【インタビュー】山田裕貴×佐藤二朗 “全員野球”で挑んだ『爆弾』は色っぽく泣ける「とにかく面白い作品」に

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2025年10月27日 08:50  cinemacafe.net

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山田裕貴&佐藤二朗/photo:You Ishii
本インタビューが始まる前の撮影中、山田裕貴が佐藤二朗にふと尋ねた。映画『爆弾』で佐藤が演じた“スズキタゴサク”と名乗る男は、好きな役・やりたい役だったのか、と。佐藤は「これまでやってきた中でも、すごくやりたい役だったねえ」と即答した。その後、山田もインタビューで自身が演じた類家について、「僕とめっちゃ似ている」「一生忘れないだろう」とし、ほとばしる役への思いが口を突いて出た。今の日本映画界をけん引する二人が異口同音に特別な役だとする本作、その期待がうかがいしれる。

永井聡監督のもと、山田&佐藤と同じように高いエネルギーで集まった俳優・スタッフら、多くの要素がもたらした奇跡的なケミストリーの集合体である『爆弾』。スリルと興奮、サスペンスと感動、剥き出しになる人間の思いが入り混じり、大きなうねりをあげる。

劇中では、警視庁捜査一課・強行犯捜査係の刑事と謎の中年男として対峙し続けた両者。「とにかく面白い作品!」と胸を張る二人に、懸けた思いを単独インタビューした。

“スズキタゴサク”は
「何者かはわからない」

――『爆弾』で山田さんが演じた刑事の類家について。ご自身で考えたセリフかと思うようなシーンがいくつかあり、原作と照らし合わせましたがそのままだったので、とても驚きました。

山田:そうなんです。僕、(類家と)似ているんです。『爆弾』の岡田(翔太)プロデューサーとは、『東京リベンジャーズ』でもご一緒させていただいたんですけど、原作を知る前に岡田Pから「本当の山田くんは、類家だよね」と。そこから始まりました。

原作を読んで、世の中ではどうしようもできない問題が起きてしまうけれど、だからこそ類家が思う「刑事は人を助けようとする仕事だけど、全員は助けられない」と。現実をちゃんと受け止めた上で、今目の前にあるこれからの悪に対してはなんとか止めることができるという考えに「そうだよな」と共感しました。

――共感しながら、役を深めていったんですね。

山田:あくまでも僕の想像ですけど…類家は「ヒーローになりたいんだ」というところから、刑事になることを決めたと思うんです。子供の頃から頭が良すぎたことで人と話が合わず、そのまま成長して警察に入った。そこでも「なんでそんな動きをしてるの? 何やってんの、この警察の組織は」と思ったのかな、と。味方がいなくてもいいから、自分が振りかざす正義に対しては、純粋にまっすぐ自分の能力を使える場所で働こうとして、おそらく刑事という職業をまっとうしていると思うんです。

経緯や人生の歩み方は全然違ったかもしれないけれど、歪めてしまった世界が1回ぶっ壊れればいいのにと思ってしまうタゴちゃん(スズキタゴサク)の、その気持ちは分からなくもないと。そういった人が警察の中にいて踏みとどまって、どうにかうまい飯を食うことだけで「それでやってけるじゃん」と思っている。僕は類家をそう受け止めていました。

――佐藤さんは、そんな類家に迫るスズキタゴサクを演じました。スクリーンからも非常に圧を感じましたが、どのように向き合っていらしたんですか?

佐藤:答えにならないかもしれないけど、僕もいまだにね、スズキタゴサクが何者かはわからないんですよ。この作品は人間の善悪や命の重さを描いていて、すごく社会派な側面もあるけど、パキッとした答えは何一つ出ないんですよね。ちょっとグレーとでもいうか「こういうのを突きつけられる覚悟はあるか」と観た後、お客さんに十字架を背負わすような感覚もあって。何も考えないで白黒ついていて、笑って元気になって劇場を後にするという作品も芸能の力の一つだし、こうした答えがはっきり出ないところもエンタメの力の一つだと、僕は思っていて。

山田:そうですよね。

佐藤:繰り返し言っちゃうんですけど、僕自身もスズキタゴサクが謎の中年で、いまだに何者かよくわからないんです。ただ、ものすごく面白い作品だとは思っています。



まさに「全員野球」で挑んだ作品

――おっしゃるように、エンタメ性や娯楽性も高ければ、タゴサクに突き付けられるシリアスな要素もあり、一括りには表せられない魅力の詰まった作品です。完成作を観て、どのような気持ちになりましたか?

佐藤:とにかく、良かった!何より原作がね、ものすごい面白いんですよ。

山田:本当に面白いです。

佐藤:ある意味、暴力的なぐらい面白いんです。だからこそ、俺らが映画にしたときに面白さのスケールが小さくなってほしくない、と思っていて。…でもね、観ている途中から俺はうれしくてしょうがなくなったんです。面白さがエスカレートしていくし、突きつけられたり、切なくなったり、ちょっと泣きそうになったりもする。「これは面白いわ!!」と本当に自信を持って言えると思いました。

原作のものすごい面白さに見合う作品が、みんなの力でできました。永井監督、裕貴をはじめとした俳優陣、ここ(チラシ)に名前がない俳優陣、さらにエキストラの方も含め、「取り逃がすまい」という気迫みたいなものがあったんです。

山田:僕も二朗さんと全く同じ気持ちです。まずお話をいただいて原作を読んで、あまりに面白すぎて。映画化するにあたって、「これ、前後編ですよね? 2本やるんですよね?」と聞きました。「1本で」と答えが返ってきたとき、言葉を選ばなければ…「ふざけるな」と思ったんです。

佐藤:(笑)。

山田:責めているわけじゃなくて(笑)! これを1本でやろうなんて本当に大丈夫なのか、と。原作では呉(勝浩)先生からのタゴサクへの愛情、類家への愛情、もちろんほかのキャラクターへの愛情が、めちゃくちゃ感じられたので。人間ドラマとして、こんなにも緻密にキャラクターがブレることもなく描かれていて、物語も結末まで持っていけるのか。完璧なお話がそこにあったから、2時間超でやるのは…。

――まったく想像がつかなかった、と。

山田:本当に、そうなんです。さらには「何で…頭からいるの? やめてくれよ!」みたいな(苦笑)。もちろん映画は総合芸術なんですけど、僕はありえないプレッシャーの中、「うわぁ。もう撮影きちゃったよ!」と思っていました。しかも、"化け物"が目の前にいるんですよ。

佐藤:ふふふ。

山田:本当に素晴らしいお芝居をされる二朗さんがいて、皆さんがいて。ビビりながら「いや、でもなんとか俺頑張れ…!」という思いで日々立ち向かっていました。本当に個人的な話なんですけど、『木の上の軍隊』の撮影が終わった後すぐに『爆弾』に入って、その後『ベートーヴェン捏造』の撮影だったんです。準備期間が少なくて「ありえないんだけど!」と(笑)。

――今年公開の山田さんの主演作3本ですね!

山田:「この5ヶ月という短い期間で3作品の撮影をこなせたら、天才の所業でしかないぞ!?」と思っていました(笑)。そんな自分のことはさておき、先ほど二朗さんがおっしゃった通り、監督もスタッフさんもエキストラさん含め、本当に素晴らしかった。だからこそ、全力でおすすめできる作品が完成したと思えました。何回も言ってしまうけれど、本当に自分の力じゃなくて、皆さんのおかげで。

監督、スタッフさん、キャストをはじめ、みんなでこのタゴサクという化け物に対して立ち向かっていった作品なんです。だから撮影の途中で、「これ全員野球じゃん」とも思っていました。みんなが打って、みんなで守って、甲子園を見ているような感覚とでもいうか。

佐藤:あるある、俺も思った。言うならば、これは一人のおじさん(タゴサク)VS警察の話じゃないですか。(劇中で)渡部篤郎さんが言っていた通り、「例えるなら、みんな決勝戦の最後の大事な試合を戦っている」感じだった。本当に刑事さんたちみんな、すごーく色気があったんだよね。それは何が何でも仲間を守らなきゃいけないということもそうだし、何が何でも罪のない人間を守らなきゃいけない、そうでないと死ぬわけだから。そのちょっと悲壮なまでの覚悟を感じて、泣けてしまうくらいにものすごく伝わって。本当に皆さんが素晴らしいと思います。





“生涯ベスト”映画は?

――シネマカフェは映画媒体なのですが、お二人の「生涯ベスト」作品をぜひ教えてください。

佐藤:難しいよ〜、1本は選べないなあ〜。僕は『幸せの黄色いハンカチ』も、橋口(亮輔)さんの『ハッシュ!』も、『仁義なき戦い』も、もちろん『ゴッドファーザー』や『ダークナイト』とかも大好き。最近で言うと、「日本映画を観なきゃ」と思ったときがあったんです。日本アカデミー賞の席で、満島ひかりさんも綾野剛さんも安藤サクラさんも、みんなが日本映画を応援していることを、あの場で感じたので。それからは、俺ももっと観るようになりました。

少し前の作品なんですけど、『国宝』の李相日監督が撮った『怒り』を最近観ました。もう…ひっくり返るぐらいすごかったです。あとは、日本映画の先輩たちの映画も観ようと思って、『二百三高地』も観たら、丹波哲郎さんがすごくいいんです!ああ、いっぱい話しちゃった(笑)。つまり1本は無理です!

――ありがとうございます! 山田さんはいかがですか?

山田:僕も1本は難しいです。僕は小さい頃からヒーローになりたかったので、マーベルも好きだし、DCも好きだし、『七人の侍』や『十三人の刺客』も好きだし。観て「うわーっ!」となります。その中でも一番泣いたのが、『7番房の奇跡』という韓国の映画です。「いつかこの役やれたらいいな、日本版をやってくれないかな」と思っています。あとはディズニー・アニメーションの『ヘラクレス』が僕の琴線に触れる絶対的な作品なので、それも挙げたいです。『タイタニック』も王道で好きだし、『アルマゲドン』も子供の頃にめっちゃ泣いたし、本当にきりがない(笑)。

――たくさんのご紹介をありがとうございました。ちなみに、お二人は最近ご自身の出演作品を見返したりしましたか?

佐藤:仲の良いプロデューサーが、オリジナルで読売テレビの「ブラック」シリーズをやっているんです。僕は最初に木村多江さんが主演でやった「ブラックリベンジ」という作品に悪い役で出ていて。それをね、この間なぜか飲み屋で見ました(笑)。

山田:へえ〜、いいですね!

佐藤:TVerだったと思うんだけど、「7話のここが見たい!!」と言ったら流してくれた(笑)。

山田:僕はめったに見返さないんですけど、「ここは今から倫理です。」ですね。高柳のような役をやりたかったし、一番好きなドラマです。哲学的なところはちょっと類家にも近かったりして。生徒役をやっていた子たちも、今すごく活躍していて、「あの子当時はこうだったよな〜」と、当時を思い出しながら全話見直しました。

――そのエピソードは、作品のファンの方も、生徒役を演じた皆さんにとっても胸熱ですね。

山田:生徒役の子たちとのグループLINEが盛り上がったりすると、「本当にみんな素晴らしかった」という話もします。あの役は僕自身にも近いし、一生忘れないだろうな、と思っています。今感じているのは、『爆弾』もそうなりそうだなということです!



(text:赤山恭子/photo:You Ishii)

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