古屋呂敏が語る、単独主演作『愛のごとく』への思い【インタビュー】 作家・山川方夫の傑作短編を映画化した『愛のごとく』で、俳優・古屋呂敏が初の単独主演を果たした。古屋が演じるのは、愛に怯えながらも愛を求める小説家・ハヤオ。ハヤオの元恋人・イズミ役には、監督・主演作『わたしの頭はいつもうるさい』で第18回田辺・弁慶映画祭俳優賞を受賞した宮森玲実が抜擢された。官能と孤独、過去と現在の狭間で揺れる役どころに挑んだ古屋が、本作との出会いから役作り、印象的なシーン、そして自身の人生観までを語る。
【写真】映画『愛のごとく』場面写真■自分の可能性を拡げられる作品との出会いを求めていた
──本作は古屋さんにとって、初の単独主演映画となりました。
初めて脚本を読ませていただいたときから、素直に出演したい、この映画に深く関わりたいと心を動かされました。チャレンジングなシーンも多くありましたが、だからこそ表現ができる芸術になり得ると感じていました。
また、普段はドラマ作品に出演させていただく機会が多いなかで、より密に役や作品と向き合える環境に身を置いてみたかったタイミングと重なったのも大きいです。表現者として自分の可能性を拡げられる作品との出会いを求めていたときに、『愛のごとく』という映画に出会いました。
──ハヤオを演じるうえで、どのような点が一番難しかったでしょうか?
ハヤオは不安定な人間ではあるんですが、感情の起伏が激しいタイプではないし、ただ単に暗い性格というわけでもないんです。そもそも彼は、自分の人生に対して「失望」はしているけれど、決して「絶望」はしていないと思っています。
心は満ち足りていないけれど、「何となく」は足りているから、失望から絶望に至ることはない。けれども「何となく」は足りてしまっているからこそ、自ら選ぶことをせず「これで、いいか」と何事も諦めようとするハヤオの心のあり方を表現することは、演じるうえでも非常に難しかったです。
■選択した自分自身のことを信じてあげなくてはいけない
──古屋さんは人生の選択を迫られたとき、どのような感情を抱かれますか?
今は、本当にいろいろなことが選択できる時代ですよね。だからこそ、選ぶという第一歩を踏み出すのにとてつもない重みを感じてしまう瞬間が僕にも多々あります。その重みに耐える時間が、いわゆる孤独なんだと思います。
ただ、誰かに後押しされて踏み出した一歩よりも、自ら選択して踏み出した一歩のほうが、より大きく前に進めるんです。誰かとではなく自分との勝負になってくる以上、その孤独も強くなるからこそ、選択した自分自身のことを信じてあげなくてはいけないと考えています。
──本作では「他者に触れる選択」としての官能表現も描かれています。
ハヤオを演じる俳優である自分自身ですら、撮影中にイズミに触れることが怖くなってしまう瞬間があったほどに、ハヤオは選択することに臆病なんだと感じています。
他者に触れることも人生の大きな選択の一つで、臆病なハヤオは結局イズミに選択を任せて、彼女に甘えてしまう。そこに、イズミが一度ハヤオから離れていった理由があるのかもしれないと思うときはありました。
■自分自身でも演技にリアルさを感じられた
──特に印象に残っているシーンを教えていただけますでしょうか?
どのシーンも紹介したくてしょうがないですが、例えばハヤオが、以前ライターの仕事で取材したレストランについて「夫のマサキと食事をしたことがある」とイズミから聞かされたシーンが好きですね。あのシーンでのハヤオの嫉妬が見える表情について、本作のプロデューサーから「古屋さんの素の部分を感じられた」と言われたんです。
隠そうとしているのに、少しだけ言葉にトゲが見えてしまう感覚。確かに僕は、ああいう妬(や)き方をしてしまうんですよね。本当に意識していなかったんですが、完成した映画を観たときに自分自身でも演技にリアルさを感じられたので、確かに自分の素が混じっていたのかもしれないです。
演技ではもちろん役になり切る必要はありますが、古屋呂敏というフィルターを通している以上、演じている人間自身の何かが漏れ出るのは必然なんだと思います。ただ、そのおかげでハヤオの飄々(ひょうひょう)としながらも人間味がある姿を映画に映し出すことができた。井土紀州監督はもちろん、イズミ役の宮森玲実さんには感謝しかないですね。
──初の単独主演映画がついに劇場公開を迎える中、現在のご心境をお聞かせください。
もう自分は決して「若いから」で逃げられる立場ではないという点では、より一層自分の人生に対して覚悟を決められる年齢になってきたと実感しています。役者としても自分より若い世代の子たちと共演することも増え、その中での立ち振る舞いも変わっていく中で、一貫して思うのは「僕を信じてくださる方々に応えたい」という感謝の気持ちですね。
僕の活動を応援してくださるファンの方は、10代から70代までと本当に世代が幅広いんですが、それぞれの人生の喜びや息抜きを見つけるきっかけに、自分を選んでくれたことを大切にしたいという思いは、何歳になっても変わらず持ち続けたいです。
そして、自分のことを信じてくださる方々を何より大切にしつつも、僕自身の人生にとって「冒険」となる選択を常に選んでいきたいとも思っています。ときには刺激の強さでびっくりされる方もいるかもしれませんが、それゆえに生み出せる古屋呂敏のリアルを、今回の映画『愛のごとく』でも味わってもらえたらと思っています。
■映画『愛のごとく』
1月23日(金)東京・池袋 新文芸坐で1週間限定公開後、全国順次公開