画像提供:マイナビニュースAlphaDrive(アルファドライブ)の代表取締役社長 兼 CEO・麻生要一氏の新刊『新規事業の経営論 100億超の事業をつくる18のシステム』(東洋経済新報社)が10月29日に発売される。同書の発売に先駆け、10月8日に東銀座・マイナビPLACEでメディア限定の特別懇話会が開かれた
本稿では、アルファドライブが支援してきた企業の取り組み、同イベントで開催された、早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄氏と麻生氏のクロストークについて紹介する。
日本を本当の意味で再生する、それが創業の狙い
アルファドライブは新規事業支援のリーディングカンパニーとして、新規事業開発の仕組みづくりから立ち上げまで一気通貫の伴走支援を提供している。これまでに260社・26都道府県と協働し、社内起業家育成と制度設計を支える取り組みを続けてきた。
麻生氏は、アルファドライブを「イノベーション領域におけるCPUのような存在になりたい」と表現する。CPUのように外からは見えにくくても、内側で全体を動かす中核として機能する、そんな企業でありたいという思いだ。
「利益ではなく、日本という国を本当の意味で再生したい。そのためにアルファドライブを創った」と麻生氏は語る。
かつて日本には、ソニーのウォークマンやホンダのスーパーカブといった世界に誇れるイノベーションがあった。30〜40年前、この国は“最も憧れられるイノベーション大国"だった。麻生氏は「日本経済の、この急速な衰退が許せなかった。もう一度あの時代の輝きを取り戻したい」と強い思いを語った。
アルファドライブは社内起業家の活性化をするということを大きなポイントとしており、メンバーは全員が「ゼロから事業を立ち上げ、成長させた経験を持つ実践者」で構成されている。現在は5つの法人と4つの地域拠点、8つの機能組織を有し、それぞれが役割を担い連携しながら、クライアント企業の新規事業創出を支えている。
アルファドライブが実現している大企業イノベーションとは
続いて、アルファドライブが実際に支援してきた大企業イノベーションの事例が紹介された。
代表的な成果の一つが、トヨタ自動車と共同で構築した新規事業推進プログラム「BE CREATION」だ。社内の新規事業提案を評価・投資判断し、人材・資金をアサインして支援する仕組みで、アルファドライブが設計から運用までを担っている。現在、トヨタではこの仕組みを通じて数多くの新規事業が誕生している。
その中の一例が「DRIVE RECORDER 119」だ。消防の通報を受けた際に、近隣を走行する車両のドライブレコーダー映像をリアルタイムで確認し、火災発生場所を早期特定するという新しいソリューションである。
また、キリンホールディングスとは、薬局向けAI需要予測サービス「premedi(プリメディ)」に取り組んだという。これは数千店舗の販売データをもとに、AIが「この薬をどのくらい置くべきか」を予測するもので、在庫の最適化を実現した。このサービスは、2025年の新規事業大賞を受賞している。
こうした大企業との協働事例が公に紹介できるようになったことを「とても誇らしい」と麻生氏は語った。
さらに、2025年からは海外展開も始まった。韓国のSynapse International社と戦略的提携を結び、日本と韓国それぞれの国内イノベーションを、相互の市場に向けて輸出・輸入している。第一弾として、韓国初の“都市緑化ソリューション"を日本に展開するプロジェクトが今年7月より始動している。
入山章栄氏と麻生要一氏が語った「理論×実践の徹底議論」
懇話会の最後には、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏を迎え、「理論×実践の徹底議論」と題したクロストークが行われた。
最初の話題は、新規事業を支える「経営の体制」だ。麻生氏によると、7〜8年前までは「新規事業を生み出せない」ことが課題だったが、最近では「生まれるようになったものの、なぜやっているのかが経営層に見えていない」といったケースが増えているという。
現場が挑戦しても、経営側に受け取る準備がなければ新規事業は育たない。経営陣の意思決定の枠組みやリスク許容度をどう設計するかが、新規事業成長の前提になると麻生氏は語った。
入山氏も、「社内起業家だけの責任ではなく、経営がどう支えるかが本質」と応じた。日本企業では社長の任期が数年単位に固定されており、10年先を見据えた投資が難しい。同氏は「長期任期の社長を擁する企業では、新規事業が継続的に生まれている」と述べ、任期制度が構造的な制約になっている現実を指摘した。また、経営が長期的な視点で新規事業を支えるには、ガバナンスの仕組み、特に社外取締役の果たす役割が重要だと指摘した。
対談の締めくくりでは、日本のイノベーションを巡る課題と未来について意見が交わされた。
入山氏は「経営と人事が変わることが次の段階。CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)だけでなくM&A(企業の合併・買収)が重要になる。大企業はスタートアップを積極的に買収し、起業家が連続起業家として活躍する流れをつくるべき」と展望を述べた。
一方、麻生氏は「対談で足りなかったパーツが埋まった。まさに目が開かれる思い。対談を通じて、社外取締役の重要性や経営者の任期といった構造的な課題に改めて気づかされました」と振り返った。
最後に、入山氏は笑顔で「イノベーション社外取締役道場みたいなものを、ぜひ麻生さんにやってほしい」と呼びかけ、麻生氏も「この会話自体が新しいプロジェクトの種になりそうですね」と応じ、会場は温かな笑いに包まれた。(小野口 輝紀)