古舘伊知郎「aikoの『カブトムシ』のあえぎ声」抗議殺到/トーキングブルース2025<8>

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2025年12月22日 20:55  日刊スポーツ

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「古舘伊知郎トーキングブルース2025」

“しゃべり屋”古舘伊知郎(71)が、今月7日の東京・EXシアター六本木から「古舘伊知郎トーキングブルース 2025」をスタートさせた。来年1月からは福岡、名古屋、大阪、横浜と“しゃべりの巡礼”に出る。テーマは「2025(ニセンニジュウゴ)」。今年を2時間、ノンストップでしゃべりまくる。古舘に聞いた。【小谷野俊哉】


   ◇   ◇   ◇


1977年(昭52)にテレビ朝日にアナウンサーとして入社した。


「本当に新人アナの22歳の頃で言えば、そもそも自信がない。古い時代だから、電話でつないで旧ソ連から『日ソさけ・ます漁業交渉』の内容をソ連に行っている特派員からの記者リポートをテレビ朝日の古い社屋の報道局でデスクが書くんです。それを新人アナの私が受け取って、長い廊下を歩いて3サブ(スタジオ)ってところに行って、顔出しもなく、ブースの中で生でカフキーをあげて『モスクワで行われている日ソさけ・ます漁業交渉についてですが』っていうのを読まなきゃいけない。だけど、全部盗聴されてますから、ソ連側は盗聴してますから。悪いこと言ったりすると、同時通訳の人がいるから、日本語で言ってるのにロシア語にすぐ変換されてブツッと切れちゃうんですよ。なんか切れちゃったよ、お前が変なこと言うからだよって。デスクがもう1回、電話を掛けなといけない」


すぐに切れてしまうソ連(現ロシア)との国際電話。


「だから、いつまでも原稿が進まないんですよ。もう始まるんですよ、時間がなくて。デスクの上で書いてあるのも、赤と青の鉛筆で消して書き加えて、めちゃめちゃになっている。原稿を渡されたのが1分前ですよ。そこから廊下を歩いて行かなきゃいけない時は、もう大変なんですよ。これはアナウンス研修でも、本当にもう耳にタコができるぐらい言われたのは『走っちゃったら、3項目あるニュースが全滅になるよ』と。肉体的に息が切れて、精神的に息が切れてる状態になると余計焦るし、それで3項目全体ダメになるからなと。1項目を捨てて、残りの2項目を生かすためには、ゆっくりと歩くんだと。オープニングテーマが流れてて『アナウンサー来てねえぞ』と大騒ぎになってても、ゆっくり歩けと。そして2項目、3項目を生かせと。1項目をつぶしてもいいと」


迫る時間、あせる気持ちを押し殺して静かに廊下を歩いて行った。


「そういう教育を受けてるから、廊下を歩いてる時にあと30秒しかないと思った時に、気持ちは前のめりなんだけど、歩き方がロボットみたいになることがある。左の足と手が同時に出た、不自然に。そして、チャッチャチャって『ANNニュース』スタートって時に『いねえぞ、アナウンサー!』って。そうしたら走っちゃうんですよ。反射的に走ってブースに飛び込んで、カフを上げた時に『ハァ、ハァ〜、ハァ、ハァ〜』って、あえぎ声ですよ。メロディーがついたらaikoの『カブトムシ』を歌うような。完全ないやらしいあえぎ声を言ってたら『日ソさけ・ます漁業交渉』の項目、全滅ですよ」


テレビ朝日に視聴者から電話が殺到した。


「抗議がいっぱい来て『変な男のアナウンサーがあえいで、どういうことなんだ』って。すぐアナウンス部にも連絡が来て、考査から『誰がやったんだ!』と。謝って、原稿を部長に持って行って『こんな原稿ですよ』って見せて。『赤だ、青だ、鉛筆でグチャグチャで読めないじゃですか』と。それでめった打ちで怒られたりとかね。でも、それは自信がないことですから、どってことないエピソードですけど」


若い頃から、自分のしゃべりに自信を持っていた。


「『報道ステーション』のキャスターになってからも、例えばボストンマラソンのゴール付近でテロが起きた時がありましたよね。そういう時に、それまでの第1項目からニュースでやる予定だったものが、全部飛ぶ。現地と結んで『ボストンマラソンでテロだと』。その時にスタジオにバーンと2分前ぐらいに飛び込んだんだけど、何にもないんですよ。何にもないから『こんばんは、9時54分になりました。報道ステーションです。ボストンマラソンのゴール付近でテロがあったということで、死亡者が出たという情報が飛び込んで来たんです』と。記者が現地に行ってないのを当然、分かってるんですよ。ニューヨークの記者がボストンに行くんですから、間に合ってないんですよ」


現地からの情報が全くないのを承知で、生放送を続けた。


「『ニューヨークの記者の○○さん、到着してますか、聞こえますか。これ電話でつないでますけど、どうでしょう』って。『つながってない。まだ現地到着してないようですね。繰り返します。時事通信からの今一報が入りましたけども、ボストンマラソンのゴール付近でテロがあったということです』とつなぐんです。一切情報がなくても、それをずっとつなぐんです。『ボストンといえば、マサチューセッツ州、古き都』とか言っちゃう。関係ないじゃないですか。『古くから続く伝統あるポストンマラソンで』とか」


絶体絶命のピンチを、むしろ楽しんでいた。


「そういう時は楽しいんですよ。つまり、何にもよりどころがない。ただ俺がしゃべってて許されるんだと思うと、どっかでパニクリながらもパニクリどころかアドレナリンが放出されてる感じが、喜々としてよくて。こういうところでも、俺はしのげるんだっていうのがあったんです。むしろ番組最後の決めコメントを自分の言葉として読むところでパニクったと思うんです」


(続く)


▼「古舘伊知郎トーキングブルース『2025』」


26年1月18日 福岡・Zepp福岡


26年2月12日 愛知・Zepp名古屋


26年3月7日 大阪・Zeppなんば


26年3月20日 神奈川・Zepp横浜


◆古舘伊知郎(ふるたち・いちろう)1954年(昭29)12月7日、東京都生まれ。立大卒業後の77年にテレビ朝日入社。同8月からプロレス中継を担当。84年6月退社、フリーとなり「古舘プロジェクト」設立。85〜90年フジテレビ系「夜のヒットスタジオDELUXE、SUPER」司会。89〜94年フジテレビ系「F1グランプリ実況中継」。94〜96年NHK「紅白歌合戦」司会。94〜05年日本テレビ系「おしゃれカンケイ」司会。04〜16年「報道ステーション」キャスター。現在、TBS系「ゴゴスマ」水曜日コメンテーターなど。血液型AB。

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