なかでも今回、大きな注目となったのがGT500クラスの体制変更と強化。具体的には専任のテクニカルディレクターを新設し、さらに複数名のエンジニアを派遣して5台のパフォーマンス強化を図ることと、将来的なワークスチームとしての参戦について学習する場として、ARTA MUGENの8号車陣営には専任のエンジニアを数名配置し、チームと連携しながらシーズンに臨むことを明らかにした。
会見には渡辺康治社長、武石伊久雄専務、�錨津�宏レース運営室 室長と、新たにテクニカルディレクターを務めることになる長谷川彰大氏が出席。ホンダHRCの体制強化の経緯や、現時点で見据えている活動内容、将来のフルワークス活動の計画について説明した。
●他社に対抗すべく技術部隊を現場に派遣へ。将来のワークスチーム始動も見据える
2025年シーズンのホンダ陣営は、第7戦オートポリスで唯一の勝ち星を挙げたものの、前半戦はトヨタやニッサン陣営に遅れを取る結果となっていた。2026年へ向け、HRCは新マシンとして『ホンダHRCプレリュードGT』の投入を決意。さらには全5台のサポートを強化するために複数名の技術スタッフを派遣し、そしてARTA MUGENの8号車陣営に介入して専任メンバーを配属するという采配を決断した。
渡辺社長はまず2025年シーズンについて「シビック・タイプR-GTでタイトルが取れなかったという結果について、素直に悔しく受け止めています。ホンダの各チーム、ドライバー、エンジニアが全力を尽くしていたからこそ、この結果の重さを痛感しています」と振り返り、2026年シーズンは「車両開発やレースオペレーション、そして各チームとの連携をこれまで以上に高い次元へと引き上げていきます」と切り出した。
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新たにTDに就任した長谷川氏の下には、さらにエンジニアが数名配置されるとのこと。この体制強化により、長谷川氏をトップとしたエンジニアチームは、現場で全5台のパフォーマンスを最大限に発揮することに注力し、各チームのドライバーとの連携を強めることで、各現場での課題に対してスピーディーに対応することが求められる。さらにこのエンジニアチームには、チーム間の連携を強化することを目的としたエンジニアも配属され、各車両のデータを把握してホンダ陣営全体でのパフォーマンスアップを図るとのことだ。
続いて長谷川テクニカルディレクターも「自分は2006年にモータースポーツ部門に配属されてから、プロトタイプ車の開発からデータ解析、シャシー設計、シミュレーション領域でのチーフエンジニアなど、非常に広い範囲でGT500の開発にと取り組んできました。今回、年間タイトルの奪還を達成すべくTDという役目をいただきましたので、チームやドライバーの皆さん、エンジニアや開発メンバーとよく議論をして良いチームを作っていきたい意気込みでおります」と抱負を語っている。
また、今回の発表のなかでさらに注目したいのが、ARTA MUGENの8号車陣営の名称が『Team HRC ARTA MUGEN』に変更され、HRCが専属のエンジニアを複数人派遣するという体制変更について。渡辺社長はさらに「HRCとして、長期的には四輪レースでもワークス体制を確立することを目標にしています」と話し、8号車陣営への関与を説明した。
「その第一歩として、2026シーズンはスーパーGTにおけるレース運営を学ぶため、ARTAの8号車にHRCとして深く関与をしてまいります。2026年からチーム名は新たにTeam HRC ARTA MUGENとなり、HRCから専任のエンジニアを複数名配置するなど、チームへの関与を強めていきます。またカラーリングも、ARTAカラーにHRCのアイデンティティを融合させたデザインとなる予定です」（渡辺社長）
さらにレース運営室の�錨勅篠垢蓮�ARTA8号車への関与について「HRC USのセミワークス体制に近い考え方」であると説明。IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権のトップカテゴリーでメイヤー・シャンク・レーシングとともに戦うHRC USを前例とし、以下のように具体的な意図を説明した。
「今回HRCでは、マシンを開発する上でもレース運営についてより深く理解することが重要であると考え、その学びの場として唯一2台体制であるARTAに協力を仰ぎました。結果、8号車の運営にHRCが入り込み、テクニカルディレクターの下に専任エンジニアが張り付いて、タイヤ選択やマシンのセットアップをともに考えていき、さらにレースではピットの戦略まで関与していきたいと考えております」
「こうした活動のなかで、レースに勝てるセットアップを早く決めていくための方法を現場で学びながら、それを開発に活かしていきたい。そういった活動を見据え、チームへの関与についてはHRC USのノウハウも取り入れていきたいと考えており、北米IMSAではセミワークス体制で走っている93号車をドライブした経験がある太田格之進選手に、8号車陣営に加わってもらうことにしました」（�錨勅篠后�
HRCは2025年シーズンから、STANLEY TEAM KUNIMITSUのメンテナンスを担当するなど現場での活動を拡大していたが、今回強化したのはエンジニアリング体制。そして介入先は唯一2台体制を敷くARTA MUGENの8号車となったが、あくまで複数人のエンジニアがチームやドライバーと連携を図る体制を指しており、HRCとしてはワークス、またはセミワークス化とは捉えていない様子。しかしサーキット現場での活動を強化している背景には、将来のフルワークス体制構築を見据えているという話があった。
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「2022年にHRCに（すでに活動していた二輪部門に加え）四輪部門を統合しましたが、レース会社の社長としてシンプルに、マシンの開発だけではなくオペレーションにも関与していく必要を考えました。以前は開発室しかなかったなかで、2024年に運営室を作ってオペレーションへの関与をスタートさせました」
「その先にはワークス活動をやりたいという思いがありますが、あまり急いでもしょうがない。まずはしっかりと2026年の活動でいろいろなことを勉強して、我々は何がわからないのかという点もしっかりと理解したなかで、次のステップを見極めていきたいところです。すぐにワークス活動を始めるのかということはまた別の話になると思いますが、まずは2026年に、ARTAとの活動の中で勉強したいというような見通しです」
なお、ARTA8号車陣営との連携はエンジニアリング面に絞られ、メカニックを派遣する予定はなく、2025年シーズンからHRCが担っている100号車のメンテナンスについては体制が継続される見通しだ。今回の体制強化について、会見中には「エンジニアリングのお勉強のフェーズ」という表現もなされていたが、これまでHRCが開発したマシンを各チームが運営していたホンダ陣営にとって、全5台を把握する技術部隊の派遣、さらにはチーム運営や戦略への関与を強める動きは大きな転換点になるはず。トヨタGRスープラGTの4連覇を阻止し、プレリュードGTとともに王座奪還を果たすべく、HRCは思い切った挽回策に踏み切ったようだ。
●岩佐はレーシングブルズのリザーブ継続か
また今回の記者会見では、スーパーGTと同様にスーパーフォーミュラの体制についても同様にアナウンスされた。
そのなかでディフェンディングチャンピオンとしてTEAM MUGENの15号車を引き続きドライブする岩佐歩夢について、2026年のF1での活動についての言及があった。
渡辺社長は「正式な情報についてはチームの発表を待ってほしい」と前置きしつつ、「来年もレーシングブルズのリザーブドライバーを継続し、スーパーフォーミュラでも15号車で参戦すると想定しています」と発言。スーパーフォーミュラのチャンピオンを獲得したことでF1のシート獲得が注目されていた岩佐だが、2026年も2025年と同様にF1リザーブおよびスーパーフォーミュラのレギュラーとしてのレース活動となる見通しだ。
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