「クマよ、早く冬眠してくれないか」出没に怯える市民の切なる願い、緊迫の“現地ルポ”

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2025年12月11日 08:10  週刊女性PRIME

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写真/共同通信社

「毎朝、職場の駐車場にマイカーを止め、車中から周囲を見渡します。山に近い薮などに“怪しい影”がないかチェックしてからドアを開け、薮に背を向けないで後ずさりするように建物に入ります。クマが出没しない都会に住んでいる人には、この恐怖はわからないでしょう」

 長野県に住む40代の男性会社員はそう話す。

“過去最悪”のクマ被害

 この男性は数年前、林道をジョギング中にクマに遭遇した経験がある。血の気が引いて身動きが取れず、「周囲の木に紛れてやり過ごしました。あまりに衝撃的だったので、その日を境にジョギングはやめましたね」と言う。

 環境省がホームページで公開しているクマの生態によると、北海道にヒグマが、本州と四国にツキノワグマが生息し、11月下旬から12月ごろには冬眠に入るとされる。

 2025年度のクマ類の捕獲数は9867頭(10月末暫定値)。11月末までに人身被害は230人、死亡者は13人といずれも過去最悪だ。11月下旬以降も各地で出没が続く。

 栃木県鹿沼市では11月23日、自宅の庭で作業中の74歳男性が体長約1メートルのクマに襲われ顔と上半身にケガ。岩手県釜石市では11月26日、市の判断による「緊急銃猟」で体長約1・2メートルのクマ1頭を駆除した。

 福井県勝山市では11月27日、集落の自宅敷地内で80代男性がクマに襲われて顔や両腕にケガ。秋田県横手市では12月2日、住宅街の空き家の小屋に体長約1メートルのクマが侵入し、麻酔の吹き矢で捕獲、駆除したという。

 同県での自衛隊のクマ捕獲支援活動は予定どおり11月末で終了したばかり。

 秋田県・鳥獣保護管理チームの担当者は言う。

「夏から秋にかけてクマの目撃例は激増しましたが、10月に比べ11月は出没件数が減っています。5月から県内にはクマ出没警報を出しており、人身被害や出没件数を過去5年のデータと比べるなどして警報期間を再再々延長し、12月末まで延ばしました。12月下旬にさらに延長するか判断することになります」

スーパーの買い物客まで…

 群馬県沼田市では11月28日午前1時過ぎ、JR沼田駅前の公衆トイレ内で69歳の男性警備員が体長約1〜1・5メートルのクマに襲われ、足を引っかかれて軽傷を負った。10月には市内のスーパーに体長約1・4メートルのクマが侵入し、買い物をしていた男性客2人がケガをする被害もあった。

駅やスーパーにクマが出没する事例は、少なくともここ数年はありませんでした。あるとすれば、山ぎわに近い集落や畑で見かけたとか、農園のリンゴが食べられたりする被害でした。移動経路をたどって周辺に聞き込みし、通りそうな場所に箱わなを仕掛けています。おびき寄せるエサは売り物にならない柿やリンゴのほか、ハチミツが好きらしいので蜜の搾りかすなどです」(同市のクマ対策担当者)

 その“大きな影”に怯えてか、別の動物と見間違えたとみられるケースもある。

 埼玉県飯能市で10月4日、同6日、11月17日にクマの目撃情報があった。小学校や公園に近い住宅街だ。

「目撃情報があれば、市の職員と地元猟友会のメンバーですべて現地を確認しています。3件ともクマの足跡やフンはありませんでした。代わりにあったのが蹄の跡です。クマは5本指で肉球がありますから明確に異なります。目撃情報を防災無線で流すと、ほかの住民から“私、同じ時間に同じ場所で黒いカモシカを見ましたよ”と情報が寄せられたこともあり、99%カモシカの見間違いだったと判断しています。近隣住民の多くは、このあたりに黒い毛のカモシカが生息しているのを知っているのです。しかし、たまたま通りかかった人がその背中だけを見たら“黒い大きな獣”なのでクマと勘違いするかもしれません」(飯能市・鳥獣被害対策室の担当者)

 例年、同市のクマ目撃情報は5、6件程度にとどまるところ、今年度は11月末時点で29件と約5倍となっている。東京都青梅市に隣接する同市の山間部などではクマが捕獲された実績があるため、警戒を緩められない。

「寒くなったから冬眠」するわけではない

 青梅市では、住宅地や通学路に近い場所でもクマの目撃情報がある。市教育委員会は市内の全小・中学校の児童・生徒に「クマ鈴」の配布を決定。市民はどのような気持ちで生活しているのか、現地を訪ねた。

「奥多摩に近いエリアに家がある人はポケットにクマ鈴を入れて持ち歩き、自宅周辺では取り出して鳴らすと話していました。私? 山には行かないのでクマ鈴は持っていません。みんなが安心して暮らせるようにクマは早く冬眠してほしいですね」(60代の自営業男性)

 ハイキングコースの一部はクマ出没のため通行止めになった。近くで犬の散歩をしていた30代の女性会社員は「犬を散歩させる人が減って寂しくなりましたね。でも、散歩させないわけにもいきませんし、クマに出合わないことを祈っています」と困り顔。

 70代の女性は日課とする40分の散歩コースを変更した。コース近くでクマが出没したためで、娘から「山の散歩はやめて! クマに追いかけられたら逃げきれないんだから」と約束させられた。

「市街地散歩に切り替えました。青梅市はどこを歩いても景色はいいんですよ。昔からクマは山にいます。イノシシやシカは畑の作物を食い荒らしますが、クマは人里に下りてきませんでした。知人女性が“木の実をたくさん置いてお腹いっぱい食べさせて冬眠に誘導したら?”と話したら、仲間からは“ダメよ、クマがたくさん集まってきちゃう”と言われたそうです。どうやって冬眠を確認すればいいんでしょうね」(同・70代女性)

 クマの生態に詳しい森林総合研究所・東北支所の動物生態遺伝チーム長を務める大西尚樹さんはこう話す。

「山の中のクマは冬眠を始めています。例えば秋田県のデータで出没数はかなり減ってきました。クマは雪が降ったり寒くなったから冬眠するのではなく、基本的にエサがなくなると冬眠するのです。今年のようにエサが少ない年は早く冬眠に入ります。町に出てくる個体は“いいエサ場”を見つけているから出てきていると考えられます。この時季は主に柿などでしょう。クマのエサになりそうなものは早めに撤去しましょう」

 人間は寒くなってくると暖かい布団が恋しくなるが、クマはそうではないようだ。市民たちの切なる願いが届くのはいつか─。

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