写真 Snow Man 岩本照が屈強なボディガード・北沢辰之助を演じる主演ドラマ『恋する警護24時 season2』(テレビ朝日系)最終回が、12月12日よる11時15分から放送される。
2024年に「オシドラサタデー」枠で放送された前作『恋する警護24時』から「金曜ナイトドラマ」に放送枠が変わり、辰之助のさらなる成長物語をじっくり描く。そこで今回はオリジナル企画として引き続き脚本を担当する金子ありささんにインタビューを行った。
後編では両シーズンの名場面秘話やこれまでの脚本作品に共通するテーマ性、シリーズ作品としての意義など、イケメン研究家・加賀谷健が迫った。
◆ヒロインの強さは「剥がされて出てくるものであってほしい」
――両シーズンの名場面なども振り返っていきたいと思います。まずseason2第3話です。(話数としての)経過点として見ていたら、さりげない感動回でした。習い事で忙しい少女の警護を担当することになった辰之助が野原に座り、彼女を励まそうとして「ボディガードとして一言言わせてください」と前置きしながらこう言います。「ここがあなたのいる場所です。立って地面に足がつく。ここです。そのことを忘れないでください」と……。
金子ありさ(以下、金子):辰之助なら言いそうだなと思い、あの台詞にしました。そして何より本作の神田エミイ亜希子プロデューサーから「辰之助と少女の交流が見たいです」とリクエストがあったことで生まれた場面でもあります。神田プロデューサーは要所で本質的なことをおっしゃる方です。第3話は他の回と少し違い、辰之助の表情がバリエーション豊富に出てきたことも個人的には嬉しかったです。
――あの台詞には金子さんの脚本世界に登場する女性キャラクターに共通するテーマ性が込められていると思います。本作の岸村里夏(白石麻衣)だけでなく、『着飾る恋には理由があって』(TBS系、2021年)の真柴くるみ(川口春奈)にしろ、「自分の足で立つ」逞しさがあります。一方で痩せ我慢しているところもある。前作の里夏は「私なら大丈夫」としきりに繰り返し、くるみは「大丈夫じゃない」と言いながら同時に「頑張ろう」と自分を鼓舞します。
金子:そうですね。私は基本的に力強い女性キャラクターが好きです。でもその強さというのは徹頭徹尾パワフルということはではありません。やせ我慢をしていたり、揺れ動いたりする中から剥がされて出てくるものであってほしい。それこそが本当の強さのリアリティだと私は思っています。
余談ですが、レディー・ガガの「Gypsy」という曲のサビにとても好きなフレーズがあります。一生一人は嫌だけれど、今夜だけなら私は大丈夫。この歌詞は、恋人を置いてジプシーのように世界中を回ってコンサートをしているけれど、それが今夜だけだと思えば頑張ることができるというような、レディー・ガガ自身の気持ちを歌ったものだと思います。
これはすべての女性の揺れ動く気持ちを力強く歌っているんだ。私はそう思い、この歌詞に強く共感しました。一生一人は嫌だけれど、今夜だけは頑張って、そういう夜を過ごすうちに一生一人で頑張れるかもしれない。私の脚本でも揺れ動く気持ちをヒロインに乗せたいといつも思っています。今作では白石さんがその強さ、柔らかさを表現してくださっています。
◆令和に適した「ラブコメの方程式に頼らない作り」
――前作第7話にも辰之助と里夏の心と心が決定的に通い合う名場面があります。トレーニングルームで辰之助が取ろうとしたペットボトルが床を転がり、しゃがみ込んだ二人が初めてはっきりと見つめ合う瞬間です。まだ付き合っていないけれど、両思いではある。でもベタベタはしない。こうした慎ましい恋愛関係は金子脚本のルールでしょうか?
金子:ラブストーリーを書く時に糖度の高いラブシーンを作ることも当然ありますが、ボディガードの男性がオフの時にあまりでれでれしていると不謹慎に見えてしまうと考えました。ラブコメ部分を強くするとどうしても一過性、刹那的になってしまうところもあります。
続編が出来たからには、辰之助というキャラクターを育てたい。ドラマとしてののびしろを掴みたい。もちろんラブシーンも大事にしています。ですがそこばかり描いているとより強いもの、刺激のあるものを求めてしまうあまり、逆に物語がパワーダウンしてくる。そうするともう『次』はないのです。
さらにラブコメの方程式に則って告白、交際、プロポーズ……という順序で二人の関係性を進めると、似たり寄ったりのドラマになってしまうジレンマもあります。令和の恋愛観としてそれでいいのか? とも話し合いました。
それをもって『ふたりが近付いた』とするより、名前の呼び方が変わる、相手の考え方をそっと理解する、その心の寄り添いを大事にしたいと思いました。正解はないとは思いますが、少なくともseason2は、色んな要素をバランス良く組み合わせるよう努めました。
――ラブコメでありながらラブコメという枠組みに押し込められない。そうした人間関係は『着飾る恋には理由があって』、さらにジャンル的にはラブコメではない『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』(TBS系、2023年、以下、『ペンディングトレイン』)などの作品でも共通していることだと思います。
金子:そうかもしれません。単純な図式にとらわれず、二人の行く末を見守ること。season2の段階では、そうやって視聴者の皆さんの想像の中に収めておく方がおそらく期待感が持続される気がします。岩本さん自身もまたとてもストイックな方です。ラブ、コメディ、事件性、ドラマ部分、様々な引き出しを稼働させていく方がより演じがいがあるだろうと想像していました。
◆藤原丈一郎が体現するポジティブなキャラクターの魅力
――season2になっても辰之助と里夏は付き合っているのか不確かなところもあり、極めて曖昧な関係性です。友達以上恋人未満という表現がありますが、金子脚本ではよく「〇〇以上〇〇未満」というバリエーションで言葉を組み替えながら、「○○以上」の関係性を掘り下げています。恋愛関係を曖昧にする意図が常に念頭にあるんですか?
金子:ご指摘されるまで気づかなかったことですが、そうかもしれません。不確かさや曖昧な揺れ動きの境界線を引き切らない方がドラマがありますよね。想像の余地ともいうべきか。それでいうとseason2では、辰之助の後輩ボディガードである原湊(藤原丈一郎)の恋を描こうか描くまいか悩みました。彼は一応、恋愛エースというキャラクター設定です。
湊がどんな人と結ばれるのか。これもまた視聴者の想像上で漂っていた方がいいんだろうなと思いました。彼が主役のスピンオフドラマ『恋を忘れて警護 240日』も配信中ですが、シーズン毎にヒロインがきては去っていくという寅さんスタイルを取らせていただきました(笑)。里夏と辰之助にはカップル感があるからこそ、湊は曖昧さを背負う。そんなスーパーポップなキャラクターとして存在しています。
――藤原さんが演じるキャラクター性は『ペンディングトレイン』にも増して明るいですよね。
金子:私はテレビドラマが日常生活の楽しみで、毎週の活力であってほしいと思っています。だからポジティブで楽しいものを必ず入れたいんです。そういう意味で藤原さんが入るとそこが必ず約束される。いつも助けられています(笑)。側に明るい子がいてくれることが辰之助の救いでもある。二人の関係性をseason2でも温められたことが嬉しいです。
◆「誰かの心を守る話にしたかった」
――season2では新たな後輩キャラクター・三雲千早(成海璃子)が登場します。最初は辰之助とのリーダー争いで対立する熱血漢で、フロアを拡張した警備会社の階段で夜な夜なランニングに励む姿が印象的です。彼女の足元が画面上にアップで写る度にこのキャラクターも地に足はついているんだけれど、どこか影がある。本作中で最も陰影豊か造形だなと思いました。
金子:前作で辰之助の父親殺しの犯人だった漆原という宿敵を作った以上、それ以上の宿敵はもういないなと思いました。それで今度ははっきりとした悪ではなく、辰之助が戸惑い、信念が大きく揺らぐような善悪の境界線にいる人物として千早を造形しました。
さらに言うと千早は前作で復讐の思いに駆られている辰之助と重なってみえるキャラクターです。辰之助は里夏や湊たちがいたから線を踏み越えずに戻ってこられたけれど、千早は善と悪の間で揺らぎ続ける。辰之助からしても彼女の側にいる自分たちは何をしてやれるんだろうという葛藤がある。season2はそうした善悪の境界線で踏ん張り、時に苦悩しながら、盾にもなるボディガードの物語です。
ボディガードとして誰かを守るというのはどういうことだろうという問いかけを通じて成長を描く。これは岩本さんご本人にもお話ししました。誰かを守っていると思ったら、実は守られていた。それが前作だとすると、season2はそんな気持ちを誰かに返したい。いざ千早というバディが抱える過去に気付いた時、自分はどうしたらいいか。彼の中の問いかけになっていくように作り、最終的には誰かの心を守る話にしようと思いました。
――辰之助は人間関係のボーダーを踏み越えなかった。千早は踏み越えてしまった。辰之助の場合、そのボーダー上に常にいるのは警備会社の社長である塚本和江(松下由樹)でもあります。season2第2話での辰之助との会話で「単なる雑談」だからとアドバイスする和江の度量は、前作からさらに広くなっています。そしてこれは松下由樹さんでないと醸せないキャラだなと思いました。松下さんとは『ナースのお仕事4』(フジテレビ系、2002年)以来ですか?
金子:本当にお久しぶりで嬉しかったです。松下さんには、ハイブリッド型ドラマの基本は『ナースのお仕事』シリーズで学び、それを今回はオリジナル企画として実現できたこと、その両作品に松下さんにご出演いただけたことが幸せですとお伝えしました(笑)。松下さんはシリアスからコメディーへの転調でどんなワンアクション入れたら切り替えられるかなど、経験豊富、自由自在のお芝居をされる方です。このシリーズで改めて拝見して、ただただ感謝です。
――『ナースのお仕事』シリーズでは松下さん演じる婦長・尾崎翔子が「あさくらぁ!」と連呼するお馴染みのフレーズがありましたが、今回は「辰之助」と何度も名前を呼んでいます。
金子:『ナースのお仕事』から25年が経ち、面白い連動ですね(笑)。
◆「また会いたいと思ってもらえる」ドラマとして
――『ナースのお仕事3』はちょうど2000年の放送作です。遡って1996年に金子さんは脚本家デビューしましたが、当時と今のドラマ作りは何が違うと思いますか?
金子:そうですね、むしろ今も昔も変わらずにドラマ作りは難しいなと思います。狙って当たるものでもないですし、頑張って時間をかけたから当たるものでもない。奇跡的な偶然が左右する世界です。その中でも一つ言えることは、私個人としての価値観が固まったと思っています。
昔は視聴率など数字の評価をとても気にしていた時期もありました。幸い、このドラマはそういった評価もいただけていますが、でも今は視聴者の皆さんにドラマがきちんと愛されているという実感が何より大事だと思っています。あの人たちに会えてよかった。あの人たちにまた会いたい。それがドラマの幸せではないかと思います。
おそらく『恋する警護24時』はそういう愛され方をしているから前作からseason2までスムーズに成立したのだと思います。現場でも辰之助にまた会いたい、その活躍が見たいという思いから一丸となって作られていた。主演である岩本さんも、レギュラーである皆さんもまた集結し、続投してくださいました。この時代にこれほど幸せな仕事はないと思います。
――辰之助に会いたくなるという意味では『恋する警護24時 season2』は最終回放送後に相当なロスになるドラマだと思います。前作の出会い編、season2の遠距離恋愛編を経て、早くもseason3に期待したいところですが……。
金子:終わったばかりなので正直、まだ何も考えていません(笑)。シリーズ作品として続けていくには『なぜやるのか?』の理由が必要です。まず視聴者の皆さんが会いたいと思ってくださること。もしそれが叶えば、辰之助がどう輝くのか、何ができるのか考えていきたいです。私は今後、Snow Manの岩本さんを見る度に「辰之助は元気かな」とふと思う気がします。何なら岩本さんも鏡を見た時にふと思ってもらえたら(笑)、そして視聴者の皆さんも時折思い出して頂けたら嬉しいです。
最終回、辰之助が揺れ動き、悩んで到達したもの、彼が大切に思ったことを物語に込めたつもりなので、受け取ってもらえたら幸いです。ラストの辰之助の表情、素晴らしいですよ!
<取材・文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu