山田裕貴、佐藤二朗「本当に面白いということしか言葉が出てこない映画です」『爆弾』【インタビュー】

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2025年10月30日 10:10  エンタメOVO

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エンタメOVO

佐藤二朗(左)、山田裕貴 (C)エンタメOVO

 呉勝浩の同名ベストセラー小説を映画化したリアルタイムミステリー『爆弾』が10月31日から全国公開される。東京のどこかに“爆発予定の爆弾”が仕掛けられたという前代未聞の事態の中、取調室での攻防と都内各地での爆弾捜索の行方を同時進行で描き出す本作で、謎の中年男「スズキタゴサク」を演じた佐藤二朗と、彼を取り調べる刑事の類家を演じた山田裕貴に話を聞いた。




−最初に脚本読んだ時の印象から伺います。

佐藤 まず、原作がとてつもなく面白い。しかもスズキタゴサクは非常に僕と共通点がある。まずどこにでもいそうな風貌の中年の小太り。それから珍しくない名前のスズキと佐藤でどちらも中日ドラゴンズのファン。さらには、これはほんとにびっくりしたんですけど、野方署が舞台になっているけど、僕が東京で初めて住んだ街が野方なんです。だからすごく共通点が多いし、ほんとにとてつもなく面白い作品なので、喜々としてお受けした感じです。

山田 僕も脚本を頂く前に原作を読んだらとても面白くて、これが映画になるんだと思いました。プロデューサーさんが「東京リベンジャーズ」シリーズと同じ方で、「山田くんのパブリックイメージって皆が思うところはあるけど、本当の山田くんは類家だと思ったからオファーした」と言ってくださって。確かに脚本を読んでみると共感ばかりだったので、そういうところを見てくださっていたんだと思いました。

−タゴサクも類家も特異なキャラクターでしたが、役作りはどのように。

佐藤 僕は、作品を見ると悪役の方に感情移入をしてしまうんです。今までもほんとに魅力的な悪役がたくさんいましたけど、悪のカリスマと呼ばれる悪役はみんなカリスマ性があって、悪の哲学がある。でも、このスズキタゴサクにはそのどちらもない。さらに言うと、すごく特殊な能力があるとか、力が強いとか、普通の人とはちょっと違う考え方を持っているとか、そういうこともなくて、むしろ誰もが心にふたをしていることや、誰もが持っているちょっとした悪意とか、そういうものを「どうです、あなたたちにもあるでしょ」と言っているような人なので、そういうところは意識しました。

山田 役作りという意味では、タゴサクは難しかったと思います。例えば、ジョーカーなどは分かりやすいというか、みんながかっこいいかもと思ってしまう悪役。僕らはそういう映画を見ているし役柄も学べるけど、タゴサクは普通のおっさんなので、そこにはとても創造力が要ります。しかも二朗さんが、タゴサクは心の奥底が黒く見えるけど、本当は光になりたかった人。ただ普通に生きたかっただけの人ということを表現しているのを見ると、僕の役作りは安易だったかなと。類家が天才っぽく見える動きとか、早口でしゃべったりとか…。もちろんペン回しのくだりも台本に書いてあることなので、普通に回すだけではなくて、いろんなやり方をしたりして、何か頭が良さそうに見えることを意識していました。

−取調室で対峙(たいじ)するシーンの撮影はいかがでしたか。

佐藤 俳優はどんなシーンも相手役とのセッションだと思うんです。例えば、タゴサクと類家が2人で笑い合うシーンは台本にはないんです。僕も笑うつもりは全くなかったし、思いもつかなかったんだけど、裕貴が笑ったんです。何も面白いことは言っていないのに。要するにこの2人は分かり合っているという表現になると思って。撮影が終わった後、あの笑い合うところは、裕貴が笑ったから俺も笑ったんだという話をしました。いいセッションができて満足しています。

山田 本番前は、二朗さんと何げないおしゃべりをしていたのに、いざ本番となったら急にタゴサクになって、カットがかかればまた僕と二朗さんに戻るという感じでした。タゴサクから切り替えるのは大変だったかと思うんですけど、いつもフラットでいてくださったので、すごいなと思いました。

−お互いの演技を見てどう思いましたか。

佐藤 僕は撮影が終わって家に帰ると、妻に「ほんとに毎日撮影が楽しいわ。すごいよ」と言っていました。とにかく僕の前の席に、最初は染谷将太、その後が渡部篤郎で、寛一郎が入って、山田裕貴が座って…。いずれも一線級の俳優が相手なので、本当に楽しい日々でした。でも、対決したいとは全然思っていなくて、要は一緒に高みに登っていくのが楽しいんです。要するにこのメンツだったら間違いない。絶対に大丈夫だということです。ちょっと『羊たちの沈黙』(91)みたいな感じもあるけれど、タゴサクは普通の人でレクターさんみたいに特異な考え方を持っているわけではない。そこが大きく違うし、面白いですよね。

山田 僕は二朗さんが、『羊たちの沈黙』とか、いろんな悪役の形を全て分かった上で、タゴサクを緻密に表現してらっしゃると感じました。二郎さん自身は「最後までタゴサクのことが分からないようにしていた」とおっしゃっていましたが、分かっていなきゃできないでしょと思っていました。それを本当に何げなく普通に表現している二朗さんがすごかったなと。全てを一瞬であの表現まで持っていく感覚。それがものすごく細かいんです。「うわあ」って言ったと思ったら急に手で顔をおおったり、YouTube動画のくだりのせりふ回しとか、この人は全部分かってやっていると思ったし、そこに俳優としての矜持(きょうじ)を感じました。

−完成した映画を見た感想を。

佐藤 とにかく原作がとてつもなく面白いんです。だから映画も絶対に外せないと思いました。僕は完成作を見ている間、ずっとうれしかったです。めちゃくちゃ面白いから。しかも面白さが加速していく感じもあって、ホッとしました。永井(聡)監督にはとても感謝しているし、山田裕貴はもとより、刑事を演じた皆さんもすごく色気があると思いました。要するに、仲間を守る、それ以上に罪のない市民を絶対に守らなきゃいけないという悲壮なまでの覚悟が、色気みたいに見えたのかもしれない。もっと言えば、警察の人たちや特殊部隊のリアクションも、隅から隅まで本物だと思わせるものがある。だから自信を持って皆さんに薦められる映画だと思いました。

山田 完成した本編を見た二朗さんからほんとに面白かったというのを聞いて、安心したしうれしかったです。でも、僕たちがいくら面白いものができたと思っても、お客さんに見てもらわなければ、面白いと言ってくれる人が増えなければ意味がないんだよなと。だからこの面白さをどう伝えたらいいのだろうと。

佐藤 とにかく面白い。エンタメ性もあって、社会派でもあって、人の悪意を問うとか、いろんなものが凝縮されていて、本当に面白いということしか言葉が出てこないというか…。

山田 あとはもうお客さんの反応を信じるしかないという感じですね。

佐藤 そうだね。お客さんに育てていただきましょう。多分この作品はお客さんが育ててくれると思う。

−最後に。これから映画を見る観客や読者に向けて一言ずつお願いします。

山田 こういう時は、初めて見てくれる方にメッセージを送るのが正解だとは思うんですけど、僕は俳優が面白い作品ができたと言うのはものすごく重みがあると思っていて、自分も面白いものができたと思うけど、今日ジャパンプレミアで見てくれた人たちが、広めてくれるんじゃないかなと思っています。

佐藤 要するに、サスペンスであり、人間ドラマであり、社会派であり、そしてアクション物でもあるから、ぜひ見てくださいというのは、あまり届かないような気がします。今日、日本の皆さまの目に初めて触れるので、今日の皆さまにお任せします。お任せする自信はあります。スイッチを押すのはあなたです。あなたが見て判断してください。

山田 何か言い方がタゴサクっぽいですね(笑)。

(取材・文・写真/田中雄二)


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