閉園後の遊園地が出会いの舞台に? 4000人が熱狂する「大合コン」の裏側

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2025年12月13日 07:20  ITmedia ビジネスオンライン

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夜の遊園地の“大合コン”ってこんな感じ

 みろくの里(広島)、リナワールド(山形)、かみねレジャーランド(茨城)――。


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 「いきなりどうしたの? 地方の遊園地ばかり並べて」などと思われたかもしれないが、ある共通点がある。夜の合コンだ。


 閉園後の遊園地といえば、「しーん」と静まり返っているわけだが、そこに数千人の若い男女がぞろぞろ集まって、合コンを楽しんでいるのだ。正式名は「夜の遊園地 貸切り大合コン」(以下、夜の合コン)。イベントなどを手掛ける「バームクーヘン社」(富山市)が運営していて、全国の遊園地で広がりつつある。


 夜の合コンがスタートしたのは、2012年のこと。富山のミラージュランドで始めたところ、いきなり500人が集まった。関係者の想定を上回ったこともあって、その後も毎年のように開催(コロナ禍を除く)。地元の人からは「ミラコン」と呼ばれるほどメジャーなイベントに成長し、地域で根づいた存在に。そして10年ほどたって、2023年に全国へと進出したのだ。


 2025年は、大阪のひらかたパークや愛知の日本モンキーパークなどで、前年比1.6倍となる21回のイベントが開催された。さらに、埼玉の西武園ゆうえんちや山梨の富士急ハイランドでは、参加者が4000人を超えるほどの盛況ぶり(チケットは女性1人4000円、男性7000円、グループ割あり)。他の遊園地でもチケットの完売が続き、参加者は累計5万人を超えているのだ。


 というわけで、夜の合コンに参加する若者が増えているわけだが、その中でも個人的に気になっているのは、富士急ハイランドのお化け屋敷である。所要時間は50分ほどなので、かなり長い。恐怖でドキドキしている時間が長くなればなるほど、なぜか、そばにいる人に“ときめき”を感じてしまう。いわゆる“つり橋効果”によって、男女の仲もぎゅぎゅっと縮まるかもしれない。そんなことをニヤニヤしながら……もとい。ビ、ビジネス誌らしい話に戻そう。


 夜の合コンを10年ほど続けてきて、どのようなことが分かってきたのか。なぜ、開催数がどんどん増えているのか。バームクーヘン社のイベントプロデューサーを務める深川格さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。


●500人が集まった


土肥: 遊園地の閉園後に、若い男女が集まって合コンを開催している――。このことを知人に話したところ「えっ、そんなことをやっているの? 知らなかった」「オレ(40代)が若いころにやってくれたら、絶対に参加していた!」といった声がありましたが、そもそもどういったきっかけで始めたのでしょうか?


深川: いまから15年ほど前、街コンが流行っていました。地域の飲食店を会場に、参加者が店を“回遊”しながら、異性と出会う。街や商店街などを巻き込んだ、いわゆる大合コンですよね。


 そのころ、たまたま家族と一緒に遊園地に行きました。夜の観覧車から園内を見下ろして「ここで街コンをやれば、おもしろいかも」と思ったんですよね。その後、富山のミラージュランドに企画を持っていったところ、「すぐに始めましょう!」という話になって、2012年に開催しました。


 ただ、初めてのことなので、どのくらいの人が集まるのかよく分かりませんでした。今と違って、SNSはまだそれほど一般化していなかったので、飲食店を一軒一軒回って、告知ポスターを貼らせてもらいました。汗だくで準備を進めた結果、当日は500人が参加してくれました。


 初めてのイベントにもかかわらず、参加者が500人もいた。ということは、工夫次第でもっと増やせるのではないか。眠っているポテンシャルがあるのではないか。などと考え、関係者と「次、どうしようか」「こういう企画を加えると、もっと面白くなるのでは」といった話で盛り上がりました。


土肥: 参加者は入場時に色付きのリストバンドと、半分に破かれたトランプを受け取りますよね。会場では無料のアルコールやソフトドリンクが配られるので、参加者は飲み物を手にしながら「まだか、まだか」とそわそわしていました(笑)。しばらくして、ステージ上のMCが「乾杯!」と叫び、合コンがスタートするわけですが、その後もいろいろな仕掛けを凝らしていますよね。


 例えば、入場時に配られるリストバンドは7色あって、相手が同じ色だと声をかけやすくしたり、入場時に配られる半分のトランプの“ペア”を持つ異性を見つけると、アトラクションを優先的に乗れるファストパス券を手にできたり。さらに、ステージで女性が好みの男性のタイプを叫び、条件に合う男性が手を挙げてアピールしていました。このほかにも、さまざまな演出や企画を行っていましたが、始めた当初はどんな感じだったのでしょうか?


●1600人が集まった


深川: 最初のころは、ほぼなにもしなかったですね。「場所はこちらで用意しますので、あとは自由に楽しんでください」といったスタンスでした。ただ、参加者の中には、自分から声をかけられない人がいまして。喫煙所でタバコばかり吸っていたり、スマホの画面ばかり見ていたり。


 運営側としては、できるだけ多くの人に楽しんでもらいたい。参加して、満足度を高めてもらいたい。こうした思いがあるので、いろいろな仕掛けを考えてきました。もちろん、反応がよかったもの、そうでなかったものがありましたが、好評だった企画は続けつつ、改善を加えながら、現在のスタイルにアップデートしてきました。


土肥: 2012年から富山の遊園地でスタートして、ずっと同じ場所で実施してきました。ただ、2023年からは全国で始められていますよね。10年以上も富山の遊園地だけで行ってきたのに、なぜ全国展開しようと思ったのですか?


深川: 先ほど申し上げたように、初回は500人ほどが集まりました。その後も、参加者は順調に伸びていって、1000人を超えました。「じゃあ、次はどうしようか」という話になったときに、新型コロナの感染が広がって、開催できなくなりました。


 2022年に3年ぶりに開催することが決まりましたが、集客がうまくいくかどうか不安を感じていました。ただ、その不安は杞憂(きゆう)に終わりまして、1600人も集まったんですよね。なぜ、そんなに人が集まったのか。ステイホームが長く続いたので、人と出会いたい気持ちが高まっていたかもしれませんが、個人的にはSNSの普及が大きいかなと思っています。


 以前は、MCをラジオのパーソナリティーを務めている方にお願いしていましたが、コロナ後はSNSで人気のインフルエンサーにお願いしました。集客面でもポスターの枚数を減らして、SNSでの広告を増やしました。


 3年ほど休んでいても、なぜ多くの人が参加してくれたのか。彼氏や彼女がほしいという若者は世代交代していくので、「夜の合コン」というイベントが飽きられにくいのではないかと思っています。


 コロナ後でもたくさんの人が集まった。SNSの集客にチカラを入れた。参加者はどんどん入れ替わっている。こうしたことを踏まえると、富山だけにとどめておくのはもったいないのではないか。他の都道府県でも同じことを広めていくべきではないか。このように考え、他の遊園地にも提案に回りました。


●2000人が集まった


土肥: で、2023年に7回実施していますよね。集客はどうでしたか?


深川: 富山のほかに、愛知、広島、新潟、山口で実施しました。SNSでの集客に手応えを感じていたので、社内では「SNSだけでいいのでは。ポスターは不要なのでは」といった声がありましたが、まだちょっとビビっていまして。飲食店を回って、ポスターを貼らせていただきました。


 実際のところ、ポスターがどのくらいの効果があるのか。SNSによってどのくらい集客ができているのか。よく分からなかったんですよね。都市部と違って、地方ではどうしてもSNSの利用率が低い。ということもあって、ポスターを貼り続けたわけですが、愛知のラグーナテンボスで実施するときに、「SNSだけで集客してみては」「都市部だからたくさんの人が集まるのでは」という声がありました。思い切ってポスターをやめて、SNSだけで集客したところ、2000人が集まりました。


土肥: 夜の合コンの開催数をちょっと調べたところ、昨年は13回、今年は21回、来年は30回を予定しているそうですね。増えている要因は、どのように見ていますか?


深川: 遊園地側にとって、大きなメリットが3つあると思っています。1つめは、収入があること。遊園地を貸し切るにあたって、当社はその料金をお支払いしています。また、遊園地側は、フードや駐車場料金といった副収入も入ります。


 2つめは、運営面での負担が少ないこと。集客だけでなく、当日の運営も弊社が担当しています。もちろん、遊園地側にもお手伝いいただいていますが、あまり手間がかからないことが大きいのではないでしょうか。


土肥: 遊園地にとって、ナイトタイムエコノミー(夜間の経済活動)は大きな課題ですよね。全国の遊園地があの手・この手を使って、さまざまな取り組みをしていますが、夜の合コンのように負担が少ないのに、収入が積み上がるのはうれしいでしょうね。


●4000人が集まった


深川: 理由の3つめは、利用者が若い人であること。地方の遊園地では親子連れが多いわけですが、夜の合コンには若い男女がたくさん集まります。合コンをきっかけにカップルが生まれれば、遊園地のイメージアップにもつながるのではないでしょうか。


土肥: 話はちょっと変わりますが、「カップルで遊園地に行くと別れる」という謎の都市伝説がありますよね。「遊園地名+別れる」で検索すると、ネガティブな情報がたくさん出てきます。しかし、多くのカップルが遊園地で生まれれば、「遊園地名+出会い」で検索したときに前向きな口コミが増え、遊園地のイメージアップにつながるかもしれません。


 ところで、このイベントのチケットは完売することが多いですよね。これまでの来場者数は過去最高で4000人だそうですが、もっと増やしてもいいのでは?


深川: さらに増やしたいと思っているのですが、オペレーションの問題がありまして。参加者の入場にどのくらい時間がかかるのか、ドリンクは全員に行き渡るのか、アトラクションにたくさん乗れるのか。


 「飲み放題」とうたっているのに、「飲めなかった」という声が出てはいけません。「乗り放題」としながら、「行列が長くて乗れなかった」という不満が出てもいけません。まずは4000人で成功させて、知見をためる。その上で、「問題なく運営できる」という手応えが得られれば、参加人数を少しずつ増やしていきたいなあと思っています。


●富山で「ミラコン」が定着


土肥: 集客面はほぼ成功しているわけですが、現状の課題をどう見ていますか?


深川: まだまだ厳しい声をいただくことがあって、合コンの中身を充実させていかなければいけません。特に「もっと背中を押してほしかった」という指摘が多いんですよね。


土肥: ん? 先ほども話に出てきましたが、喫煙所でタバコを吸っていたり、スマホの画面をじーっと見ている人たちですかね。


深川: 運営側としては、不満を感じる人をゼロにしなければいけません。そのために、どうすればいいのか。さまざまなイベントを用意して、孤独を感じている人でも、参加しやすい仕掛けを追求していかなければいけません。


土肥: ふむふむ。それにしても、開催数が増えているということは、それだけ負担も大きくなっているのでは?


深川: 夜の合コンの場合、冬の開催は難しい。ということもあって、GWが終わってから、秋ごろに集中するんですよね。ピーク時には毎週末のように行っているので、運営側としては大きなトラブルが起きないように、きめ細かく対応しなければいけません。


 富山の遊園地では、10年以上にわたって夜の合コンを続けてきたことで、地元の若い人たちの間に「ミラコン」という言葉が定着してきました。では、次に何を目指せばいいのか。全国の遊園地で「〇〇コン」という新しい言葉が生まれ、「出会いを求めるなら、あの遊園地に行けばいいよ」といった会話が広まれば、とてもうれしいですね。


(おわり)



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