AIは人を評価できるのか? Oracleの最新動向から人事管理とAIの相性を探る

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2025年10月08日 07:10  ITmediaエンタープライズ

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日本オラクルの中山耕一郎氏(理事 クラウド・アプリケーション事業統括 アプリケーション・ソリューション戦略統括 インダストリー&事業戦略本部 本部長)(筆者撮影)

 業務アプリケーションにAI機能が組み込まれる中で、人事管理にもその波が押し寄せている。とりわけ、業務における「管理」の部分については、AIをはじめとしたテクノロジーが有効だ。しかし、人事管理の場合、人事の“肝”となる「人を評価する」ところにどこまでAIを使えるのか。そもそも使っていいのだろうか。


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 そんな問題意識を抱いていたところ、この分野のSaaS(Software as a Service)の展開に注力しているOracleの日本法人である日本オラクルから最新動向を聞く機会があったので、今回はその内容を基に「人事管理とAIの相性」について考察したい。


●「人事管理×AI」におけるオラクルの最新動向


 日本オラクルは2025年9月29日、「人事におけるAIエージェントの最新動向」に関する記者説明会を開いた。Oracleが同年9月16日(現地時間)に発表(注1)した人事管理向けSaaS「Oracle Fusion Cloud Human Capital Management」(HCM)へのAIエージェントの追加を受けたもので、日本オラクルでSaaS事業を推進する中山耕一郎氏(理事 クラウド・アプリケーション事業統括 アプリケーション・ソリューション戦略統括 インダストリー&事業戦略本部 本部長)と、人事管理向けSaaSを推進する矢部正光氏(クラウド・アプリケーション事業統括 アプリケーション・ソリューション戦略統括 ソリューション・エンジニアリング本部 パートナーイネーブルメント HCMソリューション リード)が説明に立った。


 「人事管理は業務アプリケーションの中でもAIによって最も効果が出る領域だと期待されている」


 中山氏は会見で、さまざまな調査結果を示しながらこう切り出した(図1)。加えて、「当社でも今、業務アプリケーション向けのAI機能(生成AIおよびAIエージェント)が300に達する中で、人事管理向けが最多となっている」と、人事管理とAIの関係性について述べた。


 では今回、OracleはOracle Fusion Cloud HCMにAIエージェントを追加したことで、具体的に何を強化したのか。


 矢部氏は、「卓越したエクスペリエンスでワークフォースを強化」「異動や成長へ向けてスキルアップ」「トップ人材をひき付け、リテンション」「リーダーやマネジャーを強化」「ビジネスの俊敏性と最適化を促進」の5つを挙げ、それらを踏まえて「将来を担う従業員に向けた強化」であることを強調した(図2)。


 図3は、Oracle Fusion Cloud HCMに組み込まれて稼働しているAI機能の一覧だ。日本語を含む30言語に対応している。


 図3の見方としては、左側に従業員やマネージャーなど「対象者」、上側に採用から従業員ライフサイクルまでの一連の「業務」が記されており、それぞれの組み合わせに応じたAI機能がプロットされている。こうした一覧をサラリと見せるところに、Oracleのこの分野における自信と意気込みが感じられる。


 矢部氏によると、Oracle Fusion Cloud HCMには100以上のAI機能が提供されている。さらに今回、図4に示すように、3つの領域において13のAIエージェントが追加された。


●「人の評価」にどこまでAIを使えるのか


 では、図3に示されたAI機能を使うと、実際にどのようなことができるようになるのか。矢部氏は図3の中から、人的資本経営で注目されている「キャリア・スキル開発」と、AI機能によって生産性と質の向上が期待できる「目標管理・評価」を取り上げて説明した。


 図5はキャリア・スキル開発を進める上で上段に従来、下段にOracle Fusion Cloud HCMでの対応を示したものだ。


 例えば、キャリア・能力開発に関する登録では、従来だと「何を登録すべきか分からない」「登録するメリットが不明」といった課題があった。これに対し、Oracle Fusion Cloud HCMでは「所持するスキルや職務経歴から取得すべきスキルをAIが推奨」「グローバル共通のジョブタイトルやスキルを提供」といった解決策を示してくれる。


 矢部氏はキャリア・スキル開発へのAI活用について、「こうした形で従業員が自律的に今後の自らのキャリアをポジティブに考えていこうといったところに効果が期待できる。一方、マネジメントサイドはキャリアやスキルと業務などを全てひも付けて把握できるのでギャップを解消できる」との見方を示した。


 図6は目標管理・評価を進める上で、図5と同じ形で示したものだ。


 例えば、具体的な目標設定では、従来だと「何を設定すればいいか分からない」「結果として毎年同じKPI(重要業績評価指数)を設定している」形だったが、Oracle Fusion Cloud HCMでは「具体的なKPIをAIが作成」「AIが作成したKPIを参考にして目標を定義することが可能」といった解決策を示してくれる。


 また、自己評価では、従来だと「自己評価を上司が理解していない」「自己評価を入力するモチベーションが低い」といった課題があったが、Oracle Fusion Cloud HCMでは「評価時にAIが自己評価内容を把握することを理解している」「自己評価が評価にひも付くことを理解しているため、モチベーションアップにつながる」といった解決策を示してくれる。つまりは「自己評価をAIが理解してくれている」ということだ。


 さらに、上司評価では、「時間がないため、画一的な評価に至っている」「評価者のレベルにバラツキがある」といった課題があったが、Oracle Fusion Cloud HCMでは「360度評価や1to1コメントを踏まえてAIが評価コメントを作成」「AIを活用することで生産性や評価品質向上につながる」といった解決策を示してくれる。


 矢部氏は目標管理・評価へのAI活用について、「時間を節約できる上、正しいデータにアクセスすることで評価の質を上げ、従業員エンゲージメントを向上させて成長につなげることができる」との見方を示した。


 図7は、中山氏が「Oracle Fusion Cloud HCMによる包括的なイノベーション」と銘打って示したソリューションの全体像と特徴を記したものだ。この図の説明を終えた後、同氏は改めて人事管理について、「私たちは人を評価する上でのコミュニケーションがあまり得意ではない。そこをAIが補完することにより、よりスムーズな組織運営や仕事の進め方が図れるようになるのではないか」と述べた。


 この中山氏のコメントを受けて、冒頭にも触れた筆者の問題意識を改めて述べると、人事において「人を評価する」ところに、どこまでAIを使えるのか。そもそも使っていいのかだ。


 筆者は人事の専門家ではないので、あくまでもこれまでの取材を通じて得た見解を述べると、人事は企業それぞれのマネジメントとしての「意図」を明確に示すべきだと考える。それはAIにも組み込まれるだろうが、肝心なところでは経営者やマネージャーが前面に出るべきだ。なぜかといえば、「強い人事の根本は信頼」と考えるからだ。その意味で、テクノロジーは正確さにおいて信頼できるが、確固たる思いによって組織に信頼を根付かせることができるのは、人だけだ。


 少々情緒的かもしれないが、そんな見方を会見の質疑応答でぶつけてみたところ、中山氏は次のように答えた。


 「重要なところで人が意図を介在させる仕組みになっているので、AIに全て委ねる形にはならない。むしろ、人が適切に評価できるようにAIで人事管理の質とスピードを上げられる点で効果は非常に大きいと考えている」


 筆者はこれまで取材を通じて、リスペクトする幾人かの経営者から「人事を生かしてこそ経営。テクノロジーはそれをサポートするものとして使うべき」との話を聞いてきた。今回話を聞いたOracleの方向性も同じだと受け止めた。


 ただ、「AI CEO」や「AI大臣」も出現する中で、「人同士の信頼」の重要性が軽んじられるようになっていくのではないかと危惧する。それを踏まえて、人事管理とAIの相性も注意深く見ていくべきである。


(注1)オラクルのAIエージェントが、人事リーダーによる従業員の生産性向上とパフォーマンス管理の取り組みを支援(日本オラクル)


○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。



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