トヨタ/TOYOTA GAZOO Racingが2025年9月12日に発売したGRヤリス RZ“High Performance”『エアロパフォーマンスパッケージ』 TOYOTA GAZOO Racingは4月11日に進化型トヨタGRヤリスを世界初披露し、5月6日に発売を開始した。また、1月の東京オートサロンで披露したコンセプトモデルの市販バージョン『エアロパフォーマンスパッケージ』をRCとRZ“High Performance”に設定し、9月12日に発売した。
モータースポーツで得た知見を織り込んで開発したGRヤリスがデビューしたのは2020年のことだった。以来、スーパー耐久シリーズや全日本ラリー選手権などのモータースポーツの現場で『壊れては直す』を繰り返し、『もっといいクルマ』にするための活動を継続。その成果を反映したのが2024年1月に発表(3月に発売)した“進化型GRヤリス”である。
今回の進化型GRヤリスは、進化型GRヤリスとしては第2弾ということになる。進化型GRヤリスは今後も登場する予定だ。混乱を避けるため、最初のGRヤリスを『20(ニーマル)式』、最初の進化型GRヤリスを『24(ニーヨン)式』、今回発売された最新の進化型GRヤリスを『25(ニーゴー)式』と呼んで区別することになった。
最新の25式GRヤリスは、次の6つのポイントが進化している。(1)エアロパフォーマンスパッケージの設定(2)締結剛性の高いボルトを採用(3)ショックアブソーバー&EPS(電動パワーステアリング)のチューニング最適化(4)DAT(8速AT)の進化(5)フットレスト拡幅&エンジン制御変更(6)縦引きパーキングブレーキレバーの設定拡充
(1)エアロパフォーマンスパッケージの設定
エアロパフォーマンスパッケージはダクト付きアルミフード、フロントリップスポイラー、フェンダーダクト、燃料タンクアンダーカバー、可変式リヤウイング、リヤバンパーダクトの6点セットだ。
ダクト付きアルミフードは全日本ラリーに先行投入されている。GRMN(ガズーレーシング・チューンド・バイ・マイスター・オブ・ニュルブルクリンク/2022年)にも同形状が採用されており、走行中の熱を排出して冷却効率を高める効果がある。フロントリップスポイラーはスーパー耐久レースでの知見を生かし、GRヤリスの開発ドライバーを務める大嶋和也のフィードバックを受けて採用した。フロントリフトを抑制することで高い接地感とバランス向上を狙っている。
フェンダーダクトはホイールハウス内に溜まる空気を後方へ放出させることで、ノーズダイブ時のステアリングフィールや、コーナー入口での操縦安定性を向上するアイテム。燃料タンクアンダーカバーはスーパー耐久レース参戦車両のタンク下部をフラットにするアイデアを採用したもの。ボディ下部の空気の流れを最適化し、空力性能を高める効果がある。
可変式リヤウイングは高速域での操縦安定性やブレーキング時のスネーキング現象(車体が左右に揺れる不安定な動き)の抑制に効果があるアイテム。リヤウイングの角度は0度、5度、10度に調節が可能。納車時は5度に設定される。リヤバンパーダクトはリヤバンパーのパラシュート効果(車体下部を流れる走行風をリヤバンパーが受け止めることで抵抗となる現象)を抑制し、ドラッグ低減を図るアイテム。スーパー耐久シリーズの現場でリヤバンパーが外れたことを起点に開発された。
エアロパフォーマンスパッケージは当初、フロントリップスポイラーを除く5点で開発が進んでいたという。ところが、大嶋の強い要望で急きょ、フロントリップスポイラーが追加されることになった。本来であれば25式と同じ5月に発売されるはずだったが、発売が9月にずれ込んだのは、こうした経緯があるからだ。
「エアロパフォーマンスパッケージというくらいなので、ノーマルよりパフォーマンスを向上させたい思いがありました」と大嶋。「(当初の5点で)リヤの安定感は格段に増したのですが、フロントのダウンフォースが出せないのと、冷却の絡みもあってフィーリングが悪化方向に行ってしまいました」
床下にはエンジンルームに冷却風を導く開口部が設けられている。空力性能を向上させようとフロントバンパー下端の空気の流れを変えると、冷却ための流れも変わってしまう。冷却性能を悪化させず空力も良くしたいが、これが難しかった。
「いろいろ試した結果、フロントリップスポイラーを付けることによってバランスが改善し、ノーマル状態よりタイムが向上したので採用しました。エアロが付いていない状態に比べるとリヤの安定感が大きいので、少しアンダー(ステア傾向)は残っていますが、スタビリティは向上しています。そこを感じ取っていただけるとうれしいです」
エアロパフォーマンスパッケージの装着により、富士スピードウェイではラップタイムが約1秒向上する効果が確認できたという。その効果を実感できるのは、レーシングドライバーだけではない。下山(トヨタテクニカルセンター下山、愛知県豊田市・岡崎市)のワインディングロードを想定した周回路で社員ドライバーがエアロパフォーマンスパッケージ装着車を走らせたところ、50km/h程度のコーナーの通過速度が約20km/h、「気づいたら」上がっていたという。頑張ってスピードを上げたのではなく、安心感が高いので無意識に踏み込めてしまうということだ。
エアロパフォーマンスパッケージは6つの専用アイテムによって「ベース車とは違う」ことがはっきり分かり、見た目のインパクトも大きい。大きいのは視覚的な効果だけでなく、パフォーマンスにも言える。常用域+αから効果が実感できるすぐれものだ。
(2)締結剛性の高いボルトの採用
フロントロワーアームとナックルの締結部はボルトフランジにリブ形状を追加。リヤショックアブソーバー(ダンパー)のアッパーサポートとボディの締結部はフランジの厚みを増やした。また、リヤサスペンションメンバーとボディ締結部のボルトは頭部サイズを拡幅している。これらは2024年8月に発表され2025年4月に国内販売が始まったGRカローラに適用された技術と同じだ。
(3)ショックアブソーバー&EPSのチューニング最適化
サスペンションの締結剛性を上げたのに合わせ、ショックアブソーバーを再チューニングした。具体的には、微低速域の減衰力をアップし、乗り心地を向上させるために高速域は減衰力をダウンさせ、接地性、ボディコントロール性の向上を図った。EPSはステアリングのリニア感(切った量に対して1:1で操舵感が得られる感覚)を改善した。ショックアブソーバー、EPSとも、大嶋選手と何度も富士や下山でテストを行ったという。
(4)DATの進化
DATは24式GRヤリスで設定が追加された8速ATである。より多くの人に走る楽しさを提供するために開発したのだが、それだけではなく『レースでMTと戦えるAT』を目指して開発は行われた。25式では『スポーツ走行時のドライバーの意思に寄り添った変速を実現』することをテーマに進化させた。
Dレンジ走行中のダウンシフト可能回転数の拡大や、パドル操作変速時間の短縮、登坂勾配ではシフトアップのタイミングを少し遅らせ、変速後の高出力を維持、ビギナーやウエット路面でブレーキを踏みきれないときでも積極的にダウンシフトなど、30項目の改善を実施した。
(5)フットレスト拡幅&エンジン制御変更
2ペダルのDATは左足をフットレストに置くシーンが多くなる。25式では24式に対してフットレストを拡幅し、左足を楽に置けるようにした。また、24式ではレブリミッターに当たったときに0.4秒でトルク制限をかけていたが、これを3.0秒まで延長。シフトアップさせずに現行段で引っ張っておきたいという走りに応えられるようにした。
(6)縦引きパーキングブレーキレバーの設定拡充
24式では縦引きパーキングブレーキをRCグレードにのみメーカーオプション設定にしていたが、25式では全グレードで選択可能にした。また、DAT用機械式LSDをディーラーオプション設定に加え、同じくディーラーオプションでエンデュランスバンパーボルトを新設定した。このボルトは、通常走行時に比べバンパーに強い力が掛かるスーパー耐久や全日本ラリーなどでの経験から生まれた部品である。専用開発した締結構造により、ボディへの負担を抑えつつ、しっかり留めることができる。
千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイで筆者も25式を味見させてもらったが、DATの進化幅は大きい。24式を試乗した際は『自分が選ぶならMTかな』と感じたものだが、25式を味見した後では、だいぶDATに気持ちがなびいている。大嶋選手は「自分で買うなら絶対DAT」と断言した。
「今年のニュル24時間ではほぼ全員がDレンジで走り切りました。自分で買うなら絶対DATです。(シフト操作から解放されるので)ステアリングの操作に集中できる。コーナリング中にGが掛かった状態でシフトチェンジする手間が省け、クルマの荷重をコントロールしながら限界域を使い続けることができる。サーキットを攻めるうえでは、僕ら(プロドライバー)でもDATのほうが楽しめるし、楽だと思います」
では『MTとATならどっちが速い?』と質問すると「MTのほうが少し速い」との回答。
「僕らが乗れば、速さだけで言うならMTのほうが少し速いですね。シフトアップもすごく頑張り、体幹を使ってちゃんと走れば少し速い。MTのほうが(DATに比べて)20kg軽いのも効いてきます。フルバケが付いていればホールド性がいいのでステアリングから手を離してもそんなに気になりませんが、ノーマルシートでMTは片手でステアリング持ちながらになるのでキツイ。DATはステアリングから手を離さなくていいので、そこが大きなメリットです」
プロドライバーが一発のタイムを出しにいくならMTに軍配が上がるが、運転する時間が長くなればなるほどDATが有利になる。
「MTだとクラッチを踏まなければいけないので、シートポジションが少し前になる。その点、DATの場合は(奥まで踏み込む必要はなく)ペダルまで足が届けばいいので、楽なポジションをとれるのがいい」
さてMTとDAT、あなたならどっちを選ぶ?
[オートスポーツweb 2025年09月26日]