【角田裕毅を海外F1解説者が斬る】犠牲にならざるを得ないセカンドドライバーの辛さ。この献身が報われることを願う

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2025年11月18日 07:00  AUTOSPORT web

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2025年F1第21戦サンパウロGP 角田裕毅(レッドブル)
 F1での5年目に突入した角田裕毅は、2025年第3戦からレッドブル・レーシングのドライバーとして新たなチャレンジをスタートした。元ドライバーでその後コメンテーターとしても活躍したハービー・ジョンストン氏が、角田の戦いについて考察する。今回はサンパウロGPの週末を中心に振り返る。

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 レッドブル・レーシングの人々が、角田裕毅の犠牲に報い、来年の新契約を与えてくれるだけの良識を持っていることを願うばかりだ。インテルラゴスでの角田の週末は、チームが自ら陥ったセットアップの混乱から抜け出す手助けに費やされ、レースでは重いペナルティを2度受けたことで、彼の本来のペースを反映した結果を達成することができなかった。チームメイトのマックス・フェルスタッペンは見事に表彰台をつかんだ。そして角田の貢献がそれを助けたのは間違いない。

 チームのセカンドドライバーを経験したことがなければ、角田が今感じているであろうフラストレーションを理解することはできないだろう。新契約に値する実力があるとチームや周囲に示そうと必死に戦っているのに、チームメイトがタイトルを争っているがために、自分はセットアップ実験のモルモットにされたり、チームメイトのライバルたちを抑えるためのブロックとして使われるのだ。

 メキシコで角田は、オリバー・ベアマン、アンドレア・キミ・アントネッリ、ジョージ・ラッセル、オスカー・ピアストリにタイヤ交換後にタイムを失わせて、フェルスタッペンの追い上げを助けるために、長いスティントを取らされ、それによって彼自身のレースは台無しになった。今回のブラジルでは、RB21のセットアップにおいて迷走したレッドブルを救うために、良いセットアップを見つける仕事を課せられた。

 サンパウロの週末はスプリントフォーマットであったため、フリープラクティスは1回しかなかった。そのFP1で、レッドブルはフェラーリと同様に、ほぼすべての周回をハードタイヤで走るという選択をした。角田はセッション開始から約10分後にターン4の立ち上がりでスピンを喫してしまった。それがマイナスになったことは間違いないが、チームメイトと0.4秒差というのは立派なものだった。

 他のチームはFP1でミディアムタイヤを使ったため、フェラーリとレッドブルがスプリント予選で苦戦したのも無理はない。フェルスタッペンですら、Q2に進むために2回目のアタックを必要とし、角田は即座に脱落した。これについては、責任は彼自身にある。

 レッドブルは彼のRB21のセットアップを変更してスプリントレースをピットレーンから送り出したが、結果は散々で、角田は短いレースの間ずっと、ハースやレーシングブルズのリヤを眺めて過ごすことになった。

 スプリント後、予選に向けてレッドブルが両車のセットアップにさらなる変更を加えたが、結果は悲惨なもので、フェルスタッペンと角田の両方がQ1で敗退した。フェルスタッペンが純粋なペースでQ1落ちを喫したのは、これが初めてのことだった。この時のふたりの差はわずか0.3秒。マシンが競争力を持たず、フェルスタッペン好みのセットアップになっていないときは、彼であってもチームメイトに対して大きなアドバンテージを築けないということが分かる。

 レッドブルは、決勝レースに向けてフェルスタッペン車のセットアップ変更を試み、明らかに改善策を見つけたが、角田はそのままの状態で戦うしかなく、チームメイトと同じスピードを発揮することはできなかった。それでも彼のペースは上々で、序盤にポジションを上げ、2回目のピットストップの前には8番手を走っていた。

 ただし、角田はストロールとの接触で10秒のペナルティを科せられていた(ストロールの事故の多さについては、フランコ・コラピントがレース後に文句を言っていた)。その後、チームはピットでミスを犯し、角田はふたつ目のペナルティを科せられ、最下位でフィニッシュすることになった。

 2回の10秒ペナルティがなければ、角田は余裕でトップ10に入っていたはずだ。彼は素晴らしいペースで走っていた。レース中のファステストラップは全体の4番手で、フェルスタッペンのベストよりわずか0.327秒遅いだけだった。

 レッドブルの内部には、正しい判断を下すために必要なデータがすべて揃っている。私はかつてチームのために犠牲になった後に切り捨てられた経験があるので、その気持ちはよく分かる。だから、若き裕毅が今年の終わりに同じ経験をしないことを願うばかりだ。過去数レースで彼が強いられてきたことを考えれば、それはあまりにも残酷すぎる。

────────────────────────筆者ハービー・ジョンストンについて

 イギリス出身、陽気なハービーは、皆の人気者だ。いつでも冗談を欠かさず、完璧に道化を演じている。彼は自分自身のことも、世の中のことも、あまり深刻に考えない人間なのだ。

 悪名高いイタズラ好きとして恐れられるハービーは、一緒にいる人々を笑顔にする。しかし、モーターレースの世界に長く関わってきた人物であり、長時間をかけて分析することなしに、状況を正しく判断する力を持っている。

 ハービーはかつて、速さに定評があったドライバーで、その後、F1解説者としても活躍した。彼は新たな才能を見抜く鋭い目を持っている。F1には多数の若手育成プログラムがあるが、その担当者が気付くよりもはるかに前に、逸材を見出すこともあるぐらいだ。

 穏やかな口調でありつつも、きっぱりと意見を述べるハービーは、誰かが自分の見解に反論したとしても気にしない。優しい心の持ち主で、決して大げさな発言や厳しい言葉、辛辣な評価を口にせず、対立の気配があれば、冗談やハグで解決することを好む。だが、自分が目にしたことをありのままに語るべきだという信念を持っており、自分の考えをしっかり示す男だ。

[オートスポーツweb 2025年11月18日]

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