
「本当によく頑張ったなと思います」
11月2日に行なわれた全日本大学駅伝で、歴代最多となる17回目の優勝を果たした駒澤大の藤田敦史監督は笑顔を見せた。
シーズン最初となった10月13日の出雲駅伝では5位と不本意な結果に終わり、そこからの全日本優勝。この巻き返しの要因についてはこう話す。
「出雲駅伝の敗戦から短期間でここまで立て直せたのは、特に4年生の力が大きい。それを学生たちが(自主的に)やってくれたということは、間違いなく箱根に繋がる走りだったと思うので非常にいい大会でした」
【國學院第から学んだ区間配置】
オーダーは、終盤の長距離区間の7区と8区にエースの佐藤圭汰(4年)と山川拓馬(4年)を並べるなど、後半勝負で確実に勝ちに行く配置だった。そのなかでも藤田監督が勝負どころとしたのが、伊藤蒼唯(4年)の5区起用だった。
|
|
|
|
「伊藤の5区起用というのはある程度早い段階から考えていました。去年と同じ3区という考えもありましたが、これまではつなぎ区間の位置づけだった5区と6区で昨年、國學院が連続区間賞を獲って、勝った姿を見ていました。2区で遅れたうちが最後に追い込んでも届かなかったので、外す区間を作ったら勝てないというのを実感しました」
1区では小山翔也(3年)が國學院大や早稲田大と1秒差以内で、区間4位。2区の谷中晴(2年)も区間3位で上がってきた中央大や帝京大も含めて4校が3秒差という混戦のなか3位で繋ぐと、3区の帰山侑大(4年)は國學院大と中央大に1秒差の1位でタスキを渡した。
4区の安原海晴(3年)は区間5位と、トップに35秒離される4位に落ちて不穏な空気も流れたが、5区の伊藤が区間記録を17秒更新する走りで2位の國學院大に52秒差をつけて流れを引き寄せる。そして6区の村上響(3年)の区間2位の走りにより、2位の中央大との差を1分4秒まで広げて優勝を確実にした。
期待どおりの走りをした伊藤は、レースをこう振り返る。
「4年生が勝負に絡めそうなところでしっかり引き上げる役割は果たしましたが、前半の重要区間の2区で谷中が区間3位で頑張ってくれて、3年生もしっかり繋いでくれたので、4年生の力だけではないと思う。8区に山川がいるだけでもかなり安心感があるけど、やっぱり大学界トップクラスの佐藤が7区に控えている時点で、僕らとしても後輩たちも安心感があったと思います。彼の影響はかなり大きかったです」
|
|
|
|
【戻ってきたエース】
佐藤と山川は、ともに区間3位と本人たちにすれば悔しい結果となったが、箱根に向けてはいい実戦経験になったとも言える。特に佐藤は、6月の合宿で恥骨を疲労骨折して「同じ箇所の故障は3回目だから、根本的な原因をしっかり突き止めて治そうとリハビリに専念した」と2カ月間走らずにしっかりと休んだ。違和感がなくなって本格的なジョグを始められたのは9月中旬からで、ポイント練習や距離走ができるようになったのは10月に入ってからだった。
そんな状態でも佐藤は自ら「前半のハイペースの区間より、7区に置いてもらったほうが自分としてはチームに貢献できると思う」と藤田監督に申し出たという。
「本来の走りができていれば、区間新で走った黒田朝日くん(青学大)とも区間賞争いをしていたと思います。スピードを求められる前半の区間だと、やはり無理をして故障の再発もありえるので、そこを考慮したところはありましたが、ある程度走れることを確認できたことで、これから箱根駅伝に向けては順調にいくんじゃないかなと思います」
こう話す藤田監督は、8区の山川についても「優勝しなければいけないというプレッシャーのなかで走っていると、なかなか突っ込む走りはできなくなる。その難しさのなかで、なんとか踏みとどまって(走りきってくれた)優勝でした。キャプテンとしての重圧もあったと思います」と話す。
山川は自身の走りをこう反省する。
|
|
|
|
「56分台の日本人最高記録を出すというのを目標にしていたので、それを達成できなかったのは悔しいです。あのタイム差でもひっくり返されることはあるので油断できない状態だと感じていました。前半は少し抑えて、最後の上り坂でタイムを稼ぐのを狙っていましたが、なかなかうまく走ることができなくて......。追われる展開に慣れていないというのもあるし、自分自身でペースを作っていく走りがまだできない弱さが出てしまいました」
一方で、これまで感じたことのないプレッシャーを感じられたことは収穫のひとつとなったはずだ。
【手ごたえをつかんで箱根駅伝へ】
箱根に向けては、「今回の全日本とは別物のレースになると思っていますし、上り下り(への対応力)を作らないと箱根は勝てないので、そこの強化も準備をして臨みたい」と藤田監督は話す。
青学大に敗れて2位となった前大会で、「うちは層が薄いのでギリギリですが、逆に言えば10人しっかりそろえれば戦えると思う」と話していたのとは違い、「今回出られなくて寮に残っているなかにも強い選手が何人もいる」と選手層の厚さに手応えを感じている。
結果的に、5強と言われる大学が順当に上位を占める結果になった全日本大学駅伝だが、駒澤大にとって今回の勝利は、箱根への意欲をさらに高める強い追い風になった。
