自民会派に合流することが決まった無所属の衆院議員3氏。(左から)阿部弘樹氏、斉木武志氏、守島正氏=28日、国会内 高市政権が衆院の過半数(233議席)を確保した。憲法の衆院優越規定により、与党だけで予算案を成立させることができ、政権基盤は強化された。「少数与党」脱却を狙った衆院解散・総選挙は遠のいたとの見方が出る。ただ参院との「ねじれ」は残り、自民党と日本維新の会に不協和音も生じた。「数合わせ」で政権運営の展望が開けたとは言いがたい。
◇製造物責任
「今まで以上に安定した政権運営ができる」。自民の鈴木俊一幹事長は28日、無所属の衆院議員3人と会談し、自民会派への合流を確認した後、記者団に安堵(あんど)した様子で語った。
高市早苗首相は高い内閣支持率を維持するものの、衆院では与党で過半数に3人届かず、不安定な政権運営を余儀なくされていた。
自民が狙いを付けたのは保守系の無所属議員だった。3人は10月の首相指名選挙で高市氏に投票。これに先立ち麻生太郎副総裁は無所属議員を自身の事務所に招いて協力を呼び掛け、10月下旬には古屋圭司選対委員長が国会近くの中国料理店で「お礼会」を開いた。古屋氏は「(高市首相を誕生させた)製造物責任がある」と迫った。
「政治は数、数は力だ」。自民幹部は田中角栄元首相の言葉を満足げに唱えた。
自民は1996年の衆院選で過半数に届かず、野中広務幹事長代理(当時)が野党・新進党議員らを引き抜く「一本釣り」に奔走した。野中氏は「釣り堀のおやじ」と自称し、多数派工作に応じたのが高市氏や石破茂氏(前首相)だった。
衆院で高市内閣不信任決議案が可決し得る状況だったため、首相周辺からは「年明け解散」論も浮上していた。しかし、過半数確保により早期解散の「大義名分」は失われたと言える。政府関係者は「首相は仕事がしたい人。解散は遠のいた」と指摘。自民幹部も「解散はない」と明言した。一方で「支持率が高いうちの方がいい」(自民中堅)との期待も根強い。
◇火種残る
無所属3人は9月、維新執行部を批判して除名された経緯がある。自民会派入りが維新側に伝わったのは今月26日。首相官邸での会議で隣り合った鈴木氏から耳打ちされた維新の中司宏幹事長は驚いた様子だったという。
首相は過半数確保の報告を受けると、周囲に「維新が納得したならよかった」と胸をなで下ろした。これに対し、維新の吉村洋文代表は28日、記者団に「筋が通っていない」と批判し、両党のずれは表面化した。維新幹部は「勝手に決められた。火種は残る」と不満を示した。
与党は参院で過半数に6議席届かず、法案を成立させるには野党の協力が欠かせない。立憲民主党の野田佳彦代表は記者会見で「(与野党は)ほとんど拮抗(きっこう)した状況で、政権運営の緊張感は同じではないか」とけん制。国民民主党の榛葉賀津也幹事長は「参院の重要性がクローズアップされる。謙虚に議論を進めてほしい」とくぎを刺した。

首相官邸に入る高市早苗首相=28日、東京・永田町