【映画コラム】実話を基に映画化した2作『ペリリュー −楽園のゲルニカ−』『栄光のバックホーム』

0

2025年11月29日 08:10  エンタメOVO

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

エンタメOVO

(C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー 楽園のゲルニカ」製作委員会

『ペリリュー −楽園のゲルニカ−』(12月5日公開)




 太平洋戦争末期の昭和19年。21歳の日本兵・田丸均(声:板垣李光人)は、南国の美しい島・パラオのペリリュー島にいた。漫画家志望の田丸はその才能を買われ、亡くなった仲間の最期の雄姿を遺族に向けて書き記す「功績係」という任務に就いた。

 やがて米軍の猛攻が始まり、日本軍は追い詰められていく。いつ死ぬか分からない恐怖、飢えや渇き、伝染病にも襲われ、極限状態に追い込まれていく中で、田丸は正しいことが何なのかも分からないまま、仲間の死を、時にうそを交えて美談に仕立て上げていく。

 そんな田丸の支えとなったのは、同期でありながら頼れる上等兵の吉敷佳助(声:中村倫也)の存在だった。2人は互いに励まし合い、苦悩を分かち合いながら絆を深めていくが…。

 戦争がもたらす狂気を圧倒的なリアリティーで描き、第46回日本漫画家協会優秀賞を受賞した同名戦争漫画をアニメーション映画化。太平洋戦争末期、激戦が繰り広げられたペリリュー島を舞台に、極限状態の中でも懸命に生きた若者たちの姿を描く。

 監督は久慈悟郎。脚本は西村ジュンジと原作者の武田一義が共同執筆。アニメーション制作はシンエイ動画と冨嶽が共同で担った。

 史実では、日本の統治下にあったペリリュー島に1944年9月に米軍が上陸。激戦の末、日本軍兵士のほぼ全員に当たる約1万人が戦死し、生き残ったのは34人だけだった。生還者を取材した原作者は史実を基に若い兵士の視点で漫画を描き上げた。

 親しみやすい三頭身のキャラクターが戦場の悲惨な現実に直面していく姿に、最初はアンバランスさや違和感を覚えるが、慣れてくると、これはアニメーション(漫画)の特性の一つで、二次元で描くことで残酷な描写が緩和される半面、メルヘンタッチが逆に悲惨さを強調するという二面性を表現していることに気付く。

 今も世界各地で戦禍が絶えない中、改めて戦争のむごさや理不尽さを思い知らせる力を持った映画だと言えるだろう。

『栄光のバックホーム』(11月28日公開)




 2013年のプロ野球ドラフト会議で指名され、鹿児島実業から阪神タイガースに入団した18歳の横田慎太郎(松谷鷹也)。誰もがその将来に大きな期待を寄せていたが、突然横田の目にボールが二重に見えるという異変が生じる。

 下った診断は脳腫瘍という過酷なものだった。それでも横田は、家族や恩師、チームメートら多くの人々に支えられながら、病に立ち向かっていく。19年の引退試合では、センターからの“奇跡のバックホーム”を披露し、スタジアムを感動の渦に包んだ。だが横田のドラマはそこで終わりではなかった。

 将来を嘱望されながらも、21歳で脳腫瘍を発症して引退を余儀なくされた元プロ野球選手・横田慎太郎の軌跡を、実話を基に映画化。横田の母親役で鈴木京香、父親で元プロ野球選手の真之役で高橋克典が共演。

 本作を見ると、野球ファンの間では一種の伝説になっている“奇跡のバックホーム”は序章であり、その後の横田の壮絶な生き方こそが彼の生きた証しだったことがよく分かる。

 また、横田を演じた松谷の父・竜二郎は元プロ野球の投手であり、松谷自身も大学まで野球をしていたという。それだけに試合や練習のシーンのリアルさが目を引く。スポーツを描く場合は、これも大事な要素の一つだ。

 実際に横田と関わった、当時のタイガースの関係者を演じたのは、加藤雅也(金本知憲監督)、古田新太(掛布雅之コーチ)、大森南朋(平田勝男二軍監督)、前田拳太郎(北條史也選手)、萩原聖人(田中秀太スカウト)、上地雄輔(土屋明洋トレーナー)、柄本明(球団OBの川藤幸三)。彼らと当人を見比べてみるのも一興だ。

(田中雄二)

もっと大きな画像が見たい・画像が表示されない場合はこちら

    ニュース設定