
経済ジャーナリストでAll Aboutマネーガイドの酒井富士子さんに詳しく教えてもらいました。
繰り下げ受給に匹敵する!?現実的な運用戦略
繰り下げ受給には、年金額が最大84%増えるという大きなメリットがあります(※)。ただし、繰り下げを選ぶと一定期間は年金が入ってこないため、ライフイベントも多く生活費のやりくりが安定しない60代の方にとっては、現実的でないケースもあります。長期的に働けるかやいつまで健康でいられるのか読めない中で、年金を数年受け取らないという判断は、簡単ではありません。
そこで考えられる現実的な方法が、繰り下げはせずに年金を受け取り、その一部を投資に回すという選択です。
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全世界株式の利回りは、長期的に6〜8%程度が期待できるといわれています。これは繰り下げによる増額率と近い水準で、長期間継続すれば十分に効果が見込めます。
さらに、投資であれば「今月は1万円だけ」「来月は少し減らす」といった柔軟な調整ができます。こうした自由度は、老後の資産を長く持たせるうえでとても大きな意味があると思います。
生活費は年金でしっかり確保しながら、年金の一部を投資に回すことで、その資金部分が繰り下げ受給の増額分に相当するという、現実的で負担の少ない方法も選択肢となるでしょう。
ただし、短期的には下落して元本割れもありえます。65歳から投資を始めたら85歳以降に使うお金にあてることを考えましょう。
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夫婦で考えたい「基礎年金だけ繰り下げる」という方法
また、夫婦の場合におすすめしたいのが、基礎年金(国民年金)のみを繰り下げるという方法です。なぜ基礎年金だけ繰り下げるのかというと、万が一、夫(または妻)が亡くなった場合、残された配偶者が受け取る遺族年金に、基礎年金の部分は含まれません。
つまり、基礎年金を繰り下げて増額しておけば、夫婦どちらが長生きしてもその増額分は必ず本人が受け取れるということです。この点が、老後の長生きリスクに備えるうえで非常に有効だと感じています。
年金の受け取り方には、正解が1つではありません。繰り下げが向いている方もいれば、受給しながら運用を続けたほうが合う方もいます。大切なのは、「今の生活が成り立つこと」「無理なく続けられる方法を選ぶこと」だと私は思っています。
ご自身のライフスタイルやリスクの取り方に合わせて、最適なバランスを見つけていただければと思います。
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「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長歴任後、リクルートに転職し、定年あるじゃん、あるじゃん投資BOOK等の立ち上げ・編集に関わる。2006年にお金専門の制作プロダクション「回遊舎」を創業。「ポイ活」の専門家としても情報発信を行う。
(文:酒井 富士子(経済ジャーナリスト))
