2025年F1第22戦ラスベガスGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル)のRB21。排熱用のルーバーは閉じられている
2025年F1第22戦ラスベガスGPの舞台であるラスベガス・ストリップ・サーキットは、第13戦ベルギーGP、第16戦イタリアGP、第17戦アゼルバイジャンGPと並んで、パワーサーキットだ。ホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎(トラックサイドゼネラルマネージャー)は、ラスベガスGP開幕前日にこう語っていた。
「ラスベガスは全開率がかなり高い部類のサーキットになります。ラップタイムに与えるパワーの影響であるパワー感度が大きいサーキットなので、ここに来るまでにどういうアロケーションにするかを考えていて、プールにあるなかでもっともフレッシュなエンジンをここで使用するために、前後のグランプリで使用するエンジンを決めています。たとえば、カーナンバー1番のエンジンは前回のブラジルで新品に交換したばかりなので、間違いなくそれを使います」
折原GMがグランプリ開幕前に、使用するパワーユニットを明言することは非常に珍しい。それだけ、ラスベガスGPは後半戦のグランプリで突出して、全開率が高いことがうかがえる。
では、なぜそのようなコースで新品またはマイレージがかさんでいないエンジンを使うのか。というのも、現在のF1はレギュレーションで供給するすべてのパワーユニットは同じモードで走らなければならず、新品エンジンだけが『ハイパワーモード』を使用できるわけではないからだ。折原GMはこう説明する。
「モードは変えられませんが、新品とそうでないのとでは燃焼が変わります。たとえば、新品だと100燃えるのが、マイレージがかさんだエンジンだと99しか燃えないということです。距離を走ったエンジンの燃焼室は目に見えないレベルで、どうしても変形が発生しています。そういう細かい部分で新品に比べると燃焼に関して差が出てくるんです」
プールに入っているパワーユニットは封印されているため、分解して燃焼室を直接見ることはできないが、事前の耐久テストでどうなっているのかというデータやサンプルをマニュファクチャラー側は当然持っている。したがって、これくらいの距離を走ると燃焼室がどうなるのかを把握できているというわけだ。
そのラスベガスGPでは、ほかのグランプリとは異なる状況に対応しなければならなかった。それは寒いコンディションだ。通常、レースは気温20度から30度付近で行われ、各チームはそのコンディションに合わせた冷却ができるようマシンを設計している。しかし、ラスベガスGPでは最高でも気温20度を超えることはなく、最低では10度以下というコンディションで走らなければならない日もあった。
「油脂類の作動レンジが決まっているので、ラスベガスのように気温が低いコンディションでは温めるという準備が必要になってきます。具体的に言うと、ボディワークはフルクローズにし、それでも足りない場合は車体のなかにある冷却システムに風が当たらないようにブランキングといってカーボンのカバーを取り付けたりします」
ただし、このブランキングはカーボンできているといっても確実に重量があるので、チーム側は無駄につけたくない。そのため、HRCは適正なクーリングをフリー走行で見極めなければならなかった。
土曜日に雨が降って、クライマチックチェンジ(気象変化)が宣言されたため、クーリングに関する変更はパルクフェルメ状態のなかでも可能となった。そのなかで、1戦しか使用していない比較的フレッシュなエンジンを搭載したマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が優勝した。
[オートスポーツweb 2025年11月27日]