宇垣美里さん 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
そんな宇垣さんが映画『ミーツ・ザ・ワールド』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:27歳のオタク女子・由嘉里は、擬人化焼肉漫画に夢中ながらも、自分を好きになれずにいた。婚活に挑むも合コンで惨敗し、歌舞伎町の路上で酔いつぶれてしまう。そんな彼女を救ったキャバ嬢・ライとの出会いをきっかけに、ホストや作家、街のバーのマスターといった街の“住人”たちと関わる中で、由嘉里は新たな自分の世界を見つけていく。
豪華キャストが集結した異色のガールズムービーを宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です)
◆なんてことない出会いが時に人生を変える
なんてことない出会いが運命となり、時に人生を変える。あなたに出会ってやっとありのままの私で息ができるようになったから、同じようにあなたの生きる理由になりたいと願うのに。ああ、世界を広げてくれたあの人の世界に触れることは、その気持ちを変えることは、こんなにも難しい。
オタクの由嘉里は合コンで惨敗し、歌舞伎町の道端で酔いつぶれていたところを美しきキャバ嬢・ライに助けられる。ライの家に転がり込んだ由嘉里は、この出会いをきっかけに新しい世界へと飛び込んでいく。
◆人が人と生きることの真髄を体現する主人公
なんといっても、実在感のあるキャスト陣が魅力的な本作。今から歌舞伎町に行ったら、そのまま彼らに会えるんじゃないかと思ってしまうほど。迸(ほとばし)る作品愛を早口でまくしたて、思いが高まると勢いそのままに叫びだし、きょろきょろと目線が泳ぎ続ける杉咲花の堂に入ったオタクっぷりといったら。
他にも透明感が印象的なライを演じる南琴奈や飄々としていながらどこか陰を感じさせるアサヒを演じる板垣李光人はもちろんのこと、由嘉里のデート相手を演じる令和ロマン・高比良くるまの醸す違和感は強烈なインパクトを残す。
普通でない人たちが、普通でないままに寂しさを持ち寄って生きている。そんな彼らの住まう歌舞伎町は、私の知る現実の歌舞伎町よりずっとずっと美しく、きらめいていた。理解しきることなどできない他者との出会いの中で、少しずつ自分の輪郭を掴んでいく由嘉里の姿に、人が人と生きることの真髄を見たような気がした。
◆大切な人がいなくなっても生きていくしかない
食事シーンがとにかく美味しそうで、見ているだけでお腹が空いてくるところもポイント。鑑賞後は甘いチョコフラペチーノ片手に散歩し、大口ひらいてラーメンをすすり、餃子でビールをぐいっと飲みたくなる。大切な人がある日いなくなってしまったとしても、私たちはそうやって食べて、生きていかなければならないのだから。
ところで、とあるシーンに原作者の金原ひとみと主題歌を歌う尾崎世界観の姿を認め、夢かと思って二度見してしまった。二人ともうっとりするくらいあの世界に馴染んでいて、そんな懐の広さもまた歌舞伎町や、この作品の魅力なのだと腑に落ちた。
●『ミーツ・ザ・ワールド』
配給/クロックワークス 全国公開中 ©金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会
<文/宇垣美里>
【宇垣美里】
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。