
『中学受験で後悔したこと 失敗しない「頭・時間・お金」の使い方』(長谷川智也著)では、東大卒のプロ家庭教師である筆者が、中学受験経験者の“失敗談”を学びに、賢い対処法を伝授する一冊。
今回は本書から一部抜粋し、保護者が知らない“大手進学塾のからくり”について紹介します。
塾それぞれの違いや特徴を知っていますか?
===【中学受験経験者の後悔……Yさんの場合】
「実績もあるから安心だろうと、某大手塾に長女を入塾させました。ですが、あまりにこなす量も多く、レベルも難しいのにびっくり。あまり言いたくないけれど、結構な額を払っているのに思うようには面倒を見てくれない。
塾って、親の代わりに勉強を見てくれるのではないの? ていうか、なんでこんなに親が大変なの? 娘は塾の友達もできたから最後まで通いましたが、もっとケアしてくれる塾を調べればよかった」(Yさん)
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僕は受験オタクとして、各種塾については大手を中心に一晩中語れるくらいの情報と見識があると自負しています。また塾に入れたがゆえの悩みや後悔は、本当によく相談を受けるところです。
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ここでは改めて、大手塾に関わる後悔の深層について、現時点での見解をみっちり、たっぷりお話しいたしましょう。
個人的には、今業界を席巻している大手塾のあり方は、近いうちに限界がくると感じています。共働き家庭が当たり前になり、両親共にフルタイムで働いている方が増えているし、今の女子生徒もほとんどが社会で活躍することを前提に勉強をしています。
社会的な支援もまだ十分とはいえないものの、学童や各種習い事なども共働きを前提にしたものが増えています。共働き家庭が、我が子をサピックスやグノーブル、浜学園などに入れると、まず親フォローの大変さに驚かれます。
学校のようなフォローや「教えてもらえる」ことを期待していると、思わぬ認識の違いに苦しむことになります。
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昨今は塾講師も「怒らない、叱らない」
ここで知っておいてほしい大前提は、昨今の塾講師は「怒らない、叱らない」ということ。今のお父さま、お母さまたちは、塾に行けば、そこそこ教えてもらえたり、フォローしてもらえたり、が普通だったギリギリの世代です。
また小学校でも、できない子をつきっきりで教えたり、居残りさせてでもできるように努力してくれたりする先生がいたことと思います。
ですが、現在は違います。
小学校の先生たちは基本褒めることしかできず、叱る指導がしにくくなっています。そのせいで基本的な文章の作法などを習う機会が激減し、ほとんどの子が、受験勉強の途上で最低限のルールを身につけることになっています。
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この風潮は塾でも同じです。特に進学実績が華々しい塾にはからくりがあり、
●宿題チェックや達成度の確認はほぼしない
●宿題を忘れたり、小テストの結果が悪かったりしても、塾講師が怒ることはない
●クラスが落ちても自己(家庭)の責任
●休憩やお弁当の時間をとらず、子ども同士が仲よくしたり騒いだりするのを防ぐ
●できなくなった子をできるようにすることはない
といった傾向が見られます。そして家庭で手厚くフォローされてきた、意識の高い上位層を伸ばして、進学実績を作り上げるのです。
もちろん、個々の講師の先生方の中には、この風潮に抗い、熱心にフォローされている方もいらっしゃいます。
しかしそれが給料に反映されるわけでもなく、身体もかなりきついので、長続きしません。
僕自身も大手塾に勤めていた時代に、「これくらいはしなきゃ」というレベルのフォローをすると、たった10人の生徒でもきつく、20代の若い体力をもってしても、数年で身体を壊す一歩手前までいってしまいました。
その分生徒や親御さんからの人望や人気は得られましたが、賃金は全く増えないわけで、これではなかなか続かないことを、身をもって実感しています。
そうなると自分の理想の教育を追い求める講師は、僕のように家庭教師になるか、自分で塾を立ち上げるか、という流れになるわけです。そういう方が巷には結構いらっしゃるはずです。
ビジネスとして「うまい」やり方
僕もかつて、独立して塾を作ろうとしたこともあります(正確には3年だけ稼働)。ですが、大手塾のマンパワーや教材のクオリティー、宣伝・営業には勝てず、信頼度の面からも思うように生徒が集まりませんし、集まっても自分で教材を作り、丸付けをし、営業やビラ配りもし、家賃も人件費も高いし……などなど、数人をしっかり見るだけでも、かなり体力的にきつく、難しいのを感じました。
というわけで、塾では、そのようなフォローなどは二の次にして、ハイクオリティーな教材を渡して効率的に授業を進め、生徒が騒がないように操りやすいようにしておき、授業もマニュアル化。
かつ講師陣に負担がかからない方法をとるのは、僕としても合点がいく話なのです。つまり、ビジネスとしては「うまい」やり方なのだ、と感嘆すらしてしまいます。
特にサピックスや浜学園は、カリキュラムや教科書のクオリティーは一級品です。他塾よりも難しい問題を数多く、パターン化するまで解くことで、さほど知的才能がない子でも点数をとれるようになっています。
ここで問題は、「それでは、誰が、その問題を子どもにさせるの?」ということです。強制力の話であり、それが親御さんになります。
ひと昔前の塾では、宿題を忘れたり、小テストすら解けないくらい授業を聞いていなかったりする子は、先生に怒られたり叱られたりしたものでした。しかし今は、厳しく言う塾が極端に減って、「やってこないなら、勝手にクラスが落ちる。それは自業自得だ」と、責任の所在が子どもおよびそのご家庭になるような流れがあります。
長谷川 智也(はせがわ・ともなり)プロフィール
ブログ名はジュクコ。1980年兵庫県明石市出身。高卒の両親のもとに育つもハードな中学受験を経験。白陵中学校・高等学校を経て、東京大学現役合格。卒業後、大手塾に勤務、人気講師となる。2009年独立してフリーランスの「プロ家庭教師」に。既存の固定観念にしばられない、生徒個人を見つめた指導で数々の実績を上げる。独自のプログラム「究極の受験セカンドオピニオン・スーパーコンサル」は年間300件を超える申し込みが殺到する。甲冑メタルバンド「武士メタルAllegiance Reign」のベーシストとしても本気で活動中。
(文:長谷川 智也)
