写真 俳優の瀧内公美さんが、開催中の「第38回東京国際映画祭」のナビゲーターに就任しました。会期中、世界各国から集う数々の映画の魅力を発信する案内役を務めます。
瀧内さん自身も今年は出演映画が7作も公開されるなど、映画と関りが深い一年になりました。それだけでなくNHK連続テレビ小説『あんぱん』や、ドラマ『放送局占拠』の好演でも注目を集めました。
そんな瀧内さんに映画祭のこと、俳優業への想いなどを聞きました。
◆劇場離れは寂しくもある
――ナビゲーター就任が決まったときは、いかがでしたか?
瀧内公美(以下、瀧内):これまで東京国際映画祭に足しげく通い続けていましたので、まさか自分が映画祭のナビゲーターを務めさせていただけることになるとは、晴天の霹靂でした。
――気になる作品は?
瀧内:コンペティション部門ですと、パールフィ・ジョルジ監督の『雌鶏』、中川龍太郎監督の『恒星の向こう側』、それから『パレスチナ36』、アジアの未来部門の『遥か東の中心で』。この4作品が気になりました。特に『雌鶏』は、このルックと、逃げ出した一羽のニワトリを通じてというあらすじに惹かれました。
――映画祭が初めての方にはどうおすすめしますか?
瀧内:映画祭に行ってみようというお気持ちがあれば、お好きな映画を存分にご覧になってほしいです。世の中では劇場離れと言いますが、映画界のはしくれにいる者としては、映画館に映画を観に行くという行為が少なくなってきているのは、寂しくもあります。もし興味を持っていただけるのであれば、世界各国の映画がご覧いただける唯一の機会ですので、ぜひお越しいただけたら嬉しいです。
◆映画祭の醍醐味とは
――これだけ作品があると、何かしら心に響く一本がありそうなので、これを機会に映画を好きになってくれる方が増えるといいですよね。
瀧内:そう思います。世界中の映画を、これだけの本数を集めて一気に上映される機会があるのは、映画祭の醍醐味であると思っています。
――さまざまな国の映画が楽しめることも魅力ですよね。
瀧内:たとえば普段、ギリシャの映画に触れる機会は少ないと思うんです。配信でもなかなか見つかりにくい。そういう映画を観たときにその国の雰囲気もわかると言いますか、新たな発見もあります。旅行気分でセレクトするのもいいと思うんです。今は物価も高いですし、東京・日比谷にいらしてくだされば、2時間の映画の旅に出られると思いますので。
◆『国宝』の大ヒットを受けて
――映画の客離れというお話が出ましたが、一方でご出演もされた『国宝』など100億円越えの記録的な超大ヒット作も今年はありました。
瀧内:映画館にお客様が出向いてくださる状況は、とてもうれしいです。『国宝』に関しては何回も何回も映画館に足を運んでくださる方がいると聞いておりますので、こんなにうれしいことはないと思っています。
――瀧内さんご自身も出演作が公開・放送になるたびに話題になりますが、この人気をどう受け止めていらっしゃいますか?
瀧内:出会いに感謝しています。デビュー当時に比べたら、ものすごくたくさんのお仕事をさせていただいていますので。昨年独立しましたので、気を引き締めて、ひとつひとつのお仕事を丁寧にやらせていただく想いではあります。自分が役者として大切にしている、遅刻をしない、セリフをしっかり覚えていく、挨拶をする。それだけを大切にやってまいりましたので、これからも変わらずに守っていくつもりです。
――反響を受け、変化したことなどは?
瀧内:どんどん技術を磨いて、芸の厳しさを知っていくなかで、観ていただく方が多くなればなるほど、責任の大きさを感じています。楽しみにしてくださっている方がいますので、そこへの責任は非常に大きくなってきたなぁと思います。自分が好きだからこそやり続けてきたお芝居ですが、やはりファンの方がいてこそだと実感します。
映画の話からは離れますが、7月期のドラマ『放送局占拠』は子どもたちから大人気でして(笑)。あれは前作の役柄を続投した役でもあったので、大変な反響をいただきました。
◆朝ドラでの教師役は「興味深い役だった」
――子どもたちの反響はうれしいですよね。
瀧内:わたしは子どもたちに受ける作品をやってきてなかったので、子どもたちから声がかかるなんて、これまでの自分のキャリアでは考えられないことでした(笑)。だからその意味でもうれしかったですし、その物語の世界に入り込んでくださって「応援しています!」「サインもらえませんか」と言われると、本当にうれしいんです。物語としての(展開などの)裏切りはあれど、俳優としては裏切れないなという想いはあります。
――『放送局占拠』のみならず、『クジャクのダンス、誰が見た?』、朝ドラ『あんぱん』もニュースになりましたね。
瀧内:強烈な役がわりと多いからですかね(笑)。『あんぱん』も戦時中の厳しさ、心得を教える教師役でしたので、当時の日本が置かれている時代を象徴する役でもありますし、興味深い役だなと思いました。
呉美保監督の『ふつうの子ども』という映画でも嵐を巻き起こす起爆剤のような役として登場しておりまして、『国宝』も最後を締めくくる、印象に残る役でして、締めになる役割で呼んでいただくことをとてもうれしく思っております。
◆作品のメッセージは「あまり押し付けたくない」
――仕事が大変充実されていると思いますが、この先、40代を迎えるにあたり、どのような人でありたいですか?
瀧内:まずは自身の在り方として、他者への眼差しは優しく、自分の感性を大切にしていきたいです。役者としての考え方は、たとえばある作品をやり、それがみなさんが変わるきっかけになればとか、社会問題について考えるきっかけになればとか、そういうメッセージがある場合がありますよね。でもわたしとしては、あまりそこは押しつけたくないかなと思っています。
そこに使命感を持つことにちょっと違和感を覚えるというか、そういう意味において、自分がやりたいと思える役や作品に素直に出会えたらいいなと、それこそ演技が本分ですので、少しでもいいお芝居ができたらいいなとか、そういう思いはあります。
あとは自分ひとりで生きてきたわけではないということ。自分に必死になりすぎて、周りへの感謝を見落としていたこともありました。でもそこは忘れちゃいけないと思うんです。好きで始めたお芝居なので、感謝して生きていければいいなと思います。
<取材・文/トキタタカシ>
【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。