6年半も使い続けたPFUのドキュメントスキャナー「ScanSnap iX1500」に、特に不満はなかった。世代を重ねたPFUのスキャナーは、どのモデルを使っても基本的に完成度が高い。
改良版である「iX1600」をスキップした筆者だが、最新モデルのiX2500を使ってみて気付いたのは、自分がさまざまな「待ち時間」と「制約を回避する手順」に慣らされていたということだ。
起動時間/転送時間/給紙時間だけでなく設定のコツ、用紙ハンドリングのコツといったこまごまとしたことが無数にある。
これらの小さな使いこなしは無意識だから、大きな不満ではなかった。しかし、初めて使うなら話は別だろう。待機時間や細かな失敗が積み重なって、「スキャンは面倒」という無意識の印象を作るかもしれない。
|
|
しかし、iX2500を使い始めてみると、全ては自分自身の使いこなし、といえば聞こえはいいが、要は慣れていただけだったことになる。
●「3秒の差」が変えるルーティン
iX2500のスペック表を見ると、USB接続で利用する場合の起動時間は約2.9秒だ。iX1500の約6秒から半分以下になった。たった3秒ちょっとの差だが、感覚的には全く違う。
いずれも給紙カバーと電源が連動しているが、手がタッチパネルに届く頃にはもう使える。この「開けたら使える」感覚は、使い始めるまでの精神的なハードルを大きく下げる。
個人ユーザーの場合、この違いは普段のルーティンを変えてくれる。帰宅したら、すぐにレシートや領収書をスキャンする。受け取った資料もその場でスキャン。iX1500では「後でまとめて」となりがちだった作業が、「今すぐ」に変わる。
|
|
無線LANのWi-Fi 5からWi-Fi 6への進化も、数字以上の価値がある。実測で10枚の両面PDF(約25MB)の転送が15秒から7秒に短縮した。当然だが、枚数が増えればこの時間は長くなる。
導入場所のWi-Fi規格次第だが、いずれ置き変わると考えれば無視できない。
加えて、5型に大型化したタッチパネルが静電容量式に変わり、操作フィールが大きく上がった点も、使い始めるまでのハードルを下げる要因だ。
物理スキャンボタンの復活も歓迎したい。操作ミスは確実に減る。
●100枚トレイと45枚/分の相乗効果
|
|
読み取り速度の向上と給紙容量の倍増も、単純な数値以上の意味を持つ。
iX1500では毎分30枚で最大50枚、iX1600では毎分40枚で同じく50枚だったのに対し、iX2500は毎分45枚で100枚を一度に処理できる。
正直にいうなら、個人レベルでここまでの速度が必要なことは多くはない。早いことは正義だが、個人的にそのスループット向上で買い換えることはないだろう。しかし、同時にセットできる枚数の倍増は大きい。
50枚を超える書類はそれなりにある。このセットを2回に分けるかどうかは、使いやすさに大きな違いをもたらす。この改良がなければ、毎分45枚の速度アップもあまり効果を発揮しなかっただろう。
また、細かな違いだがレシートや名刺用のガイドトレイが改良され、脱着が容易になっている。ガイドレールの設計そのものも細かな調整で使いやすくなっていることも報告しておきたい。
●トラブルを未然に防ぐ傾き検知機能
これまでも超音波センサーで重送、すなわち書類の重なりを検知する機能はあった。
iX2500はこのセンサーに加え、原稿の斜行を検出する機能が追加された。この機能はスキャン後に、斜めの映像を補正するものではない。斜めに書類が入った瞬間に検知し、紙送りが停止される。
よくあるのがロール紙に印刷されたレシートのトラブルだ。クシャクシャになったり、最悪はレシートが破れたりすることもある。
何度かレシートを斜めに差し込んでテストしたところ、ローラーに巻き込まれる前に「原稿の傾きを検知しました」と停止した。高速化に伴い、給紙トラブルは破れなど原稿のダメージに繋がりやすいが、この配慮のおかげで安心して利用できる。
古く消えかけている薄い感熱紙や古い写真など、大切な原稿を扱う際には特に安心だ。さまざまな紙質の書類を分類せずに一緒にスキャンすることも、気を使わずにできる。
●場所を選ばないスキャンを実現する新ソフトウェア
とはいえ、使い込んでいるとハードウェアの順当な改善もさることながら、連携するソフトウェアやネットワークサービスの充実の方が大きな改良であるのに加え、長く使っていく上で今後のアップデートを期待させるものに仕上がっている、と感じるようになる。
最も大きな変化は、スキャン設定のプロファイルが、PFUがネット上で管理するユーザーアカウントに保存されるようになることだ。機器にひもづくわけではないため、どのiX2500でも”自分設定”のスキャナーになってくれる。
プロファイルには、どんな文書をどのような設定で、どこに保存するか。どんなアプリケーションやネットワークサービスと連携するか? などが保存されているので、使い込むほどに重要になってくる。
例えば、自宅で作成した「領収書→Dropbox/OCR」「写真→iCloud/600dpi」といったプロファイルを、オフィスのiX2500でもそのまま使える。会社のスキャナーが同じということは少ないかもしれないが、PFUは今後、レンタルのコワーキングスペースなど、さまざまな環境での共有スキャナーとして、この製品を売り込んでいくつもりのようだ。
圧倒的にナンバーワンのシェアを持つ同社のドキュメントスキャナーだけに、自分専用のスキャナーを持ち歩いているように使える環境が、そう遠くないうちに整っていくだろう。
これらと同時に、クラウドサービスとの連携も大幅に強化されている。
新たにMicrosoft Teams/SharePoint/OneNote/Notion/iCloudへの直接アップロードが可能になり、従来から対応していたDropbox/Google Drive/Evernote/OneDriveと合わせ、主要なクラウドサービスをほぼ網羅する形になった。
特にビジネスシーンでのTeamsとSharePointへの対応は大きな意味がある。
会議資料をスキャンして即座にTeamsのチャネルに投稿したり、契約書をSharePointの部門フォルダーに直接保存したりできる。PCを介さない直接連携により、ワークフローが大幅に簡素化可能だ。もちろん、そうした設定は自分だけのものとして持ち歩ける。
●実用性を大きく増したモバイルアプリ
連携ソフトであるScanSnap Homeモバイル版の機能強化も抜かりはない。
検索可能なPDFの生成、つまりOCR機能がスマートフォン単体で可能になり、スマホで名刺をスキャンすると、すぐに検出した電話番号に発信といったことも行える。
昨今はモバイル中心にワークフローが構築されることも増えてきているが、そういったワークフローの中にスキャナーを効果的に組み込めるだろう。
今後のアップデートでは、複数デバイスでスキャンした書類をクラウド経由で同期する機能も追加される見込みだ。また10月15日からモバイル版ScanSnap HomeがChromebookで利用できるようになったので、教育現場での用途が広がる。
モバイルアプリでの機能制限はほぼなく、スキャンプロファイルの設定もここから選んでNFC連携でタッチするだけ。実用性は大きく向上する。
ただし、これまで提供されてきたScanSnap Cloudの提供が今後終了する予定だ。このアプリには内蔵カメラを用いた書類スキャン機能があるが、現時点でScanSnap Homeにこの機能は組み込まれていない。将来的な統合の時に、カメラを用いた出先でのスキャン機能が加わると、より万能性が高まるはずだ。
しかし、これまでも同社は継続してソフトウェアやクラウドの強化をはかり、購入後も製品価値を向上させる方針を貫いてきただけに、モバイルアプリの更なる洗練に期待したい。
●インボイス対応でスキャン用途の増えた小規模事業者には最適
シェアオフィスやコワーキングスペースなどでの利便性が大きく向上した本機だが、やはり最も効果的に使いこなせる場所は、小規模事業者や個人オフィスではないだろうか。筆者自身、インボイス制度への対応のために、スキャンする機会が大幅に増加し、しかもそのニーズが定着している。
領収書や請求書の保管が義務化されたこともあるが、会計/税務を委託している業者との連絡などに活躍してくれている。クラウド連動しているため、会計業務で連動する事務所と共有するネットストレージに、自動的に必要書類がたまるよう設定している。
iX2500の性能向上も魅力だが、クラウドとの連動性の高さはそれ以上に製品の運用性を高める。
ただし、アナウンスされている機能のうち、いくつかはまだ実装されておらず、またその中にはNASへの自動保存など”予定が未定”の要素もある。2025年内にはそろう予定であろうし、ScanSnap Homeの充実で廃止される見込みのアプリ機能統合も、具体的なメッセージがもっと欲しいところだ。
ちなみに、7月にはiX2500とPCやその他のデバイスを接続している間のみタッチパネルにアイコン(プロファイル)を反映させる「プライバシーモード」が追加された。また、10月15日にはネットワークフォルダーへPCレスでの直接保存に対応したり、プロファイルの並び替えや、モバイル版ScanSnap Home利用時もタッチパネルからの設定変更に対応したり、Wi-Fiダイレクト接続モードをサポートしている。
そのような未知数の部分はあるものの、それでも筆者がこの製品を高く評価しているのは“これまでの実績と信頼”に他ならない。近年、特にiXシリーズになってからはネットワークサービスとアプリの拡充で、既存ユーザーも含めた機能、利便性の底上げに取り組む姿勢が強くなっていた。
新たに装備された100枚トレイにより、週次の処理を一気に行い、スキャン後はクラウド会計ソフトと自動連携し、AI活用で精度が向上したOCRは、自動での仕分けも的確に行える。在宅ワークが多い職種なら、なおさらだろう。
紙しか持っていない資料をスキャンしてTeamsに自動アップロードすれば、会議開始時にはメンバー全員が資料を確認できる状態にしておけるし、SharePointへの自動アップロードで自動化できるワークフローも多いはずだ。
共用デバイスとしてオフィスで使う場合は、誤った保存先への送信リスクがなく、情報セキュリティの観点からも安心だ。新人でも5分の説明で使いこなせるだろう。
●定番ブランドが作った新しい定番
日本でドキュメントスキャナーを使う場合、パーソナル、あるいは小規模事業者や部署単位での導入を考えた際に、おそらくPFU以外の製品をわざわざ選ぶ必要はない。もちろん、大型の複合機などとは比較できないが、個人に近いレベルのスキャナーとしてはライバルがいない。
いわば定番製品だが、その定番製品が起動の速さ、スキャンの速さ、転送の速さといった「待ち」を削ぎ落とし、新しい定番商品の基準になった印象だ。
15年連続シェアNo.1(BCN スキャナー部門)のScanSnapだけに当然とも言えるが、定番ならではと言えるのは、やはり連携するPC/スマホそれぞれのアプリに他ならない。
多くのユーザーが使う定番製品だからこそ、連携するソフトウェアや本体のファームウェアアップデートに投資でき、さらには各社クラウドサービスとのパートナーシップも広げることができる。
iX1500ユーザーの筆者も、この恩恵を少なからず受けてきたが、2世代分の進化は確実に体感できた。しかしハードウェアはいつか故障してしまうもの。初めてScanSnapを手にする人には、紙との新しい付き合い方が新鮮に感じるだろうが、既存ユーザーは慣れ親しんだ使い勝手の中に、さらなる洗練を感じることができると思う。
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。