「ヒヤッとした」最終回目前のNHK朝ドラ『あんぱん』視聴者が振り返るいちばんの“違和感”

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2025年09月25日 06:40  週刊女性PRIME

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週刊女性PRIME

NHK連続テレビ小説『あんぱん』ヒロインの今田美桜

 半年間、好評を博してきた『あんぱん』もいよいよ最終回を迎える。でも細かく見ていくと、ちょっとツッコミたくなるところも、なくはなかった。そこで半年間楽しませていただいた視聴者の一人として、愛を込めて総括をさせていただきたい。

『あんぱん』ツッコミどころが多いポイント

 一番ツッコミどころが多いのは三女のメイコ(原菜乃華)。

 特に筆者が気になっているのは、終戦後にのぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)が結婚することになり、女性陣が集まったシーンだ。千代子(戸田菜穂)や羽多子(江口のりこ)が亡き夫に惚れ込んでいたとのろけると、メイコが蘭子(河合優実)に「蘭子姉ちゃんはどうながで?」と聞くのだ。

 私はこのセリフを聞いた時、「戦争で豪(細田佳央太)を亡くした蘭子に何てことを聞くんだ!」とヒヤッとしたのだが、みなさんはどうだったろうか。当の蘭子は「うちは豪ちゃんに一生分の恋をした」と答えるのだが、自分から言うのならまだしも、戦争で大切な人を亡くした女性にこんなことを聞くのは、いくら酒に酔っていたとはいえデリカシーがないように感じたのだが…。

 他にも「のど自慢」の予選で、健太郎(高橋文哉)の姿を見た途端に歌が止まってしまったり(上ずったりするならまだしも)、嵩が喫茶店で女性編集者と打合せするのを見かけて浮気だと勘違いしたり……。役説明にある「天真爛漫」だけではちょっと腑に落ちないような言動を散見したように思う。

 のぶに関しては終盤、「うちは何者にもなれんかった」と心情を吐露するシーンが胸を打ったが、嵩の「のぶちゃんがいなかったら、今の僕はいないよ。のぶちゃんはそのままで、最高だよ」という言葉で立ち直っていた。でも嵩はこの時点で、本業の漫画は売れてないとはいえ、作詞などで「何かをなした」段階ではあった。そういう夫に、この言葉をかけられ、のぶは素直に受け止められたのか。最終的には「嵩を支えていこう」と思えたとしても、もうワンクッションあっても良かった気がする。

 そして、のぶや羽多子らがことあるごとに連発していた「たまるかー」。

 朝ドラのヒットの法則である主人公の口癖は、『あまちゃん』の「じぇじぇじぇ」がはしりで、『あさが来た』の「びっくりぽん」などが続いた。だが、子供も大人も「じぇじぇじぇ」と言っていたのと違い、『虎に翼』の「はて?」は思ったほど流行らなかったし、「たまるかー」は私の周りで使っている人を見たことがない。

 原因のひとつに、「たまるかー」という言葉の使い方が今一つわかりにくいことが挙げられる。関東の人間からすると「たまる」という音から「こりゃ、たまらん」みたいなネガティブな意味かと思いがちだが、実際には驚いたりびっくりしたのは全部「たまるかー」に当てはまるらしい。そうした齟齬もあって、今一つ使用されなかったのもあるが、視聴者の中には「また流行らそうとしてるな」という気持ちもあったに違いない。

「厳しい母親(または祖母)」もヒットの法則としておなじみだが、こちらは松嶋菜々子が最後までツッパっていて、でも嵩の出征シーンなど要所要所で見せ場があって良かった。

 ただ、いずれにしても、視聴者も朝ドラ慣れしてくるので、ヒットの法則がいつまでも万能とはいかないということだろう。

もうちょっと詳しく見たかった

 もう一つツッコミたいのは、後半の展開が早すぎたことだ。

 のぶが戦前、教師として愛国主義だった影響もあり、戦後「高知新報」の記者になった第14週でようやくのぶの人生が動き出した感があった。今回はたまたま、昼に『とと姉ちゃん』の再放送をしていたので比較してしまうが、同作の常子(高畑充希)が第8週でタイピストとして奮闘し始めたのと比べると、だいぶ遅い。

 視聴者としては、のぶの新聞記者や議員秘書、嵩の百貨店時代の奮闘も、もうちょっと詳しく見てみたかった気がする。のぶにとって正義が逆転してしまった戦争体験が大きかったため、戦前を丁寧に描きたかったのはわかるが、もう少し戦後の配分が多くても良かったのではないだろうか。高知新報の東海林(津田健次郎)や三星百貨店の出川(小田井涼平)ら、面白くなりそうなキャラがあっただけに、出番が短かったのも残念だ(東海林は晩年、大切な役割を果たしたが)。

 そうしたこともあってか、物語が全般的に、起きた出来事とヒットの法則をなぞるので時間一杯になってしまった気がするのだ。

 もっとも、誰もが知る『アンパンマン』の作者とその妻という、題材を見出した時点で、面白いドラマになることはほぼ確約されていた本作。今田と北村の好演もあり、多くの視聴者が楽しめたことは間違いないだろう。

 蛇足ながら筆者は、今から20年ほど前、ご健在だったやなせたかしさんを取材させていただいたことがある。

 その時、特に記憶に残っているのが、話の流れに関係なく、「私は最近、歌手としてデビューもしたんだ」とおっしゃって、突然立ち上がって歌い出したことだ。あの当時で80代前半だったか。『アンパンマン』が認められるまで長い時間のかかったやなせさんが、晩年にはいろんな夢を叶えられたのだなあと、微笑ましく思い出した。

『あんぱん』の最終回も、やなせご夫妻が天国から微笑んで見られるようなエンディングを期待したい。

古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。『3年B組金八先生卒業アルバム』『オフィシャルガイドブック相棒』『ヤンキー母校に帰るノベライズ』『IQサプリシリーズ』など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、著書に『風景印ミュージアム』など。歴史散歩の会も主宰している。

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