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写真 数々の映画やドラマに出演している女優の松本穂香さん。大の映画好きでもあるという松本さんが、現代のロンドンを舞台にしたヒューマンドラマ『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』について語ります。
        
    
        ◆限界を迎えつつある家族に訪れた出来事
 今回、わたしがご紹介させていただく映画は『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』です。
        
    
         舞台はイギリスのロンドン。主人公のパンジーは、配管工の夫カートリーと、無職の息子モーゼスと暮らしていた。
        
    
         とにかく何にでも文句をつけるパンジーと、それに伴って心を閉ざしていくカートリーとモーゼス。対照的に、パンジーの妹シャンテルは2人の娘を持ち、笑顔溢れる楽しい家庭を築いていた。家族が限界を迎えつつある頃、母の日がやってくる。
        
    
        ◆息苦しさを感じるほどの理不尽
 いや〜むずかしい。いろんな意味で理解するのが困難な映画でした。
        
        
        
    
         最初は、何にでも怒り狂うパンジーに面白さすら感じていたのですが、その文句のつけ方があまりにも理不尽すぎる&不機嫌じゃない時が無いので、観ていて息苦しさを感じてしまいました。
        
    
         いわゆる「クレーマー」だったり、街中で見かける「厄介な人」。きっと誰しも一度は遭遇したことがあると思います。
        
    
        ◆「厄介な人」なんて言葉で一括りにできるのか?
 それは私たちにとって、ただただツイてない日であり、ツイてない一瞬の出来事で、後々笑い話に出来てしまうような出来事。
        
    
         だけど、そんな「理解できない厄介な人」の周りの人の想いや、厄介な人へ至ってしまった本人の事情が、この映画には苦しいほどに詰め込まれていました。
        
    
         そもそも「厄介な人」なんて言葉で一括りにしていいものなのか、そんなことを初めて考えさせられる映画でした。
        
        
        
    
        ◆最後まで考えても考えても理解できない女性
 美しい花も、穏やかな鳥のさえずりさえも、己を刺激してくるものすべてを恐れて、誰よりも閉じこもっているパンジー。あらゆるものに吠え続け、パッと見はムテキに見えるけれど、その実、誰よりも苦しみ、疲れきっていたように思えます。
        
    
         う〜ん、やっぱり……考えても考えても理解できない女性でした。ただ、これも身勝手で矛盾した思いですが、パンジーの周りの人たちには、彼女を理解することを諦めないでほしいな〜と、つい最後にはそんなことを思ってしまうのでした。
        
    
         人間の複雑さが丁寧に描かれた作品でした! 映画館でぜひ!
●『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』
配給/スターキャットアルバトロス・フィルム 新宿シネマカリテほか全国順次公開中 ©Untitled 23 / Channel Four Television Corporation / Mediapro Cine S.L.U. Reserved.
<文/松本穂香>
【松本穂香】
1997年2月5日生まれ。大阪府出身。2015年『風に立つライオン』で長編映画デビュー。2017年連続テレビ小説『ひよっこ』に出演して注目を集め、2018年にはTBS日曜劇場『この世界の片隅に』で主演に抜擢。2023年、映画『“それ”がいる森』で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。2024年10月期月9ドラマ『嘘解きレトリック』では鈴鹿央士とともにW主演を務めた