2025全日本ロード第7戦鈴鹿 12月9日、一般財団法人日本モーターサイクルスポーツ協会(MFJ)のロードレース委員会は、2026年シーズンにおける全日本ロードレース選手権の変更点を発表した。
案内があったのは希望ゼッケン制度の採用、ST1000クラス性能調整優遇措置導入、JP250クラスのクラス名称変更と性能調整優遇措置導入、ヘルメット離脱システムに関する規則変更の4項目だ。
■希望ゼッケン制度の採用
全日本ロードでは、2020年まではチームやライダーがエントリー時に好きなゼッケン番号を選べる『希望ゼッケン制度』を採用していたが、2021年からは前年度ランキングに基づいてゼッケンが割り振られる『固定ゼッケン制度』へと切り替えられた。
この変更は新規ファンの獲得を狙ったもので、前年度の勢力図が一目で把握できる点を評価する声もあった。一方で、ゼッケンとライダーを結びつけて覚えているファンも多く、MotoGPをはじめ世界選手権で採用されている希望ゼッケン制度になじんでいる層からは、「毎年ゼッケンを覚え直すのが大変」との意見も上がっていた。
こうした状況を受け、5年続いた固定ゼッケン制度は今回廃止され、2020年までと同様に希望ゼッケン制度へ戻ることとなった。ただし、この制度が適用されるのは全日本ロードの年間エントリー者のみで、スポット参戦者やMFJカップ、地方選手権には適用されない。
MFJは希望ゼッケン制度を再度採用する理由を「スポーツ選手を応援するきっかけが、レースの『勝敗』だけではなく、人間性・価値観・物語への『共感』によるところが大きくなっています。このモーターサイクルスポーツ認知向上の大きな可能性を逃さないために、選手やチームの個性を象徴するパーソナルナンバーが使用できるように、希望ゼッケン制度を改めて採用します」としている。
■ST1000クラス性能調整優遇措置導入
全日本ロードST1000 クラスにおいて、競技のさらなる発展とレースの魅力向上を目的とした性能調整優遇措置が導入されることになった。ST1000クラスでは、異なる技術的特徴を持つ多様なマシンが参戦しており、その性能差がレース展開に影響を与える場面も少なくなかった。
新たに導入される性能調整優遇措置は、こうしたマシン間の性能差を適切に調整することで、より多くの車両が競争力を持って参戦できる公平な環境を整備することを狙いとしている。これにより、参加台数の拡大や、一方的な展開を抑えた接戦・逆転劇といった観客を惹きつけるレースシーンの創出が期待され、観客・メディア・スポンサーの関心向上を通じ、競技全体の価値向上につなげていくという。
性能調整の実現を支える『コンセッションパーツ』は、ST1000クラスが掲げる「一般市販車をベースに、最小限の改造とコストで参戦できる」という基本理念を損なわないよう、低コストで導入可能なパーツに限定されている。導入に向けた申請は車両メーカーおよび輸入販売店に限られ、適正な手続きのもとで運用される。また、コンセッションパーツの適用により特定車両の性能が著しく向上し、公平かつ魅力的なレースを阻害すると判断された場合には、2026年シーズン途中であっても性能調整の見直しが行われる仕組みが設けられている。
ST1000クラスの性能調整優遇措置に関する詳細は、2026年MFJ国内競技規則にて確認できる予定だ。なお、今回の規則は全日本ロードレース選手権ST1000クラスのみを対象としており、地方選手権のST1000クラスには適用されない。
■JP250クラスのクラス名称変更と性能調整優遇措置導入
全日本ロードと併催のMFJカップ、地方選手権のJP250クラスのクラス名称変更と性能調整優遇措置導入が決定された。
JP250クラスは、2017年に「排気量250ccの市販スポーツモデル」を対象としたカテゴリーとして誕生。しかし近年は国内外メーカーが生産するモデルの排気量が多様化し、その影響を受けて参戦マシンのラインアップも幅を広げている。結果として、カテゴリー名が示す排気量と実際の参加車両との間にずれが生じ、名称と実態が一致しない状況が続いていた。こうした課題を解消し、観客や参加ライダー、メディア、スポンサーなど幅広いステークホルダーにとって分かりやすく認知しやすいカテゴリーとするため、今回名称の刷新が決定された。
新名称は『JP-SPORT』で、『J(Japan)=日本国内のレース』、『P(Production)=一般市販車ベース』、『SPORT=軽量で競技性の高いクラスとして若手からベテランまで幅広いライダーに楽しんでもらいたいモーターサイクルスポーツ』という要素を組み合わせて構成されたものだ。
・新名称:JP-SPORT(正式略称:JP-S)・呼称:ジェーピースポーツ(正式略称:ジェーピーエス)
さらに、JP250(新名称:JP-SPORT)クラスでは、排気量や気筒数、車両重量などが異なる幅広いモデルが参戦している。こうしたスペックの違いはレースにおける競争力の不均衡を生み、結果として特定車種への偏りを招く要因となっていた。この状況を是正し、クラスとしてのレース性と魅力を高めるため、性能調整優遇措置の導入が決定された。
導入される措置は、同クラスの根幹である「一般市販車をベースに、最小限の改造と低コストで参戦できる」という理念を損なわないよう配慮されており、参加者が過度な負担なく利用できる内容が中心となっている。なお、JP250(JP-SPORT)クラスの性能調整優遇措置の詳細は、2026年MFJ国内競技規則にて確認できる予定であり、この新たなルールはMFJカップおよび地方選手権の両方に適用される。
■ヘルメット離脱システムに関する規則変更
2026年シーズンより全日本ロードにおいて、ヘルメット離脱システムに関する規則が改定される。これまでロードレース競技では、事故発生時にライダーの安全を確保する目的で『ヘルメットリムーバー』の着用が義務付けられており、この制度は20年以上にわたり運用されてきた。しかし近年、緊急時にヘルメットを安全に外すための『エマージェンシータブ』機能を備えたヘルメットが普及し始めたことから、運用の見直しが検討されてきた。
2024年シーズンには、全日本選手権に帯同するメディカルスタッフを対象に『エマージェンシータブ』機能の取り扱い講習が実施され、同時に実務面での意見収集が行われた。その結果、両委員会は同機能の有効性を暫定的に認め、2026年シーズンから全日本ロードに限り、選手が次のいずれかを選択できる新ルールを導入することを決定した。
・『ヘルメットリムーバー』を着用したヘルメットの装着・『エマージェンシータブ』機能を備えたヘルメットの装着
なお、『エマージェンシータブ』機能とは、ヘルメット内部のチークパッドに取り付けられたタブを引き抜くことでパッドが外れ、医療スタッフがライダーの頭部に負担をかけずにヘルメットを取り外しやすくする安全システムを指す。この規則変更が適用されるのは全日本ロードのみであり、地方選手権を含むその他の競技会では従来通り『ヘルメットリムーバー』の着用が義務付けられる。全日本選手権に参戦するライダーであっても、他の競技会に出場する際には従来規則に従う必要がある。
[オートスポーツweb 2025年12月11日]