人生の選択肢 第3回 夢も希望もないから、続けている──M-1準優勝・ドンデコルテの現在地とこれから

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2026年01月21日 17:50  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
いまの場所にたどり着くまでに、どんな選択があったのか――。この連載では、道を切り開き始めた次代の担い手たちに、歩んできた決断の背景と、その先に見据える未来を聞いていく。それぞれの選択がどのように現在をつくり、次の挑戦へつながっていくのかを、記録していく試みだ。



本稿で話を聞いたのは、お笑いコンビ ドンデコルテ。NSC東京校14期生の渡辺銀次さんは1985年8月2日生まれ(山口県出身)、19期生の小橋共作さんは1989年6月17日生まれ(沖縄県出身)。『M-1グランプリ2025』で準優勝という輝かしい成績を残したのは、まだ記憶に新しいところ。東京都千代田区にある神保町よしもと漫才劇場にて、ライブの合間に楽屋を訪ねた。


○ずっとうまくいかない日々と、それでも辞めなかった2人



――お笑い芸人を目指したきっかけについて教えて下さい。



渡辺さん(以下、敬称略): 大学を出る頃、当時はまだ”転職”は一般的ではなかったと思います。どんな仕事なら一生続けられるだろう、と思ったときに「お笑いなら」という思いがありました。子どもの頃からお笑いは好きでした。憧れの人がいたというよりは、漠然と「面白そう」と思っていて。はじめて腹をかかえて笑った記憶があるのは、「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」ですね。視聴者からの「アントニオ猪木の顎には何が入っているんですか? 」というハガキに松本さんが答えるトークを見て「この人すごいなぁ」と思いました。


小橋さん(以下、敬称略):ボクは、アメリカに住みたいという夢があって、英語だけめちゃ勉強していたんです。そして米軍基地の中にあるメリーランド大学というところに入ったんですが、授業にまったくついていけず、アメリカに住む夢は諦めました。そのとき、昔から抱いていた「お笑いをやりたい」というぼんやりとした思いが急に現実的になって、挑戦してみるか、と思い立った経緯があります。当時、憧れていたのはブラックマヨネーズさんですね。2005年にM-1グランプリで優勝した姿を見て「この人たち、めちゃくちゃおもしろいな」と思いました。


――ほかの選択肢も考えましたか?



渡辺: いえ、就活もしませんでしたし。大学時代にやりたいことが見つからず、ただ進級だけしていき、生きていたらヌルヌルっとお笑いの道に入っていました。周りは就活していましたが、自分は「就職する方が怖い」と思っていて。一生、その仕事をやんなきゃいけないのか、会社に忠誠を誓うのか、と思うと正直怖かったんです。



小橋: ボクも就職は、まったく考えていなかったですね。取り敢えずアメリカに行って、向こうに住めたらどんな仕事でも良いなと思っていたので。アメリカに憧れていた理由は、ただ「格好良いから」です(笑)。



――その選択に、周りは反対しましたか?



渡辺: 両親は反対しましたね。さすがに進路の決定権は自分にありましたが、こちらの決断を喜んでいない感じ。大学まで行かせたのに「もったいない」ということなんでしょう。最後は諦めていたようです。これまでお笑いを17年間やってきて、いまこの現状ですので(M-1で準優勝はしましたが)まだ割に合っていない、というところです。



小橋: うちは反対はしませんでした。お母さんは泣いていましたが反対はしておらず、お父さんは「やってみろ」という感じ。やりたいことをやってほしい、という雰囲気がありました。


――これまで、芸人を辞めようかな、と思ったことは?



渡辺: 幼なじみの同級生と一緒に吉本興業に入ったんですが、そのとき「5年くらいやって芽が出なかったら辞めよう」と言っていたんです。でも、その相方が3年目くらいで辞めると言い出して。そのときは「まだ5年経っていないし」と思い、自分は辞めませんでした。でも、まぁ不安になりますよね。



ただ不安の量で言うと、その頃も現在も、まったく変わっていません。今もずっと不安です。M-1では、ネタで笑いがとれて嬉しかったんですが、これまでの17年間、ずっとうまくいかなかったので、いまウケても「そんなワケねぇだろ」って思っちゃうんですよね。



年末年始も忙しかったんですが、本当に金って振り込まれるのかな? やったらやっただけ成果が返ってくるワケないんですよ。だから「騙されないぞ」「1回の準優勝で浮かれるほど初心じゃないぞ」と。それくらい、こっちは擦れています。



小橋: 半年間くらい、こっちが思っていた以上のお金が振り込まれ続けたら?



渡辺: 返すかも知れない。「やめてください、もう受け取れません」って。



小橋: もう自分から不安になりにいってるじゃん。


小橋: ボクは、前のコンビが解散したときに「もう何もうまくいかないから辞めよう」と思っていました。そのときに「どうせ辞めるんだから怒られても構わない」ということで、5期上の、しかも上のクラスにいるナベさんに声をかけたんです。



渡辺: ボクは嫌でした(笑)。実は、前のコンビも後輩と組んでダメだったんです。



小橋: それぞれが前のコンビで舞台に出ていたときに、とあるライブで普段はツッコミ役のナベさんがボケを担当していて、それがとても良かったんです。だから「コンビであの感じのボケをやってください」って伝えました。本人はめっちゃ嫌だったみたいですけど(笑)。



渡辺: めっちゃ嫌だった。でもイヤイヤやっていたら、だんだんウケるようになってきた。だって、ほかにやることもないので。人生の夢が破れまくっているので。やりたかったことはできないし、憧れた芸人さんのようにはなれなかったし、出たかったネタ番組は終わっちゃったし。



小橋: 悲しい(笑)。いま見つけてる最中かも知れないし。


渡辺: でも、劇場はお客さんの笑い声があるから。それは本当に嬉しいことなんです。それがあるから辞めてない。劇場には本当にちっちゃいながら達成感がある。まぁお笑いをやめたところで、どっちにしろ夢も希望もないんで、じゃ楽しい方が良いかって。今の我々は、光輝いて羽ばたくような状態じゃないですよ、十字架を背負って歩いている状態。



――現実を直視しながら、様々な選択をしてきたんですね。



渡辺: 「なんとかなるだろう」って考えるのを止めたのかも知れないですね。そんな考えをスワイプして、なるように流されてきた結果かも知れないです。



小橋: ボクは逆に、なんとかなるだろうでやっています。沖縄出身なので、なんくるないさー精神はありますね。


○漫才の最前線に立ち続けたい



――2人の意見がぶつかることはありますか?



渡辺: 意見が割れることはあっても、それで揉めることはないですね。おじさん同士なので、揉めるのもしんどいし、自分と違う意見の人が世の中にはたくさんいることも知っているし。


小橋: 30を越えて組んだコンビなんでね。



渡辺: たぶん、もっと成功した人ならこっちの意見に反対している人に「ふざんけんな」って言えるのかも知れないんですが、なにせ勝ち星がないので。勝利も積み重ねてないし、チャンピオンベルトも持ってないんで。目を伏せて世の中を生きてきたので、対立しようという気も起こらないんですね。



小橋: でもお笑いの世界は、どっちが正解かも分からないですよね。だから揉めても意味がない部分もある。


――2人にとって、賞レースはどんな位置づけですか?



渡辺: 当たり前にあって、当たり前に出るもの、ですかね。



小橋: 特に最近は、賞レースの結果が仕事に直結するので頑張りたいんですが、賞レースのためにお笑いをやるってことはないですね。



渡辺: もし賞レースがなかったら、何の山場もなく1年が過ぎてしまう。



小橋: 結構、上の兄さん方は、どんなモチベーションで、どうやって毎日を過ごしているのか、考えてしまうこともありますね。



渡辺: THE SECONDができて良かったよ、本当に。


――今後は、どんな活動をしていきたいですか?



小橋: メインとしてはずっと漫才をやっていきたい思いがあります。



渡辺: やっぱり、最前線で戦っている人がイチバン格好良いと思うから、お客さんの前でネタをやりたい。ベテランになっても、ネタが弱くならない先輩方を見てきました。早くその境地に行ってみたい。自分たちなら、どうやって戦うのか? どちらにしろ漫才はイバラの道でしょう。楽しくないことを経ないと楽しいことにたどり着けない。だから嫌なんですよ。いきなり楽しいことってねぇのかよ、と思う。たとえばスマホで見るショート動画とかは、ちょっと脳みそに気持ちの良いものが出ているんでしょうね、楽ですし。まぁ、そこまで楽しくはないですけどね。



――苦しい状態から抜け出すためには、どんなマインドが必要なんでしょう?



渡辺: ああこれはね、ポジティブなものを探したら無理です。ネガティブな理由で続けて下さい。その方が継続できます。「俺はこれを続けて、いつか結果を出すんだ」だと無理。途中で「ダメだー」ってなっちゃう。「これ辞めても良いけど、辞めてもやることねぇしな」の状態にしたら、ダラダラと続けられます。それの方が良い。



小橋: 説得力だけはあるんです。でも全部、間違っている可能性もある(笑)。



渡辺: 俺がそうだ、ってだけです(笑)。皆さんがそうだとは限らない。とにかく前向きな理由はダメです。役に立ちません。光はすぐに陰るんです。闇は長続きするんです。


小橋: 将来的に、いまのレベルより上のステージに行かせてもらったときがヤバいと思います。たとえばNGK(なんばグランド花月)出番になったとき、お笑い初見の観光客たち、見る気もなく入ってきたお客さんたちをどうやって笑わせれば良いのか。実際、すごい技術で笑わせている先輩たちがいま活躍しているわけですが。



渡辺: M-1も見ていない層のお客さんたちが入ってくるでしょう。もりやすバンバンビガロさんとか横並びで出たら、あのスゴ技に勝てる話芸なんてないと思う。どうやって戦えば良いんだろう? くまだまさしさんには、どうやったら勝てるのか? 大トリの師匠方には、もちろん勝てないでしょうし。



小橋: M-1とは、もう全然違う戦いですよね。M-1は4分の尺が決まっている競技漫才でお祭り。勢い、ストーリーも大事だったりする。M-1でウケたからって同じネタをNGKでやっても、めっちゃ滑るだけでしょう。



渡辺: 戦の輪廻です。漫才は、ウケているうちは楽しい。けれど漫才で滑るのって、本当に最悪な気分になります。でも、それ(滑ること)を敢えてやっている先輩もいて。そんな姿を見ると憧れちゃうんですよね。もう自分たちの漫才の型がしっかり出来上がってて、それをやっていれば必ずウケるのに、新しい形に挑戦して、1年に1回くらい滑っている。「いや、俺たちもまだ全然滑るよ」なんて仰るんですが、袖で見ていても攻めているのがよく分かる。そんな人たちは格好良いですね。



――普段は、どんな風にネタを作っていますか?



渡辺: その時々ですね。基本的には、思いついたことをメモして、それを自由帳にバーっと書いて、そこから連想したものをネタの形に落とし込んで、最後にiPadに打ち込んで清書することが多いです。ただ、思いついたメモよりもたくさんのネタをやらないといけない状況に追い込まれると、もうどうしようもありません。無理やりネタをひねり出すしかない。我々はもうすぐ単独ライブなんですが、まだ1本もできていない(笑)。今回がイチバン、ヤバそうです。でもチケットがめちゃくちゃ売れちゃって。マジここ踏ん張りどころです。気付いたら本番で、ネタ1本もありません、ってなるかも知れない。



小橋: 過去には、代表的なネタを集めた「ベストネタライブ」をやったことがありました。だから「ワーストネタライブ」でもやれば、めっちゃウケてくれるかも。「あ、たしかにワーストだわ」って思ってくれるかな(笑)。



渡辺: じゃあ、単独ライブでやっちゃダメじゃん(笑)。


――第9回の単独ライブは「こびりつく」というタイトルになりました。



渡辺: ひい、ふう、みい、よ、から始まる単語でやってきて「こ」まで来ました。誰かの脳裏にこびりつくような単独ライブになったら。この先、芸能界からこぼれ落ちるかも知れませんが、それでも我々は汚れとしてこびりつけたら良いな、と願っています。M-1後に過大評価をいただいている状態なんですが、単独ライブを通じて1人でもファンを増やしていけたら。それにはネタを作る時間が必要ですよね? もうね、いま時間がなくて、夢も希望もないんですよマジで...(笑)。そういった意味では、ここで大衆に蛙化現象が起こって、本物のファンだけが残るかも?



小橋: 教祖じゃないんだ、ただのチャーハン作っているおじさんなんだ、って知ってもらう機会になるかも知れませんね。



――M-1準優勝という結果に驕らず、さらにお笑いの道を極めるべく努力を続ける2人の姿が印象に残りました。お忙しいなか、ありがとうございました。


取材:葉山澪

構成/撮影: 近藤謙太郎


ドンデコルテ第九回単独ライブ「こびりつく」

※動画配信のみチケット販売中

【日時】2026年1月24日(土)配信開始19:00/配信終了予定20:00

※販売は1月31日12:00まで、見逃し配信期間は1月31日23:59まで

【出演者】ドンデコルテ

【チケット料金】1,300円(税込)()

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