再び占領下に戻ったよう...。米軍憲兵が「基地外で民間人を拘束」の衝撃

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2025年12月11日 09:00  週プレNEWS

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米軍憲兵から求められた身分証の提示を断ったことで取り押さえられる米国人旅行者の男性。後ろに居合わせた別の男性は、憲兵に対して恭順を示すかのように両手を上げる


米軍憲兵から求められた身分証の提示を断ったことで取り押さえられる米国人旅行者の男性。後ろに居合わせた別の男性は、憲兵に対して恭順を示すかのように両手を上げる


「私は軍人ではない!」。極東最大の米軍嘉手納基地を擁する沖縄県沖縄市の「ゲート通り」に外国人男性の叫び声が響いたのは11月22日の深夜のことだった。

米軍の犯罪防止を目的としてパトロール中だった米軍憲兵(ミリタリーポリス、MP)が、米兵と誤認して男性を一時拘束したのだ。

男性の告発を受けて米軍機関紙や地元メディアが報じ、SNSでも拡散されて米軍の対応への批判が集まった。しかし、日本の主権を脅かす米軍の横暴が常態化している中で起きた事態だっただけに、地元からは「いつかはこんなことが起きるだろうと思っていた」との声も上がる。基地の島「沖縄」でいま何が起きているのか。

【"BLM"の一事案として拡散】

米軍準機関紙「星条旗新聞」など複数のメディアによると、問題の拘束事件が起きたのは11月22日午前2時ごろのことだった。単独パトロール中だったMPの隊員らが、飲食店前にいた米国籍の民間人男性を「軍関係者」と疑い取り囲み、身分証の提示を求めた。男性は「私は軍人ではない」と抵抗したが、憲兵は聞き入れず男性の体を持ち上げて地面に叩きつけ、そのまま手錠を掛けて拘束した。

当時の様子を記録した動画がSNS上に投稿されると、たちまち拡散され、米国本土で大炎上する事態となった。

「被害に遭ったのが黒人男性であったことも炎上が広がる一因になったようです。米国では2020年に米ミネアポリス近郊で、白人警官による不適切な拘束によって黒人男性が死亡した、いわゆる『ジョージ・フロイド事件』を発端として『Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)運動』が巻き起こりました。

米国内では、このBLM運動をはじめとする黒人差別が絡む事案には世論が敏感に反応する傾向があり、今回の誤認拘束の件も、同様に黒人コミュニティーの間で大きな批判が起きたようです」(地元メディア関係者)


日米地位協定により「治外法権」となっている米軍基地。しかし米軍憲兵による民間人拘束はフェンスの外で起きた


映像には取り押さえられた男性が「自分を拘束する権利はないだろう!」と声を上げるシーンが収められていた。それに対し、MP隊員は「IDを見せない人間は日本人でも拘束できる。その後、日本の警察に引き渡す」と言い放っている。幸い、男性はその後、「誤認拘束」であることが判明し、現場で解放されたという。

「在日米軍司令部もその後、地元メディアの取材などに、この男性が軍関係者ではない民間人だったことを認め、今回の拘束は行き過ぎだったとして問題視しています。在日米軍は今回の事案の調査を進めるとしており、MPによる単独パトロールも一旦取り止め、隊員の再訓練を行う方針を示しました。米軍としては早い対応で、危機感の現れだとみていいでしょう」(同)

ただ、そもそもMPは米軍の規律を守り、米兵の犯罪を取り締まるのが職務の「米軍の警察」という立場だ。米軍と米軍属、その家族らの日本国内での地位を定める日米地位協定に基づき、基地外での活動を一部認められているが、もちろん、日本の警察のような「逮捕権」は有していない。なぜそんな外国の警察が、「パトロール」と称して基地外で強権を発動できたのか。そこには伏線がある。

【主権を脅かす憲兵パトロール】

「米軍は、2024年に相次いで発覚した米軍による性犯罪事件の再発防止策として、今年4月から沖縄県警と一緒に『合同パトロール』と称したMPによる見回りを始めていました。さらに9月からは沖縄市や那覇市の繁華街で憲兵による単独パトロールにも踏み切っていたのです。

すでに米軍内で実施されていた深夜の飲酒や外出を規制する『リバティー制度』(兵士の行動規制策)の順守を徹底させる名目ですが、合同パトロール自体にもその是非を巡って地元では議論になっていた中で、なし崩し的に行っていたのが今回の問題につながった単独パトロールでした」(同)

かつて見られなかった光景に、地元では戸惑いと不安が広がる中で起きたのが今回の事案だったというわけだ。

日本の法制度上、現行犯でもない限り警察官以外の私人が他人の身柄を拘束することは許されないのは言うまでも無い。それは米軍の憲兵であっても例外ではない。今回のケースは現行犯逮捕ですらなく、男性が身分証の提示を拒んだだけで犯罪行為は何ひとつ行われていなかった。

前出の地元メディア関係者は、「日米地位協定上もMPが、基地外で逮捕権を行使できるのは3要件に限られている。一つは、基地周辺であること、二つ目が、基地の安全に関わる容疑であること、そして三つ目が現行犯であること。今回の事案は、嘉手納基地に近いということはあったにせよ、ほかの二つの要件をまったく満たしておらず、MPが地位協定の中身をきちんと理解して行動していたのかについても疑問符が付きます」と憤る。


嘉手納基地に連行されたのち、拘束を解かれた米国人男性。その際に憲兵は「IDを見せない人間は日本人でも拘束できる」と発言した


こうした米軍の対応については、捜査関係者の間からも疑問の声が上がっている。

「日本の法律をまるで分かっていない。主権侵害にも程がある」と断じるのは、ある県警OBだ。米兵に絡む事件の捜査にも関わった経験のあるこのOBは怒気をはらんだ口調でこう続ける。

「30、40年前のおれが現役の時代は、沖縄にいる外国人といったら米兵がほとんどだったが、今はそんなご時世ではない。ましてや、『現行犯』でもない民間人に手錠をかけるなど言語道断だ。

日米地位協定では米軍が民間地域で刑事上の権限を及ぼせる対象は米軍関係者に限られる。今回の憲兵隊員の行動は明らかな越権行為であり、日本の主権を踏みにじるものに他ならない」(県警OB)

【米軍はパトロール継続の意思】

今回の事案を受けて米軍側はMPによる「単独パトロール」を中止するとしているが、一方で、「日本側との合同パトロールは今後も続ける」との姿勢は崩していない。

本来、MPによる市中パトロールは、米兵による事件・事故を「未然に防止する」名目で導入されたものだとされる。ところが、その実態は、日本の警察官と並んで繁華街を巡回し、場合によっては取り締まりまで行うというものにほかならない。

現在、開会中である国会で、外務省が、日米合同と単独を合わせた4月以降の巡回実施回数は合計33回、逮捕者は107人にのぼることを明らかにしており、米軍が当初の目的を逸脱しつつあることも詳らかになっている。

「MPによる市中パトロールが始まったきっかけは、在日米軍司令部が、相次ぐ米兵絡みの事件発覚を受けて2024年7月に突如新たな『フォーラム』の創設を打ち出したことでした。米軍側はこの新たな枠組みについて、2017年を最後に途絶えていた『CWT(事件・事故防止のための協力ワーキングチーム)』以来の地元協議の仕組みを再構築するものだと説明しています。

このCWT自体も2016年の米軍属による女性暴行殺人事件を受けて設立されたものでしたが、長年放置され、実効性に対して疑義が生じていました。今回、新たに創設したフォーラムなるものも、その中身については明らかにされてこなかった。

そんななかで突然、始まったのが、日本の主権侵害につながりかねない市中パトロールだった。沖縄側の不信感は拭えないまま見切り発車した印象は否めません」(前出のメディア関係者)

前出の県警OBによると、米兵によるパトロール自体は「1972年の沖縄返還まではよく見る光景だった」というが、沖縄の日本復帰後は、当時の警察庁の意向もあり、長らく行われてこなかったという。

「基地外をMPが巡回するという構図自体、米軍統治下の占領時代を彷彿とさせる光景だ。日本の治安は日本の警察が守るというのが原則だ。その原則に反して基地のフェンスの外、それも日本人が生活する街中で米軍がフリーハンドで行動する現状は再び占領下に戻ったようで気分がいいものではない」(前出の県警OB)

沖縄は本当に日本の主権が及ぶ土地なのか―。沖縄県内ではこんな疑念が広がりつつある。しかし、残念ながら、その危機感は日本社会全体で共有されているとは言い難い。

やりたい放題の米軍に主権を脅かされている現実に、日本人はあまりにも鈍感すぎるのではないか。

【写真】拘束を解かれた米国人男性

文/安藤海南男 写真/photo-ac.com、facebook

このニュースに関するつぶやき

  • 嘉手納基地ならNCISも捜査に乗り出してるんじゃないの? NCIS in Okinawa もシリーズ化されるのかな?
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