面会や関係者への取材から見えてきた姿とは? 「頂き女子」の全貌に迫ったノンフィクション

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2025年09月26日 18:11  BOOK STAND

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『渇愛: 頂き女子りりちゃん』宇都宮 直子 小学館
 SNSで「頂き女子りりちゃん」を名乗り、男性たちから総額1億5000万円をだまし取ったことで逮捕された渡邊真衣被告。年上の男性に恋愛感情を抱かせて金銭を搾取することを「頂き」と名付けたキャッチーさや、その手法を「魔法のマニュアル」として販売していたこと、手に入れた金をすべて歌舞伎町のホストにつぎ込んでいたこと、アッシュブロンドのボブヘアにピンクを基調としたファッションなど、彼女はさまざまなエピソードやキャラクターで注目され、一部からカルト的な支持を集めました。

 「彼女は本当は、何を思っていたのだろうか。また、自分が起こしたことをどのように捉えていたのだろうか」――そんな思いから、「りりちゃん」への接見や裁判傍聴、関係者への取材を通して事件の全貌に迫ったのが、フリーランス記者の宇都宮直子氏が著した書籍『渇愛 〜頂き女子りりちゃん〜』です。

 初めての面会時から、「え〜。裁判来てくれてたんですか〜。ありがとうございます。あっ!そういえば目が合ったかも!」(本書より)と、宇都宮氏の懐に反射的に入ろうとする姿勢を見せた「りりちゃん」。その後も何度も接見や手紙のやりとりを重ねるうちに、宇都宮氏は同情心なのか行き過ぎた親近感なのかわからない気持ちが湧くようになり、次第に彼女との距離感が保てなくなっていきます。

 これまで「取材対象者とは一線を引き、一定の距離を置くことを心掛けていた」(本書より)という宇都宮氏が、「いつしか細かく書かれる出来事や感情の動きを熱心に読み込むことに注力するようになり、彼女の体調や精神状態を心配するようになっていた」(同書より)というのです。これは「りりちゃん」が持つ「無意識レベルで人に好かれようと振る舞うことが習い性になっている」(本書より)という特性、そして「頂き女子」として成功を収めた核の部分が垣間見えるエピソードと言えそうです。

 こうして「りりちゃん」に共鳴し、一時は「彼女の罪がわからない」と本気で思っていた宇都宮氏ですが、被害者の男性から直接話を聞き、彼がいかに困窮し人生に絶望しているのかを目の当たりにして、彼女のやったことは紛れもなく「罪」で「悪」だと痛感します。

 しかし、「彼女は、自分の『罪』を本当の意味で理解しないまま受刑者となった――私はそう思っている」(本書より)と記す宇都宮氏。「りりちゃん」の根底には「自分は性を搾取され続けた被害者だ」との気持ちがあり、それが「性を搾取する男性に対する無自覚な処罰心」に繋がったというのも事件の背景として考えられます。

 「りりちゃん」は社会に虐げられてきた被害者なのか、それとも自身を正当化しているだけの詐欺師なのか。その正体について、本書を読んだ人はしばしの間、考えてしまうかもしれません。

[文・鷺ノ宮やよい]



『渇愛: 頂き女子りりちゃん』
著者:宇都宮 直子
出版社:小学館
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