画像提供:マイナビニュース国土交通省は、都市部の高齢者住宅を子育て向け住宅に再生させるモデル事業を、来年開始すると発表しました。増加する空き家の抑制と、住宅取得困難の解消を目的としています。この記事では事業の概要やメリット、懸念されているポイントを解説します。
国土交通省の「住宅再生モデル事業」とは?
来年開始するこちらの事業の概要を、わかりやすく解説します。
○リフォーム費用を補助する制度
高齢世帯の住宅を対象に、国がリフォーム費用を補助し、子育て世帯向け住宅や施設に再生させることを目的とした制度です。85歳以上の人だけが住む住宅、住み替え・老人ホームなど施設入居で空き家になる予定の住宅が対象となっています。
1950年〜1970年代の高度経済成長期に整備された住宅地が対象で、物件の所有者・購入者が、国の補助を利用して内外装のリフォームを実施します。
○空き家対策の一環
総務省の統計によると、放置されている状態の空き家は全国で増加傾向にあり、2023年は過去最多の385万戸を記録しました。都市部を中心に、今後も空き家が急増する恐れがあります。
空き家を放置することには、建物の崩壊、治安の悪化、近隣住民とのトラブル、周辺環境の悪化といったリスクがあります。空き家の増加を抑制することは、今後の社会の維持にとって非常に重要な課題です。
○住宅取得困難者への支援
建築費用の高騰により、子育て世帯が住宅を取得しづらい現状があります。特に東京や大阪といった都市部は物件価格の高騰が顕著です。
一方、築年数が古い高齢者の住宅は立地が便利なケースもあるものの、設備や間取りなどが若い世代の需要に合わず、敬遠されることも多いです。
再生事業により、空き家対策だけでなく、子育て世帯が住宅を取得する困難さを緩和することも目的としています。子育てをするうえでの安全性や断熱機能などを高め、現代的な住宅に改修することにより、子育て世帯の住宅支援になります。
国土交通省は今回の事業費として数億円を、来年度の概算要求に盛り込んでいます。
○改修した住宅の使い道
改修した住宅は、現役世代・子育て世帯向けの住宅にするほか、託児所・子育て支援施設・ワークスペースなどに活用することが想定されています。
子育てのノウハウがまだそれほど多くない若い方にとって、同じく悩みを抱える親とのコミュニケーションや、経験者からのアドバイスは貴重であり、これらの施設も子育てを後押しすることになります。
リフォーム事業には懸念点も多い
メリットが多そうに見える事業ではありますが、複数の懸念点もあり、事業を適切に運営することは簡単ではありません。
○住宅ローンが借りられないリスク
築年数が古い物件、特に一戸建ての場合、住宅ローンの審査は通りにくい傾向です。建物には耐用年数があり、古いと価値が低く算定されるため、住宅ローンを借りられない可能性が高くなります。
一部の金融機関では、返済期間を建物の「残存耐用年数」を上限とするケースがあります。残存年数が少なくなると、希望する長期のローンを利用できない可能性があるのです。
○耐震基準チェックの費用が無駄金になる可能性
住宅ローンを組む前に、耐震診断などを受けるために数十万円のお金が必要になります。あとで住宅ローンが借りられないとなると、せっかくかけたお金が無駄になってしまうのです。
○改修費用は高額になる可能性
近年は工事費用が高騰しており、改修費用は高額になる可能性もあります。どの程度の額を補助するかによって事業の効果が変動し、補助の割合が低いと効果も限定的です。
現役世代のニーズに対してどこまで応えられるのか、今後の制度設計や企画力も問われることになります。
まとめ
高齢者の住宅を子育て世帯向けの住宅に改修し、リフォーム費用を補助する制度が始まります。都市部の空き家対策と子育て世帯の住宅取得の推進の両方を目的としており、今後が注目されます。
ただし、住宅ローンを利用できないリスク、改修費用の高騰などのリスクといった懸念点も複数あります。事業が円滑に運営され、十分な効果を生み出すには、一筋縄ではいかないでしょう。
安藤真一郎 あんどうしんいちろう マーケティング会社に勤務した後、フリーランスのライターに転身。 多種多様なジャンルの記事を執筆するなかで、金融リテラシーを高めることや情報発信の重要性に気づき、現在はマネー系ジャンルを中心に執筆している。 ライターとして、知識のない人でも理解しやすいよう、かみくだいた文章にすることが信条。 ファイナンシャルプランニング技能士2級、日商簿記検定2級取得。 この著者の記事一覧はこちら(安藤真一郎)