『星と月は天の穴』©️2025「星と月は天の穴」製作委員会 日本映画界を代表する脚本家・荒井晴彦が監督を務め、綾野剛が主演する『星と月は天の穴』。本作のヒロイン・紀子役の咲耶の意外な素顔に迫った。
本作は、吉行淳之介による芸術選奨文部大臣受賞作品の映画化。日本を代表する脚本家・荒井晴彦が監督を務め、『花腐し』(23)でもタッグを組んだ綾野剛が主人公の矢添克二を演じている。
荒井晴彦の脚本から導き出された俳優・綾野剛の真骨頂、その隣で堂々と輝く新星・咲耶はどんな人物なのか――。
主人公・矢添との運命的な出会いから、女性としての欲望に目覚め、開花していくヒロイン・紀子。次第に矢添を凌駕していき、彼の日常を大きく変えていくこの役は選考が難航した。本作で描かれる1969年という時代設定に説得力を持たせられる昭和の雰囲気、そして大胆なラブシーンに対する覚悟、存在感がなくては成立しない役柄だったからだ。
オーディションを重ね、人選にこだわり、クランクインが差し迫る中でオーディションにやってきたのが咲耶だった。「荒井さんは適役の人が現れた瞬間に直感的に決めている」と竹田正明助監督が語るように、この時も、荒井、そして制作陣が待ちわびていた“紀子”が現れた瞬間だった。オーディションでは、咲耶は全ての台詞を憶えていて、どの台詞をどう言うかプランニングして来ていたため、台本をただ読んで欲しいというオーディションに戸惑っている様子だったという。咲耶がどれほどこのオーディションのために準備してきたかを感じることができたと制作陣は語る。
一方咲耶はもともと、「純文学の登場人物になってみたい」「オールヌードありの作品に出てみたい」という強い願望があったという。いまの時代、そういった作品を制作されること自体が稀なため、「こんな理想的な形で実現するなんて」と彼女自身並々ならぬ思いでオーディションに挑み、見事に役を掴み取った。そして、60年代の映画や映像を観て、女性たちの言葉遣い、喋り方を研究し、一番参考にしたのは『卍』(64年/増村保造監督)の若尾文子だと明かす。
咲耶は2000年生まれ。父は吹越満、母は広田レオナといういわゆる芸能一家に生まれた。17歳の時、母の広田が監督した『お江戸のキャンディー2 ロワゾー・ドゥ・パラディ(天国の鳥)篇』でスクリーンデビューを果たしているが、彼女自身が本格的に俳優を志したのは「ここ3年くらいのこと」なのだという。
高校卒業後、「無職・フリーター」(本人談)の時期を経て、ディープテクノのDJをしていたこともある。2人ともに個性豊かで日本映画界にも大きな足跡を残してきた父と母からは役者になることを反対され、「あなたは役者ではなく作家になりなさい」と言われて育った彼女。中高生の時には書いた個性的な作文が教師の間で注目を浴び<文豪>というあだ名をつけられていたことも。さらには母の広田にも面白がられ、プロフィールを作るときに「特技:文豪」と書かれたと笑う。
耽美を好み、純文学を愛し、揺るぎない自分の価値観を持つ唯一無二の新星が、1969年をモノクロで映し出すスクリーンで、美しくも妖しい輝きを放っている。
本作の撮影が終わった後、監督の荒井に「あなたは今までどこにいたの? どうして今まで現れなかったの?」と言わしめた咲耶。完成した作品を見て、「初号試写で初めて大きなスクリーンで見た時、自分のフルヌードがスクリーンに映っているのに恥ずかしくなかった。そもそもカメラの前で脱ぐこと自体を恥ずかしいと思ってはいませんが、それを自分が客観的に見るとなれば、やっぱりちょっと恥ずかしさがあるのかなと思ったけど、全然そうじゃなかった。モノクロの画面で、現在とかけ離れた時代の世界を描いていて、しかも川上(皓市/撮影監督)さんが撮る画がものすごく綺麗で、荒井さんの書く脚本はとても文学的で。そういう全ての要素が合わさって、美しく撮っていただけたことが、すごく嬉しかったです」と語った。
『星と月は天の穴』は12月19日(金)よりテアトル新宿ほか全国にて公開。
(シネマカフェ編集部)