
【写真】屋外撮影で引き出されたシブい表情に注目 モグライダー芝、撮りおろしショット
■「優しい人が損をする時代」になった今
――かなりしっかりと、自分を見つめて考えをつづったエッセイです。怖さや気恥ずかしさはありませんでしたか?
芝大輔(以下「芝」):ありましたよ。全然、ありました。もっとワケわかんないことをしようと思えばできたと思うんですけど、まあ、芸風や立ち位置的にも、別に俺にそれを求めてもいないだろうと思いますし。でもどれだけの人が俺の話をまともに聞きたいかと言われたら、それも不安ではありました。だけどまずは、一度ちゃんと“俺はこういう人なんですよ”と、知ってもらわないとなと。その一歩目としての意味はあるかなと思って、あまりふざけずにやってみようと決めてやりました。
――自己紹介の意味で書いていくうちに、自分自身にも新たな発見はありましたか?
芝:“老害だな、コイツ”と思いました(笑)。いいと思って読んでくれる人がいると信じてますけど。
――世の風潮への考えということでは、コンプライアンスやSNSについても言及していますが、今は世間の“目”を気にして、コンプラがどんどん厳しくなっている気がします。
芝:コンプラとかは、テレビの場合は単純にスポンサーさんがね、ダメといえばそうなんでしょうけど。どう考えても気にしすぎじゃない? みたいなところまで行ってるのも事実ですよね。このネタだとこの人が傷つく“かも”しれません、とかね。SNSで炎上したとかっていっても、たかが知れてるし。
――コンプラ問題にSNSの発展は、結びついていると思いますか?
芝:じゃないですかね。無視するわけにはいかないし。優しい人が損する気がします。正直、芸人なんてめちゃくちゃギャラも安い。あんなに憧れて、やっとテレビに出られるようになった。なのに、実際出られるようになったら全然違う世になっていた。正直、みんなが苦しくなっちゃってますよね。妙なタイミングに当たったなあと思ったりはしますよ。一回、この流れは終わらせないとダメかもしれませんね。
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――そうした厳しい話も出てきますが、先輩のTAIGAさんとのエピソードには特にジンと来ました。
芝:ちょっとよく書きすぎて後悔しました。
――(笑)。『M‐1』決勝戦前日に送られてきたメール文も感動しましたし、TAIGAさんの言う“幸せの価値観”も本当にステキだなと。芝さん自身も、“幸せ”をテーマに最終章で触れていますが、もし若者から「将来、幸せになりたいんですが、どうしたらいいですか?」と声をかけられたら何と答えますか?
芝:難しいですね。あまり幸せになりたいとは思わないことじゃないですか。そこに固執すると、だいたいのことが決まってきちゃうから。幸せって、たとえば180度の視界のギリギリ見えるか見えないかぐらいのところにあるようなモノじゃないかと思うんです。一概には言えないですけど、多分ずっとあるんですよ。だからあまり意識しないことです。のちのち、「これが幸せか」と気づくかもしれないし。
――なるほど。
芝:幸せっていうのも、あくまでひとつの単位だし、人によって、それが“笑うこと”だとか、いろいろですよね。
――それこそ芸人さんは、人が幸せを感じるポイントのひとつでもある“笑い”を提供しています。大きな話になってしまいますが、芝さんは、芸人とはどういう人たちでありたいと考えますか?
芝:たとえば、僕らは全国津々浦々、いろんな場所に営業に行きます。なかにはいくつかの事務所の合同で行くものがあるんですけど、ネタが全部終わってエンディングも終わったあとに、ハイタッチ会があるんです。
――来場者とのハイタッチ会ですか?
芝:一定金額以上のお買い物をしてくれた人に権利があるんですけど、舞台上に僕らが並んで「ありがとうございます」って言いながら手を出していると、お客さんがハイタッチしていくんです。
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芝:(芸人側は)ハイタッチって楽しいな、とはなかなかならない。流れ作業的なタッチにはなってしまいますけど、とはいえやっぱり削られるというか、持っていかれる感覚があったりするんです。
■芝が考える“芸能人の役割”「人々に元気玉を渡すこと」
――ハイタッチで持っていかれる感覚。なんとなく想像はできる気がします。
芝:芸能人を見て、「元気出ました」とかって声を聞くことがありましたけど、昔はいまいちピンと来てなかったんです。歌手の人は歌を歌って、役者さんはお芝居をやって、芸人は漫才なんかで笑ってもらったりする。そうしたものを見てみなさん「元気をもらいました」って。元気をもらうって? と思ってたんですけど。そうか、ある意味、みなさん元気玉みたいなものを受け取っていて、こちらは渡しているのか、と。
――見ている人たちに、あくまで幸せなエネルギーとしての元気玉を渡していると。
芝:アンパンマンじゃないけど、自分をちぎって分けてるんだなと。ハイタッチなんて、直に渡しているわけですからね。こっちが元気を持っていかれる感覚になるのは、ある意味、正しいんだなと。
――たしかに、疲れるのは正しいですね。
芝:それで喜んでもらえるんだったら。もちろん芸を披露するというのが最低限やることですけど、でもどちらかというと、人に元気玉を与えるというのが僕らの役割なのかなって。芸能界にはすごいエネルギーの人が多くて、「そんなんで持つの?」とか思ってたんです。でもそれって、大量に渡すものがあるってことなんですよね。
――本書でも、最初に「芸能人は体力オバケ」と書かれています。そこにも繋がりますね。
芝:そうなんですよ。結局、体力がないとダメだと思い始めたのも、そういうところなんです。
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芝:とはいえ、自分も40歳を超えて、たいして飯もたくさん食べるわけでもないんで、ガリガリにならないように気をつけます(笑)。
(取材・文:望月ふみ 写真:上野留加)
モグライダー・芝大輔エッセイ『煙太郎』は、KADOKAWAより発売中。