最高裁判所(yu_photo - stock.adobe.com)―[その判決に異議あり!]―
岡口基一元判事がSNSで性犯罪事件の刑事判決を紹介した投稿をきっかけに、弾劾裁判で罷免判決を受け、退職金が全額不支給となった。これを不服として同氏が審査請求を申立てたが、10月29日に最高裁は請求を棄却。最高裁による「不正義の連鎖」が完結した。
“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、「岡口元判事 退職手当不支給処分審査請求」について独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。
◆最高裁主導の「不正義の連鎖」で俺の退職金が剝奪される不条理
前回、最高裁が俺のSNS投稿について証拠もないまま事実をねじ曲げ、戒告処分を下したことを書いた。今回はその事実認定が「不正義の連鎖」を生み、最終的に約3000万円の退職金不支給という重大な処分に至った経緯を説明したい。
発端はSNSで、俺がある性犯罪に係る刑事判決を紹介したことだった。最高裁はこれについて「閲覧者の性的好奇心に訴え掛けて、興味本位で刑事判決を閲覧するよう誘導する意図で投稿した」との事実認定をし、俺を戒告処分にした。証拠は一切提出されていないにもかかわらず、だ。
この最高裁のデタラメな事実認定を、そっくり真似したのが東京高裁だ。
俺は遺族から投稿の内容について民事訴訟を提起されたが、その控訴審で東京高裁は、最高裁の事実認定を丸飲みし、投稿を不法行為と判断。事態はこれにとどまらず、俺の弾劾裁判においても、今度は「東京高裁が不法行為と判断した」ことが決定打となり、罷免の決定が下されたのだ。
通常、裁判所は審理を尽くしたうえで判決文を書くわけで、他の裁判所が出した「判断」を丸パクリすることなどあり得ない。民事で不法行為と認定されたからといって、刑事裁判でも有罪になるとは限らないのと一緒で、各裁判所は独立して自ら判断しなければならないのだ。
しかし、弾劾裁判所は所詮、寄せ集めの素人集団。
「東京高裁が不法行為と判断した」という事実だけを理由に、俺を罷免にしたのである。
こうして「不正義の連鎖」が続いたが、そのトリを最高裁自身が務めることになった。俺の退職金の不支給処分だ。
◆ド素人丸出しの理由づけ
退職金を不支給にするには、それを正当化するだけの「非違行為」がなければならない。事実上の不利益のない戒告処分をするだけなら、デタラメな事実認定をして非違行為を導くこともできた。だが、約3000万円の退職金を不支給にする処分では、さすがにそれはできない。困った最高裁は、いかなる事実がどういう理由で非違行為に当たるかを何ら明らかにすることなく、俺の退職金を不支給にするというとんでもない手に出た。
しかし、そんな逃げは許されない。そこで、その理由を最高裁に示させるために俺がしたのが審査請求という手続きであり、それが今回紹介したテーマである。
さて、最高裁はどういう屁理屈をつけてくるだろうか。俺はそれがとても楽しみだったが、出されてきたのはド素人丸出しの理由づけだった。
最高裁は、非違行為の有無について何ら判断することなく、「弾劾裁判所が罷免決定をした」という事実を退職金不支給の理由としたのである。
こうして、最高裁の事実の捻じ曲げで始まった「不正義のぐるぐる回り」は、最高裁による恥ずかしすぎる理由で完結となった。
俺は、この判断に対しさらに訴訟を提起することもできるが、そのつもりはない。最高裁の不正義の完結の仕方を確認できただけで、俺には十分だからだ。
拙著『裁判官はなぜ葬られたか 絶望の弾劾裁判』(講談社)には、弾劾裁判に至るまでの一連の事件を詳細に記載しておいたことを最後に付け加えておく。
<文/岡口基一>
―[その判決に異議あり!]―
【岡口基一】
おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー