画像:「with MUSIC」番組HPより いま、音楽番組に求められているものは何でしょうか。いや、そもそも音楽番組自体が求められているのでしょうか。
◆終わりを迎える『with MUSIC』の現状
『with MUSIC』(日本テレビ)が来春で終了すると報じられました。番組開始から約2年、視聴率に改善の兆しが見えなかったことが、終了の判断につながったようです。
ネット上では、有働由美子さんと松下洸平さんの両MCに対する厳しい意見が飛び交っています。「有働さんのトークは正直面白くない」とか、「松下洸平さんのリアクションが薄く、ゲストを盛り上げる気がないように見える」など、散々な言われようです。
何度か番組を観たことのある筆者もほぼ同じ感想です。有働アナは下世話に振れるのか、それとも真面目に進めるのかがいまひとつはっきりせず、さらに松下洸平さんもその隙間を埋めるような話術があるわけではありません。
そのため、小峠英二さん、大島美幸さん、吉村崇さんといった芸人がサポート役として登場したのでしょう。しかし、かえって散漫な印象になり、ゲストが置いてけぼりになる場面が目立ちました。
◆音楽の魅力を伝えきれない現実
加えて、肝心の歌唱・演奏コーナーも迫力に欠けます。NHKをはじめとする民放各局でも音楽番組は放送されていますが、日本テレビ系の音質はやけにシャカシャカと軽く、テレビ越しにカラオケの音漏れを聞いているような印象です。これでは音楽の魅力は十分に伝わりません。
音を圧縮せざるを得ない現実的な制約はあるのでしょう。しかし、それにしても平板で薄すぎるのが正直な印象です。
こうした経緯もあり、『with MUSIC』はスタート当初から現在に至るまで焦点が定まらないまま進んできました。そのため、終了もやむを得ないという印象です。
しかし、司会のトークや音質が改善されていたとしても、『with MUSIC』が人気を回復できたかと言われると、そこはやはり難しかったのではないでしょうか。
◆音楽番組が抱える構造的課題
なぜなら、現代において音楽だけの番組を成立させること自体が非常に困難だからです。その背景には、番組の出来不出来だけでは片付けられない、大きな構造的変化が存在していると考える必要があります。
現状のヒットチャートを見ると、同じアーティストの楽曲が複数ランクインしているケースが目立ちます。たとえば、『Billboard Japan Hot 100』の11月19日付チャートを見ると、Mrs. GREEN APPLEが13曲を筆頭に、HANAが8曲、米津玄師が6曲、back numberが6曲ランクインしています。つまり、この4組のアーティストでチャートの3割以上を占めている計算です。
つまり、「日本のポップスが盛り上がっている」「これで世界に向けて打って出るんだ」と盛り上がる一方で、限られたアーティストによる寡占状態が進んでいるとも言えます。果たして、これをもって音楽シーン全体が活発だと言えるのでしょうか。
盛り上がっているように見えますが、よく見ると、それは裾野が広がったわけではなく、特定のアーティストのファンが巨大化し、市場を押し広げているに過ぎません。これは日本に限った話ではなく、アメリカでもテイラー・スウィフトがアルバムを出すと、その収録曲でチャートを占めてしまう状況が見られます。
いずれにせよ、ごく限られたアーティストが実利と注目を独占し、そこに巨大なファンダムが形成されるというビジネスモデルが固定化されつつあるのです。
そこに、SNSの台頭によってテレビが持っていたライブ感のある公共性も失われつつあります。つまり、テレビで音楽を聴き・観ることに対するリアルタイムの神聖さが著しく損なわれているのです。
◆音楽は単独で主役になれない時代
では、推し活とタイパ全盛のご時世において、毎週さまざまなミュージシャンや曲を紹介する音楽専門番組のニーズは、本当にあるのでしょうか?
むしろ、従来型の音楽番組では取り上げきれないものを、他ジャンルの番組でポップアップ的に紹介したほうが、視聴者の関心を緩やかに広げられると考えられます。
なぜなら、その視聴者は特定のアーティストを目当てにしているファンではなく、フラットな視点を持つ、良い意味で惰性の観客だからです。「推し」を観ることが目的ではない外部の人たちの感性に訴えかけることができるのです。
たとえば、ニュース番組に出演したついでにギターを軽く弾きながら歌う、といった演出です。視聴者は流通している音源とは全く異なる魅力を感じるでしょう。もっとも、現状でそれができるミュージシャンがどれほどいるかという問題はあります。
ともあれ、そのほうが、ゲスト出演するアーティストのファンが推し活の一環としてしか視聴しない「音楽番組」よりも、はるかに効率的に音楽を届けられると思われます。
いまや、音楽は他の大枠の番組の一要素として溶け込むほうが、現代の視聴体験にフィットします。音楽が単独で主役になるよりも、さまざまなジャンルや文脈の中に紛れ込んだ「オマケ」として存在するほうが、より生きるのです。皮肉にも、まさに「with MUSIC」の名の通りです。
<文/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4