「DXへの一歩が踏み出せなかった」 年間700時間の業務削減を実現した、あんこメーカーは何から始めた?

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2026年02月13日 07:50  ITmedia ビジネスオンライン

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ナニワのDX推進プロジェクトのメンバー

 1945年に愛知県みよし市で創業した、ナニワは工場での紙の多さとアナログな作業に頭を抱えていた。同社は、餡(あん)やあんこ製品をはじめとする和菓子、デザートなどの原料を製造するあんこメーカーだ。


【脱! 紙&手作業】「DXへの一歩が踏み出せなかった」 年間700時間の業務削減を実現した、あんこメーカーは何から始めた?


 工場の生産量は1日40〜50トン、年間では9000トンに上る。日本人全員が一度は何らかの形でナニワのあんこを食したといえる量だ。


 これまで、その膨大な生産量をアナログな管理で支えてきた。商品の品質や安全性を保証する外部認証を取得・維持するために提出する現場の記録帳票や在庫管理、業務日報など、紙と手作業は年々増えていった。


 1日当たり150〜200枚のレポートを作成・ファイリングしていたほか、製造量と出荷量を照合する棚卸し作業には3人がかりで毎日3〜4時間費やしていた。現場の負担だけでなく、管理職もチェックと承認に追われていた。


 これらの課題を解決するため、同社は2023年10月に本格的に現場DXに着手することに。デジタル帳票ツールを導入し、作業時間を大幅に短縮。クラウド上で情報が管理できるため、これまで発生していたファイリング作業がなくなり、棚卸し作業は1人で30〜60分で完結するようになった。工場全体では年間約700時間の業務削減を実現している。


 今ではDXでさまざまな現場改善を行っているが、2023年以前はDXに対して二の足を踏む状況が続いていたという。どのようなきっかけでDXに乗り出し、現場に定着させることができたのか。DX推進プロジェクトのメンバーである、杉本健児氏、丹羽祥文氏、加藤雄輝氏、渡部紗妃氏に話を聞いた。


●品質と生産性、どちらも譲れないナニワが抱えていた構造課題


 ナニワの製造現場では、品質を守るための作業が増えるほど、日々の生産が圧迫されるという構造的な課題を抱えていた。外部機関に提出する帳票には、製造工程における食品安全や環境配慮の取り組みを示すための記録や確認作業の履歴が残されている。


 例えば、餡の包装工程では、製品が正しく密閉されているかを定期的に検査し、温度や圧力が基準値から外れていないかを確認し、帳票に記録している。こうした記録があることで、万が一トラブルが起きた際にも、どの工程まで問題がなかったのかを遡(さかのぼ)って確認でき、被害範囲を特定する重要な手がかりになる。


 「製造現場にいた頃は、品質保証部から指示を受けて記録をつけていましたが、『ここまで細かく記録を取る必要があるのか』と感じることもありました。しかしその後、品質保証部に異動し、帳票の重要性を実感しました。設備由来のトラブルが起きた場合、記録がなければ、本来1日で収束するはずの事象が、1週間、2週間と広がってしまう可能性があります」(杉本氏)


 ナニワでは、多数の取引先に対してさまざまな原料供給を行っていたり、外部機関への書類提出が必要だったりしたため、製品ごとの工程や管理項目が多岐にわたっていた。品質保証部としては全ての項目を正しく把握したいが、その記録作業を担う現場にとっては大きな負担となっていた。


 特に年末商戦や催事向けの需要が集中する10〜12月は繁忙期にあたり、限られた稼働日数で高い生産計画を組む必要があった。生産量や製品数が増える分、作業量や記録しなくてはいけない帳票も増える。そのため、週休1日体制で現場を回さなければならない状況も少なくなかった。


 品質と生産性のどちらも欠かせないからこそ部分的な改善では限界があり、この構造そのものを見直す必要があると考えた。


●ツール導入の前に DXで最初に手を付けたこと


 丹羽氏は「DXの必要性は以前から感じていたものの、ナニワでは長らく具体的な一歩を踏み出せずにいました」と話す。


 帳票をExcelに置き換えるペーパーレスツールを検討したこともあったが、紙に記載していた内容をそのままExcelに入力するだけで、現場の作業体験が劇的に改善されるわけではなかった。むしろ慣れている紙での作業からExcelに変わることで、現場の負担が増える可能性を懸念し、導入を見送った。


 転機となったのは、2023年10月。杉本氏が工場長に就任し、経営に参画する立場になったことだった。同氏は、製造現場と品質保証部を経験しており、人一倍、現在のアナログな帳票管理などに課題感を持っていた。現場と経営の両方を俯瞰(ふかん)できる立場から「このままでは品質も生産性も頭打ちになる」と感じ、現場のDXに乗り出した。


 DX推進プロジェクトを立ち上げ、メンバーは杉本氏自身が声をかけて集めた。メンバーの選定基準には「デジタルに強い」といった専門性は求めなかった。同氏が重視したのは「人をワクワクさせることに喜びを感じられるかどうか」だ。相手を楽にしたい、喜ばせたいという感性を持つ人材こそが、現場の課題を自分事として受け取り、動かせると考えた。


 そして、DXを実現するためのパートナーに選んだのが「カミナシ」だ。工場などの現場業務をデジタル化するクラウドサービスを提供している。2022年9月の展示会で出会い、導入を検討していたが、条件やタイミングが合わず、それまでは導入に踏み切れていなかった。杉本氏が工場長に就任したタイミングでDX推進プロジェクトを立案し、デジタル帳票ツール「カミナシ レポート」を導入した。


 メンバーもツールもそろった。すぐに現場の改善に乗り出すこともできるが、まずDX推進プロジェクトが取り組んだのは、現場に向けた「傾聴スキルを学ぶオンラインセミナーの実施」だった。


 現場から生まれた提案や意見を、否定せずに受け止める土壌づくりのための取り組みだ。否定せずに話を聞いたり、相手の立場を想像したりする姿勢がなければ、改善もDXも加速しないと考えていたからだ。


 こうして、現場の声を改善につなげる体制を整えた上で、本格的な現場DXへと踏み出した。


●年間700時間削減 現場DX、どう進めた?


 DXに対する傾聴の姿勢を整えた後で、ナニワが最初に着手したのは日常点検票のデジタル化だ。点検項目や作業内容は変えず、これまで紙にチェックを入れていた作業を、そのままタブレット上で行う形に置き換えた。


 作業内容をなるべく変えないよう意識したが、導入初期は、現場から「本当に使いこなせるのか」「現場になじむのか」といった不安の声も上がった。特に年配の従業員からは「操作を覚えられるか分からない」「今まで通り紙のほうが安心だ」という率直な意見もあったという。


 こうした不安に対し、プロジェクトのメンバーが意識したのは現場の声を拾い続けることだった。使いづらい点や戸惑い、不安の声をその場で否定せずに受け止め、改善要望として整理した。必要に応じて運用を微調整し、その内容を現場にフィードバックした。このプロセスを繰り返す中で、現場には少しずつ変化が生まれ始めたという。


 特に製造現場の従業員とコミュニケーションを取っていた、渡部氏は以下のように当時を振り返る。


 「プロジェクトメンバーを介さずとも、『隣のグループではもう使っているらしい』『この画面はこう操作すると楽だった』といった会話が自然に交わされるようになりました。導入当初は、他部署の取り組みが共有されることはほとんどありませんでした。同じツールを使い、同じ悩みを経験することで、うまくいった工夫を横に伝える土壌ができてきました」


 DXの効果が最も大きく表れたのは、生あんの在庫管理だ。生あんは「社内での製造用」「顧客への出荷用」「加工して別製品に使用する用」など用途が複数に分かれており、1日のある時点で、社内で製造したあんの数量から、加工して別製品に使用する用と顧客への出荷用を差し引いた在庫数を把握する棚卸しを行う。


 用途ごとに製造グループが異なるため、各グループの持ち出し内容を紙のメモで確認して、複数人で在庫数などを数え、帳票に記録。後で在庫数が理論値と合うかの確認作業を毎日行っていた。


 人の手によるものなので、ミスも多く発生した。数え間違いによる作業のやり直し、在庫不足・過剰在庫から起こる製造計画のズレ、さらに棚卸しに時間がかかることによる品質低下といった問題にも発展した。


 帳票の電子化に加え、業務工程そのものを見直した。棚卸し対象となる各製品にQRコードを発行。製造時や持ち出し時にQRコードを読み取り、カミナシ レポート上で数量を記録する運用へと切り替えたのだ。


 在庫の見える化によって、数え間違いや在庫の過不足もなくなっていった。「導入前は毎日3人で3〜4時間費やしていた作業を、現在は1人が30分程度で完了できるようになりました」と加藤氏は話す。


 同様の改善は、工場全体の日常点検や温湿度記録、定期点検などにも広がった。帳票を探して印刷し、手書きで記録していた作業がクラウド上で完結するようになり、現場の作業量は大きく減少したという。


 その結果、1日に使用していた紙の量は従来に比べて約6割削減され、時間に換算すると年間で約700時間分の業務削減効果につながっている。時間が生まれたことで、これまで週休1日体制が続いていた繁忙期でも、2025年10月から週休2日制を実現。前年同期比130%の受注量に対応できる体制を築いた。


●DXによって生まれた時間 何に投資した?


 ナニワでは、DXによって生まれた時間を他の業務に積極的に投資し、さらなる商品の品質向上を目指している。その一つが清掃工程の見直しだ。


 同社が製造する「生あん」は微生物が繁殖しやすく、品質劣化の進行も早い製品だ。そのため、製造エリア、設備、備品は高い衛生レベルを保つ必要がある。すでに製品企画の基準は満たしているが、顧客に選ばれる商品にしていくためにより高い衛生レベルを目指した。


 外部の清掃支援業者に依頼し、工場内で菌が潜みやすい箇所を調査。調査結果をレポートとして整理し、現場に共有しながら日々の清掃手順に反映していった。清掃手順には、写真や動画を盛り込むなど視覚的な分かりやすさを意識。誰が作業しても同じ水準でできるようにした。こうした取り組みのおかげで、工場内の現在の菌数は調査時点と比べて3分の1以下に減少しているという。


 紙と手作業だらけの現場にデジタルツールが導入され、さまざまな改善が行われた。杉本氏は「カミナシ導入前と比べると、現場の満足感や充実感は100%を超えて120%、130%と感じる場面もある」と話す。その一方で、DXの進捗(しんちょく)率としては「40%程度」という。


 「現場でのプロジェクトを通して、品質や生産だけでなく、販売や開発、総務など、DXを広げられる領域が次々と見えてきました。できていること以上に、次にやりたいことが増えています。結果として、全体を俯瞰(ふかん)すると達成率は40%という感覚です」(杉本氏)


 ナニワのDXは、現場のありとあらゆるムダを取り除くことに成功した。紙での管理やアナログな作業を減らし、生産性向上も実現。さらなる品質向上によって、会社の競争力向上にも寄与した。ナニワのDXはまだ始まったばかりだ。現場での学びを踏まえて、他の領域でのムダも取り除いていく挑戦は続く。


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