画像:株式会社TBSラジオ プレスリリースより(PRTIMES)そもそも、鉄道の駅は何のために存在しているのでしょうか?改めて考えさせられるニュースがありました。
◆突然のメロディ中止、その理由とは?
10月1日から東京、上野、大宮の新幹線ホームの発車メロディとして国民的アイドルグループ「SixTONES」の新曲「Shine with U」が流れていましたが、JR東日本が10月10日に使用の中止を発表しました。
理由は、駅に集まった一部の人間による迷惑行為です。ホーム上で集音マイクを使って録音しようとする行為が高圧電流に触れる恐れがあり、安全面での懸念が生じたため、もともとの発車メロディに戻すとJRは説明しています。
この迷惑行為が“音鉄”によるものか、それとも熱狂的なSixTONESファンによるものかはわからないとのことですが、新幹線での東北旅行を盛り上げるキャンペーンに水を差した格好です。
まず、他の利用客を顧みずにこのような行動をしてしまう一部の人たちが非難されるべきなのは言うまでもありません。今回の中止に至った本質的な原因も、まさにそうした一部の利用者のマナー違反であり、鉄道会社やアーティスト、そしてコラボ企画そのものに責任があるわけではありません。そしてもちろん、SixTONESや彼らの楽曲自体にも、何の罪もありません。
◆「Shine with U」に感じる違和感の正体
しかし、その上で、社会的・経済的に重要なインフラを担う鉄道の駅で例外的な発車メロディを流すことの是非は問われて然るべきでしょう。
では、SixTONESの曲を発車メロディに使用することのどこに違和感があるのでしょうか?
新幹線とアイドルのコラボで思い出されるのは、何と言ってもTOKIOの「AMBITIOUS JAPAN!」です。2003年から2023年までの20年間、新幹線のシンボルとして愛されてきました。
この曲が「Shine with U」と違う点は、何よりも新幹線そのものを際立たせたことです。
「AMBITIOUS JAPAN!」はTOKIOが主役なのではなく、新しい時代の新幹線にふさわしいコンセプトを打ち出すためのプロジェクトのひとつとして作られました。だから、作詞:なかにし礼、作曲:筒美京平という、日本の歌謡界を代表する作家が彼らのプライドにかけて取り組んだのです。
一方、「Shine with U」はSixTONESの新曲という性格の方が強い。より商業的な意味合いが色濃く、SixTONESの人気、知名度に期待してタイアップした側面もあるでしょう。となると、録音をして動画にアップすれば大バズりできると考える人たちも当然出てきます。
だから、音鉄や熱狂的なファンたちが承認欲求を満たすためのネタとなってしまったのです。
もちろん、そうした反応すべてが悪いわけではありませんし、コラボそのものが問題だったとも言い切れません。悪いのは、公共の場でのルールやマナーを無視して、結果的に多くの人に迷惑をかけ、安全面の問題を引き起こした一部の行為者であるという点は、強調しておくべきです。
◆ご当地メロディが持つ文脈性
次に、日本独自の“ご当地メロディ”の文化から考えます。
蒲田駅の蒲田行進曲、高田馬場駅の鉄腕アトム、そして最近では米子駅でのOfficial髭男dismの「Pretender」などが有名です。どれも駅のある都市の土地柄、歴史、文化的な文脈から採用されている音楽です。つまり、その駅で流れる明確な理由がある音楽なのです。
SixTONESのキャンペーンは、この条件に当てはまりません。ポップアップイベントのような方法で集客効果を狙うということは、短期間で急速に消費されてしまうことも意味します。なので、どれだけ合理的であっても人の集まり方に風情がなくなり、危険行為や迷惑行為を平気で行う人たちも混じってしまう。
結果、今回のようにSixTONESとJRの双方にとって不幸な結果を招いてしまったのです。
以上を踏まえて感じることは、鉄道の駅はもっと落ち着いた場所であってほしいということです。キャンペーンを盛り上げることも大事なことです。
でも、それ以上に、様々な人生を抱えた多種多様な人たちが静かに交差する公共空間としての駅を愛する人も少なからずいると思うのです。
<文/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4