「緩める理由はなかった」予選最速からクラッシュでタイム抹消の岩佐歩夢。“号泣少年”へ見せた優しさ/SF第9戦

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2025年10月11日 23:40  AUTOSPORT web

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予選Q2でクラッシュし、赤旗原因となった岩佐歩夢(TEAM MUGEN)
 10月11日、雨模様の1日となった富士スピードウェイでの2025全日本スーパーフォーミュラ選手権第9戦。予選Q1から抜群の速さをみせていた岩佐歩夢(TEAM MUGEN)だが、Q2でベストタイムを記録した直後にクラッシュ。好結果を狙えたはずの1戦が、一転して最後尾スタートとなり、21位でレースを終えた。

 富士でのウエットコンディションは初経験だったという岩佐。事前にチームメイトの野尻智紀からもコース上に川ができやすいポイントなどをあらかじめ聞いてセッションに臨んだ。

 予選Q1Bグループでは1分31秒884でトップタイムを記録すると、Q2でも一時はライバルに0.7秒以上の差をつける1分33秒196をマーク。その他のドライバーもタイムを更新していたが、岩佐が頭ひとつ抜け出ている状態だった。ベストタイムを出した次の周の100Rでスピンを喫してタイヤバリアにクラッシュ。赤旗の原因を作ったとしてQ2のタイムは抹消され、12番手に終わった。

 ちょうどコカ・コーラコーナーを立ち上がったところに川ができやすいポイントがあるが、そこで岩佐は挙動を乱してしまったようだ。

「雨の富士を走るのは今日が初めてで、川のでき方に対して、どういうふうに走らせるのが一番セーフティなのか……そういった細かいところに関しては、経験不足なところは正直あると思います。けど、その中でも他の選手はコントロールしていますし、そのあたりの駆け引きというところに対しては、自分の反省点なのかなと思います」と岩佐。

 川ができるポイントについては把握していたようだが「どんどんコンディションが変化していくなかで、1周前は余裕で通れていたラインが通れなくなっていました」と、わずか1周で状況が大きく変わっていた模様だ。

「雨量は増えていましたし、ターン3(コカ・コーラコーナー)でも雨量は増えていましたけど、グリップ自体は変わっていなかったです。ただ、川ができやすい場所の変化が急激だったという印象です」と振り返った。

 雨量が多くなっていたことを考えると、最終盤でのタイム更新は難しい状況ではあったが、岩佐は攻めることを選んだという。

「あそこでマージンを取ったり、アタックを止めるというのは簡単にできた話かもしれないですけど、雨量が増えているとはいえ、みんなのラップタイムは上がっていったので、あそこで緩める理由はなかったのかなと思います」

「単純に攻めた結果ですし、自分がマージンをどれだけとれるかという話で、その辺のバランスの取り方を単純にミスしただけでした」


■日曜の第10戦は「ダメージリミテーションになる」と小池エンジニア

 一方、ピットでは小池智彦エンジニアが、逐一タイムなどの状況を伝えていたとのこと。

「ここはストレートが長いので、基本的にストレートで情報を伝えていました。雨が強くなってきていたことは分かっていましたし、最後の1周はタイム更新できないだろうなと、他のドライバーも含めて全員わかっていたので、そこをアタックする必要はなかったといえばなかったかもしれません」と小池エンジニア。

「アタックを止めるという選択肢もあって、自分も悩みましたけど、最後まで攻めなかったらレースじゃないので。しょうがないです」

「個人的にはウエットセットを苦手としていたなかで、この富士では周りに対して差をつけることができたと思っています。レースも22番手スタートでしたけど、フルディスタンスでやれていれば、表彰台までいけるかなという手応えはありました」と小池エンジニアが語るほど、今回の15号車はポテンシャルがあるようだったが、問題は決勝までにマシンの修復が間に合うかということだった。

 今大会は2レース開催ということで、決勝前のレコノサンスラップが始まるまで、約3時間弱しかなかった。

 田中洋克監督に聞くと、前後のウイングに、左側のサスペンションアーム類、フロアに加えて、エンジンにまでダメージが及んでおり、急きょエンジン交換を行うことに。これにより10グリッド降格ペナルティを受け、22番手スタートになることが決まった。

「私も『(決勝までに間に合わせるのは)厳しいかな』って思ったんですけど、3時間インターバルがあったので、とりあえず形にはなるかなと思っていました」と田中監督。

「正直、あの状況を見た時に『レコノサンスには間に合わないかもしれないから、いきなりピットスタートになっても良いよ』ということは伝えました。でも、みんながレコノサンスで1回確認したいという想いが強くて……メカニックたちがよく頑張ってくれました」

 直前まで作業を続け、16号車のメンバーも数名手伝って、まさにチーム総出で修復。何とかレコノサンスラップには間に合ったが、チェックラップを終えるとピットに戻り、再び作業に入った。

 少しでも万全な状態にしてレースを戦うという意味では、ベストな選択を採れた。しかし、ピットレーンスタートを選択したことで、思わぬハプニングも生まれた。職業体験プログラム『アウト・オブ・キッザニア』のグリッドボード体験で、22番グリッドを担当した男の子が、自分のグリッドにだけマシンが来なかったことが悲しくて号泣してしまったのだ。居合わせたJRPのスタッフが機転を効かせて、15号車のピットガレージ前へ案内した。

「せっかく楽しみにして来てくれていたと思いますし、すごく申し訳という気持ちは強かったですね。僕も同じ立場だったら、多分同じようになっていただろうなと思うので……」と岩佐。自身もレースに向けた準備があるなか、ずっと泣き続けている子どものそばに笑顔で寄り添い続け、最後には記念写真にも応じていた。

「ピットレーンスタートで走れそうというのは分かっていたので『良い走りするから見ててね!』と話しました。今日はレースができなかったですけど、明日であったり、今後のレースやイベントの機会に参加してもらいたいと思います。そうでなくても、また良い走りをみせて、また喜んでもらえたらなと思います」

 レースはセーフティカー先導状態が続き、2度目の赤旗で途中終了。岩佐は21位となった。

 第10戦に関しては、ドライコンディションになる予報で、そこに向けては岩佐は「金曜のフィーリングで言うと、トップ周辺にはいますけど、今日の雨のような頭ひとつ抜け出るようなパフォーマンスはまだないので、まずは金曜日の振り返りも含めて、明日に向けて準備を進めていきたいです。今日のことを考えても仕方がないので、明日やり返すしかないです」と、決意を新たにしていた。

 だが、マシンに関してはクラッシュをしてパーツ交換をした影響は少なからずあることも事実。

 小池エンジニアは「サーキットで直すという精度では、すごく高いレベルで作業できました。ですが、やっぱり工場でやるのとは訳が違います。例えば、工場にある定盤を使ってすべて測定してやっているようなことは、サーキットに持ってきている簡易定盤では完全に再現できません。明日もクルマとしては完璧な状態には持ってこれないと思うので、ダメージリミテーションになるかなと思います」と、冷静に現状を分析。

「ドライのパフォーマンスはそんなに高くなかったのかなと思っているので、(第10戦では)表彰台がとれればいいなと。チャンピオン争いに関しては、坪井選手に離されないようにしたいなと思います」と語った。

 第9戦を終えて、トップの坪井と岩佐の差は14.5ポイントに広がり、第10戦でこれ以上広げられると、逆転王座が厳しくなる。それだけに、12日の第10戦は勝負の1戦になるかもしれない。

[オートスポーツweb 2025年10月11日]

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