析している。
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一方、小林氏を取材している原記者は「議員会館の挨拶回りをしたり、地元・千葉で県議会の人に挨拶をしたりと、本格的に動き出している」と説明。1年前の総裁選と比べて「かなり気合が入っている」とし、「真面目な話をしたり質問を聞いたりしているときに『顔が怖い』と周りに言われることもあるようで、出馬会見では努めて笑顔でいるのが印象的だった」だと語った。
ここからは、5人の候補者たちが掲げる政策を、
(1)物価高対策
(2)外国人政策
(3)党改革
の3つの視点から比較した。
(1)物価高対策
今年7月の参院選の際には「食料品に限って消費税をゼロに下げるべき」という意見も持っていたが、今回の総裁選では消費減税に関しては「時間がかかる」として、現時点では打ち出さない方針。ただし、選択肢としては排除しない姿勢だ。
(2)外国人政策
経済安全保障担当大臣を務めた際にも尽力した「セキュリティ・クリアランス」の観点から、国益を守るための「スパイ防止法」を打ち出す見通し。
さらに、移民が増えていく流れの中で、外国人問題に対応する司令塔機能の強化も訴える。
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(3)党改革
「適材適所の人事システムを早期に作っていく」と去年の総裁選でも発言していて、期数や派閥にこだわらない能力主義の考えは今も変わらないだろう。
前回の総裁選では靖国神社参拝について明言し、それが決選投票で票を伸ばせなかった一因とも言われていたが、今回は「そういった発言はしないようにしている」と陣営は説明しているという。
小泉進次郎 農林水産大臣(出馬会見前の公約見通し)(1)物価高対策
最重要テーマに掲げているので何かしら打ち込んでくる見通し。石破内閣の現役閣僚であるため、大きな方向転換はなく、消費減税については盛り込まない見通し。
(2)外国人政策
「治安の不安と向き合う」と言及しているという。どういう政策になるかはまだわからないが、こちらも何かしら盛り込む見通し。
(3)党改革
陣営に若手・中堅議員が多いこともあり、積極的な若手登用によって党の刷新を図るのではないかといわれている。
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前回の総裁選では選択的夫婦別姓制度の早期導入などリベラルな政策を打ち出したことが敗因になったとの見方もあり、今回はそういった“踏み込んだ”政策は控える見通しのようだ。
応援団には加藤勝信財務大臣や野田聖子元総務大臣など実力者が名を連ねる。また、現職閣僚ということもあり、石破総理を前回支持した人で、今回は小泉氏の支持にまわる、という声も聞こえてきている。
林芳正 官房長官(1)物価高対策
現政権ナンバー2、さらに岸田内閣から官房長官を務めていることもあり、基本的に今の路線を引き継ぐ方針。消費減税については「消費税は社会保障の重要な財源なので、税率を下げることは適当ではない」と否定的な姿勢を示している。代わりに低中所得者世帯への支援を打ち出し、世帯人数などに基づくそれぞれの“負担感”に応じた支援策を検討するという。
(2)外国人政策
現政権では内閣官房に外国人政策の司令塔組織を置いており、そのトップである官房長官として、現在の方針からそこまで変えることはないだろう。インバウンド増加を想定した制度設計の見直しを進める考え。
(3)党改革
「聞く力」の重視。国民の意見を吸い上げていくために「デジタル国民対話プラットフォーム」の設立を掲げているが、具体的な内容はまだ明らかになっていない。今後の説明に注目だ。
(1)物価高対策
所得税の定率減税(期限・上限つき)を掲げ、これが他の候補者と大きく異なる点。「分厚い中間層に対して、頑張って働いている人にメッセージを打ちだしたい」という思いがあるようだ。
ただし、消費減税については慎重な立場を取り、「選択肢の1つ」としている。
(2)外国人政策
外国人による住宅用土地取得の厳格化を提案。「外国人が投資目的でマンションを買い、都内の勤労者が住宅を買えない現状がある」として、何かしらの制度設計により、外国人が住宅(土地)を買いづらくする仕組みを作るのではと原記者は話す。
(3)党改革
5人の候補者の中で唯一と言っていいほど派閥の顔が見え隠れしないのが小林陣営。「脱派閥」を掲げ、「小林鷹之という政治家に共感した人たちが若手中心に集まっている」と原記者は説明。若手登用を掲げる一方で、要職に年齢制限をつけるなど思い切った改革ができるかが鍵になるとしている。
(1)物価高対策
現金給付は行わず、代わりに数兆円規模の「生活支援特別地方交付金」の創設を提案している。
(2)外国人政策
移民政策は「積極的に取るべきではない」としているが、完全に排除するわけではなく、ITなど高度テクノロジー人材などは受け入れを拡大すべきだという考え。外免切替などが昨今問題になっているが、「違法外国人ゼロ」を目指すとしている。
(3)党改革
“茂木式ライザップ”とも言われているが、「2年で結果を出す」ことに重きを置いている。「漠然と取り組むのではなくしっかりとマイルストーンを置いて2年で結果を出す、そしてその先で若手にバトンを繋いでいく」というスタンスで、原記者は「コンサル出身ということもあり、厳しい環境で切磋琢磨してきたからこその発想だろう」と解説している。
石破内閣で掲げた現金給付に関しては、参院選で負けたこともありどの候補者も踏襲しない見通しだが、消費減税に関しては、特に誰も踏み込んだ発言はしていない。
これに関して両記者は、衆参で少数与党となったことで、消費減税が【与野党で協議をしないと実現しないもの】になっているのが大きな要因だとしている。堀記者は「下手に個人の思いを出してしまうと、いざ総理になった時に野党から協力を得られなくなる懸念もある」と解説。原記者も「踏み込んだ発言をして総裁選で勝ったとしても、それが政権を運営する上での足枷にはなってはいけない。だからこそ、どの候補者も曖昧な言い方に留まってしまっている」と話した。
前回の総裁選から読み解く 次の総理総裁は誰に今回出馬を表明している5人は全員、前回の総裁選にも出馬している。カギは「前回の総裁選からいかに票数を伸ばせるか」。
林氏を担当している堀記者は「陣営を取材していると旧岸田派以外の面々も加わっており、仲間の議員の幅を広げることでそれぞれの地元の党員票の幅も広げたい狙いがあるのでは」と分析している。
また原記者は、「今回石破総理が出馬しないので、石破総理に票を投じた面々が今回どの候補に票を投じるかも注目点だ」と指摘。今後の討論会などを通じて「自民党を立て直すという覚悟を持って、熱が伝わるような議論をしてほしい」と期待を寄せている。
10月4日の投開票に向け、今後各候補者の政策論争が本格化し、議員票や党員票の行方も次第に明らかになっていく見通しだ。