『介護と相続、これでもめる! 不公平・逃げ得を防ぐには (光文社新書 1357)』姉小路 祐 光文社 超・高齢化社会を突き進んでいる日本。子どもたちが協力し合って老いた親を支えていくのは理想の姿ではありますが、現実は子どものうちの誰かが引き取って世話をする形が多いようです。しかし、親の介護が平等でないいっぽうで、日本の法制度では「相続においては子どもたちは平等とする」という大原則があります。そうすると、中には「介護は少な目に、相続は多めに」という発想が出てくる者も......。「介護からは逃げるだけ逃げておいて、相続財産についてはどんどん権利主張をしていく。そのためには手段を選ばない――そういう兄弟姉妹に対して、どう対応していったらいいのか」(本書より)という目的のもとに書かれたのが、今回ご紹介する書籍『介護と相続、これでもめる! 不公平・逃げ得を防ぐには』です。
実は、著者の姉小路 祐氏自身、このトラブルの当事者となった過去があります。もともと高校の教員と推理小説作家という二刀流の生活を続けてきた著者でしたが、親の介護問題に直面し、平成21年に教員を退職。ほぼ一人で世話をして両親を看取りましたが、そのあとすぐにたった一人の兄弟姉妹と相続をめぐって裁判となり、最高裁まで戦うこととなりました。本書はこうした実体験に基づいているため、リアリティに満ちていて、介護や相続についての実情を知ることができます。
他にも、本書では介護を経験した人たちによるナマの声も多数収録。親が有料老人ホームに入居する際の資金を出したのに、それが証明できないことから兄弟姉妹との裁判で不利な判決が出てしまった人、自身のキャリアや結婚を諦めて親の介護をしたものの、介護していない姉たちに自分の分と同額の相続金を渡すこととなった人などが紹介されています。読んでいると、親のために頑張った子が報われない事例がいかに多いかがうかがえます。
そこで著者が提言するのが、介護からの逃げ得を防ぐための心構え。特に本書の第七章で掲げられた「他の兄弟姉妹とのやりとりは記録で残るメールで」「介護のために必要な費用については、明確にしておく」などの11項目は、今後、介護や相続を控えている人は必見です。また、親の立場であれば、ぜひとも残してほしいのが遺言書です。著者は「親思いの子供に報いるのは遺言書」(本書より)だとし、「キーマンという重責を引き受けてくれた子供には、見返りを払ってもよいはず」(本書より)と自身の考えを述べています。
このほか、法律や裁判所など司法に触れている点にも注目です。裁判を通じて著者が痛感したのが「介護を経験したか、もしくは自分の問題として捉えることのできる裁判官でないと、なかなか介護者の立場を踏まえた判定はできないのではないか」(本書より)ということだそうです。そもそも、血を分けた兄弟姉妹間で裁判を起こしたいと思っている人はいないはず(だと信じたい......)。そのためにも、介護と相続でもめないための心得を学ぶことは「転ばぬ先の杖」としてきっと役立つでしょう。
[文・鷺ノ宮やよい]
『介護と相続、これでもめる! 不公平・逃げ得を防ぐには (光文社新書 1357)』
著者:姉小路 祐
出版社:光文社
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