海上自衛隊の最新型潜水艦「たいげい」。ディーゼルエンジンとリチウムイオン電池を動力とする(海自ホームページより) 原子力潜水艦の保有に向けた議論が始まろうとしている。秘密裏に長期の作戦行動が取れる原潜を導入すれば抑止力は格段に高まる。ただ、課題は山積みで、現場では歓迎と困惑の声が広がる。
10月、自民党と日本維新の会は「次世代の動力」を活用した長射程ミサイルの垂直発射装置(VLS)搭載潜水艦の保有を推進することで合意。民放の番組に出演した小泉進次郎防衛相は今月6日、「今までのようにディーゼルか、原子力かを議論していかなければいけないほど、日本を取り巻く環境は厳しい」などと発言した。
政府が導入議論を始める背景には、海洋進出を強める中国などへの抑止力強化がある。
海上自衛隊が保有する潜水艦はディーゼルエンジンとリチウムイオン電池を併用し、充電のため定期的に浮上し空気を取り込まなければならない。一方、原子力でタービンを回す原潜にはその必要がない。長期潜航による隠密性が武器で、自衛隊関係者は「どこからミサイルを撃ってくるか分からない原潜ほど厄介なものはない」と説明する。
潜水艦にVLSを搭載するにはそれなりの規模の船体が必要で、より大きな動力も求められる。ミサイルを発射すれば、敵に位置を特定される可能性が高まり、反撃を避けるため素早く移動するにも、原子力の「桁違いな馬力」(防衛省関係者)は有用だ。
だが、原潜を常時任務に当たらせるには、最低3隻を保有する必要がある。艦を保守点検・訓練・任務のサイクルで運用するためで、維持管理費は莫大(ばくだい)になる。人手不足が深刻な海自の体制自体、見直しが必要で、万が一の放射能漏れに備える原子力工学の専門人材の確保も容易ではない。
原子力の平和利用を定めた原子力基本法などとの整合性や、母港・立ち寄り先の地元理解も必要だ。
ある防衛省関係者は「自衛隊では原潜導入論はタブー視され、十分に議論されてこなかった」とした上で、「政治家に決める覚悟があるかどうかだ」と語る。別の関係者は「持てるものなら持ちたい」としつつ、「現実性はあるのか。中国やロシアを監視・抑止するだけなら日本周辺を守ればよく、本当に原潜が要るのか疑問だ」と話した。