トヨタ・レーシングが2026年のWECに投入する『TR010ハイブリッド』。先代『GR010ハイブリッド』のアップデート版となる トヨタ・レーシングのテクニカル・ディレクターであるデビッド・フローリーは、WEC世界耐久選手権の2026シーズンに向け改良された『TR010ハイブリッド』に、規則上許される“Evoジョーカー”をひとつ使用したと明らかにした。
ドイツのケルンに本拠を置き、以前はトヨタ・ガズー・レーシング・ヨーロッパとして知られ、最近トヨタ・レーシングへと改名された組織の技術面を司るフローリーは、GR010ハイブリッドから改められたTR010ハイブリッドの大幅な空力改良について、記者団に対してこの説明を行った。
トヨタは2023年にGR010ハイブリッドをアップデートしているが、それ以降、Evoジョーカーを使用するのは今回が初めてと理解されている。
TR010への変更は、2021年のデビュー以来、同車両に施された空力改良の中でもっとも大きな変更となる。また、この変更により、トヨタのハイパーカー・チャレンジャーであるTR010のビジュアル・アイデンティティは、ロードカーのデザインに大きく近づくことになった。
「このパッケージで見られたいくつかの小さな問題を解決し、あらゆる状況下でより運転しやすく、より安定したマシンにしたいと考えた」とフローリーは述べた。
「そしてふたつ目のターゲットは、スタイリングのアイデンティティをより明確に統合し、ブランドイメージをより正確かつ力強く表現することにあった」
フローリーは昨年のル・マン24時間レースでGR010ハイブリッドが抱えた最高速の弱点を克服することも、今回のアップデートのもうひとつの焦点であると述べている。このアップデートでは、フロントボディワークの大幅な改良に加え、新しいサイドポッドとリスタイリングされたリヤウイングが採用されている。
「これは達成したい目標の積み重ねであり、当然ながら困難な課題だった」とフローリー。
「最高速は重要な要素のひとつだが、厳しい空力ウインドウの中で対応しなければならない。空気抵抗を低減することで最高速を向上させる余地はレギュレーションによって制限されているため、その範囲は非常に限られているのだ」
「ル・マンで見られた最高速の差は、さまざまな要因から生じており、そのすべてが我々のコントロール下にあるわけではない。したがって、我々は当然のことながら、コントロールできる範囲で改善に取り組んでいる」
改良されたエアロパッケージが今回のアップデートの最大の焦点ではあるが、フローリーによると、Evoジョーカーを必要としないボディ内部の変更もいくつか行われたとのこと。
「いくつか小さなアップデートを行ったが、それらは他の何よりも信頼性に関わるものだ」と彼は説明した。
「もちろん、昨年はいくつか小さなトラブルがあった。最大のものは、ル・マンでの(8号車の)ホイール脱落だ。我々はこれらの点に対処する必要がある」
■FIAの風洞変更がアップデート投入スケジュールに影響
トヨタは当初、2025年シーズンに空力アップデートを実施する予定であったが、スイスのヒンウィルにあるザウバーの風洞がFIAのホモロゲーション向けに使用できなくなったこともあり、最終的には1年延期することを決定していた。
この決定についてさらに詳しく説明したフローリーは、厳しいシーズンだったことを考えると、昨年アップデートを実施していれば「良かった」と認めつつも、上記風洞の問題により、2024年末にホモロゲーションを取得するには、あまりにも時間的制約が大きすぎたと述べている。
「空力アップデートを実施するという決定は、開発ペースに追いつくために2024年中に下された」とフローリー。
「当初は2025年シーズンの導入を目指していたが、(ホモロゲーション取得用の)風洞がザウバーから(アメリカの)ウインドシアへと変わったことで、2025年の導入は不可能だった。当初の計画では、2025年の初頭に風洞でホモロゲーションを取得する予定だったが、それはすでに非常にタイトなスケジュールだった」
「風洞の変更により、2025年仕様の全マシンは(2024年の)12月までにザウバーでホモロゲーションを取得する必要があった。それは不可能であり、パフォーマンス、スタイリング、そして開発の質のいずれにおいても、大きな妥協を強いられることになっただろう」
「そこで我々は(アップデート投入を)2026年に延期し、詳細を詰める時間を確保することにした」
フローリーはまた、トヨタのスタイリング部門が今回のアップデートに与えた影響についても強調し、空力的な考慮から、日本からの提案のすべてを最終的なホモロゲーションデザインに取り入れることができなかったことを認めた。
「最初のハイパーカーには明確なスタイリング上のアイデンティティがなかったが、アップグレードを決定した際に、重要な目標のひとつとして、トヨタらしさをより強く打ち出すことを掲げた」
「最終的には、TMC(日本のトヨタ)のスタイリング部門の尽力のおかげで、この目標は見事に達成された」
「以前のバージョンと比べて、いまのクルマはかなりクールに見えると思う。これは妥協点だ。提案されたスタイリング要素の一部は空力性能に悪影響が大きすぎて採用できず、一方で空力性能を優先した解決策はスタイリング面で妥協を強いられるものだった。そのため、両者の間で適切なバランスを見出す必要があった」
[オートスポーツweb 2026年01月21日]