
11月25日、映画『国宝』の興行収入が173.7億円を突破して、実写の邦画では歴代1位となったことが発表された。
これまでトップの座を守っていたのは、2003年公開の織田裕二が主演した『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』で、173.5億円。この記録が更新されたのは、なんと22年ぶりとなった。
社会現象と言えるほどの大ヒットの『国宝』
「『国宝』は吉沢亮さんが主演を務め、横浜流星さんが共演しており、2025年6月6日に公開されました。歌舞伎役者の家に引き取られた主人公の半生を描いた物語で、吉沢さんと横浜さんは歌舞伎の稽古におよそ1年半を費やしたそうです。公開以降、瞬く間に口コミで広がり、いまや社会現象と言えるほどの大ヒットとなりました」(スポーツ紙記者)
この快挙について、70万人以上のフォロワーを持つ“映画感想TikTokクリエイター”のしんのすけさんに聞くと、
「ここまで大ヒットするとは思っていなかったので、本当に衝撃でしかないですね。公開前は“せっかく、こんなに面白い映画なのに大変になるだろうな”なんて思っていたんです」
|
|
|
|
と、驚いた様子だが、どういうことか。
「一般的な“ヒットする要素”が見当たらないんです。“歌舞伎”という一見とっつきにくいテーマの映画が今までヒットしたことは僕の記憶にはないですし、“3時間の映画”を見たいとは、なかなか思わない。吉沢亮さんと横浜流星さんが出演していて、これまでにヒット作をたくさん生み出している李相日(リ・サンイル)監督の新作だからといって、それがここまでの大ヒットに繋がるという時代でもありませんから」(しんのすけさん、以下同)
現在、10月31日に公開された山田裕貴主演の『爆弾』も連日、映画館が満席になるなど大きな話題を呼んでいる。倍賞千恵子と木村拓哉が主演を務める11月21日に公開された『TOKYOタクシー』は公開初週の動員ランキングで1位を獲得。こうした“実写邦画”の盛り上がりを牽引したのも、やはり『国宝』だという。
「というのも、『国宝』の公開以前は、ここまでの盛り上がりではなかったと思うのです。映画に限らずですが、何か1つがきっかけになって、あれもこれも……ということはよくあると思うのですが、『国宝』を観に行った人に映画館が“ハブ”となって、他の作品にアクセスしていったのではないでしょうか。実写邦画を観ると今後の予告が流れるので、そこで気になった作品を観に行くという、すごくシンプルなことが起きているのだと思います」
アニメ映画のヒット作
ここ最近は、アニメ映画のヒット作が多かった。
|
|
|
|
「例えば『鬼滅の刃』を観に行ったら、基本的にはアニメの予告が流れる。そうすると、次もアニメ映画を観に行くという流れが起こっていました。近年の実写邦画には、今まであんまり大ヒット作が多くなかったので、そういうサイクルが生まれにくかったように思います。そのため、失われつつあった“予告システム”みたいなものが『国宝』によって復活したのかもしれません」
こうして連日、映画館がにぎわうようになったが、実写邦画が粒ぞろいなのは「“今年が特別”という印象はあまりない」という。では、2025年の実写邦画には、どんな傾向があったのか。
「『国宝』に出演している吉沢さんと横浜さんは、これまで良いか悪いかは別として、アイドル俳優のような見方をされがちでした。その2人が“実力派“として『国宝』という大きな作品の正面に立っています。
このように今までのキャリアからステップアップするようなことが、今年はすごく活発だったように思います。山田さんの『爆弾』や、北村匠海さん主演の『愚か者の身分』もそう。『TOKYOタクシー』の木村さんも、結局“強い”と思わされました。これまで世間に持たれていたイメージを覆して、俳優としての矜持が見えてくる作品がたくさんあったのが2025年だと思います」
2026年も“国宝級”の映画がたくさん生まれることを期待したい。
|
|
|
|
<識者プロフィール>
1988年、京都府生まれ。映画感想TikTokクリエイター。映像作家、専門学校講師。京都芸術大学映画学科卒業後、東映京都撮影所入社。時代劇ドラマ『水戸黄門』助監督として業界入り。2014年に拠点を東京へ移し、映画『HiGH&LOW』シリーズ等の助監督を経て18年独立。19年夏よりTikTokで活動開始。映画レビュージャンルを開拓し人気を集める。現在は監督業を始め、ジョニー・デップらハリウッド俳優へのインタビューも行う。TikTok TOHO Film Festivalで三池崇史監督らと審査員を務める。
著書に『シネマライフハック 人生の悩みに50の映画で答えてみた』。

