バサースト12時間レースが行われたマウント・パノラマ・サーキットの様子 2月15日にオーストラリアのマウント・パノラマ・サーキットで行われたIGTCインターコンチネンタルGTチャレンジ第1戦『マグアイアーズ・バサースト12時間』レースは、マーロ・エンゲル/マキシム・マルタン/ミカエル・グルニエ組のグループMレーシング888号車メルセデスAMG GT3エボの勝利によって閉幕した。
荒れたレース展開となった南半球での伝統の一戦から、各種トピックスをお届けする。
■史上最後方からの総合優勝
優勝した888号車メルセデスは、34台中29番手からスタートし、レース史上最も後方からの優勝を果たした。
これまでの総合優勝チームの予選最低順位は、2020年、ジュール・グーノン/ジョーダン・ペッパー/マキシム・スーレ組のMスポーツ・ベントレー・コンチネンタルGT3によるもので、彼らは総合11番手からレースをスタートしていた。
今回、グループMのメルセデスは、燃料インジェクターの不具合により、土曜日のポールポジション争いへの出場権を逃していた。このインジェクターは、レース開始までに交換されている。この香港チームのエントリーは、7時間目にふたつのホイールガンの故障にも見舞われたが、そこから巻き返すことに成功した。
この勝利は、3人のドライバー全員にとって、そしてケニー・チェンがオーナーを務めるグループMチームにとっても、バサースト12時間レース初優勝となった。グループMが最後にIGTCで優勝したのは2023年のガルフ12時間レースで、これはメルセデスAMG最後のIGTC総合優勝でもあった。
メルセデスAMGファクトリードライバーとして初優勝を果たしたマルタンは、「最後のリスタートで、厳しい戦いになることは分かっていた。まるで最後までスプリントのようだった」と振り返っている。
「適切なタイミングで適切な場所にいられたのは、少し幸運だったね。リードを奪い、全力でプッシュした。後ろを走るポルシェは非常に速く、最後まで僕を追い込んできたので、最後のスティントは厳しいものだったよ」
■これまでのキャリアで一番の“危機一髪”
888号車は当初、エンゲルが完走する予定だったが、フォレスト・エルボーで当時レースをリードしていたラルフ・アロンのクラフト・バンブー・レーシング77号車メルセデスAMGと、スピンしたヨハネス・ゼルガーのツナミRTポルシェが絡む大事故により、55分間の赤旗中断となった。
このアクシデントと赤旗により、エンゲルの連続走行時間が規定の2時間30分を超えることになってしまったため、マルタンへとチェッカードライバーを交代した。
この深刻な事故では、アロンは炎上するメルセデスAMGから這い出し、コースを足を引きずりながら横切り、ウォールを乗り越えて芝生に倒れ込み、医療チームが到着するのを待った。
オレンジ市の病院に搬送されたアロンは、コ・ドライバーのルーカス・アウアーに付き添われ、容体は安定しており、その後、背中に2箇所の骨折を負ったことを明らかにした。
エンゲルは、ゼルガーのポルシェが停止した現場に、アロンとルカ・シュトルツの75号車エクスプレス・メルセデスAMGに次いで3台目に通りかかった車両だった。
「まったく予想外だった」とエンゲル。
「黄旗が提示されるのがかなり遅く、何の前兆もなかった。僕はただ、そのクルマを避けようとしただけだ。正直に言うと、隙間があるとは思っていなかった。僕がそこに到達した時にちょうど隙間が現れ、2台の間をすり抜けて、どちらにもぶつからずに済んだ。間違いなく、これまでのキャリアで経験した中で最も接近した状態だった」
■リードラップでのフィニッシュは13台
マルタンは、ドリアン・ボッコラッチのハイクラス・レーシング86号車ポルシェにわずか1.037秒差で勝利を収め、レース史上4番目のクローゼスト・フィニッシュとなった。また、ブロンズクラスのエントリーが総合表彰台に上がったのもこれが初めてとなった。ボッコラッチのポルシェはグリッド30番手からスタートしていた。
そして、リードラップで13台がフィニッシュし、新たな記録を樹立した。一方、262周という周回数は、コーションに悩まされた2015年大会以来、バサースト12時間レースとしては最短のものとなっている。
■「カンガルーのおもちゃだけは買わない」
クリス・ミースが3周目にカンガルーに接触したことで、HRTのフォード・マスタングGT3は早々にレースを終えることとなったが、オーストラリアを象徴するこの動物をめぐるアクシデントは、これだけではなかった。
チームWRTの32号車BMWとティガニ・モータースポーツの6号車メルセデスAMGも、レース開始1時間で別のカンガルーに接触。さらにWRTでは46号車のバレンティーノ・ロッシもさらに2頭のカンガルーを目撃している。
「確かに、目の前にいた。幸いにも、彼は生きていた」とロッシは語った。
野生動物の問題について何か対策を講じるべきかと問われたロッシは、「毎年、カンガルーの問題については僕らもよく話をしているんだ。ここは特別な場所で、特別なコースだ。このコースは1年にたった5回しか使われない。マウント・パノラマでは、これがルールなんだ。ここでは、この種の危険はつきものだ」と答えた。
一方、無念のミースはバサースト12時間レースへの復帰を誓っている。
「僕は今でも、オーストラリアを愛している」とミース。
「必ず戻って来るよ。息子にはカンガルーのおもちゃを買ってきてほしいと頼まれたけど、それはできない。コアラでもウォンバットでも何でも買ってあげようと思うけど、カンガルーだけは絶対に買わないね」
■カンガルーとの衝突で直線パフォーマンス低下
プロクラスにエントリーしたティガニの6号車メルセデスAMGも、レース序盤にカンガルーによるダメージで後退を余儀なくされた。
テクニカルディレクターのマット・ハーベイによると、このダメージが、リードラップに復帰した際にピット戦略をオフセットするというチームの判断に影響を与えたとのこと。ジェイデン・オジェダがグリフィンズ・ベンドでチャズ・モスタートがドライブするスコット・テイラー・モータースポーツのメルセデスAMGと接触しクラッシュしたため、最終的にこのマシンはリタイアとなった。
ハーベイはSportscar365に対し、こう語った。
「レース序盤、32号車(WRTのBMW)がカンガルーを避けるために急ハンドルを切ったため、カンガルーが我々のフロントグリル、バンパー、ボンネットにぶつかってしまった」
「この事故で多くの問題が発生し、解決のために2回もガレージにマシンを持ち込む必要があった。リードラップに戻った後、おそらくダメージの影響で直線でのパフォーマンスが少し落ちてしまったため、戦略をオフセットすることにした。後ろの車は燃料がもっとあったので、我々は先頭をキープする必要があったが、残念ながらターン2で(モスタートが)我々のマシンを不安定にさせ、ウォールに衝突してしまった」
オジェダはモスタートとの衝突を振り返り、Sportscar365にこう語った。
「追加の燃料補給なしでも完走できた可能性があった、戦略外のマシン群をリードしようと、懸命にレースをしていた。数周、その激しさで攻め続け、マウンテンストレートで強いプッシュを受け、マーブルに乗ってウォールに接触してしまった。そして、その途中で222号車(スコット・テイラーのメルセデスAMG)に接触してしまったんだ」
一方、モスタートはオジェダとの衝突を「残念」と表現し、「マシンにダメージを受けてしまったのは残念だ。スコット(・テイラー。チームオーナー)、アッシュ(・スワード)、そしてチームはあんな結果に値しなかったが、今日の勝利のために全力を尽くしたと確信している。この週末は本当に楽しかったし、スコットのチームの一員になれる機会を与えてくれたことに感謝している」と振り返った。
テイラーはこう付け加えた。
「速かったマシンだったので、本当に残念だ。土曜日にポールポジションを獲得し、その功績で特別なトロフィーを手にした。レースの最初の3時間を好位置で走り切ったときは、優勝候補だと確信していたんだ。しかし、残念ながらそれは叶わなかった。最後まで戦い抜いた時、勝利がどれほど難しく、どれほど特別なことなのかを実感した」
■息子のレースに同行したルーベンスの野望
ブロンズクラスのディフェンディングチャンピオンとして参戦したハート・オブ・レーシング・バイ・SPSの27号車メルセデスAMGは、レース序盤で不運に見舞われた。2時間目にイアン・ジェームスが後方から追突され、左リヤサスペンションが損傷、7周の走行不能に陥ったのだ。
このハート・オブ・レーシングから息子のエドゥアルドがレースデビューを果たすのを応援するため、初めてバサースト12時間レースを訪れた元F1ドライバーのルーベンス・バリチェロは、レース中継で、マウント・パノラマにエドゥアルドともうひとりの息子でFIA F3レーサーのフェルナンドとともに、ドライバーとして参戦したいという野望を語った。実現すれば、3人のバリチェロが1台のマシンをドライブすることになるかもしれない。
■観客数記録を更新
バサーストの3日間の週末の観客数は5万5231人と報告され、2023年の観客数である5万3446人を上回る新記録を樹立した。なお、昨年の観客数は5万1372人だった。
開幕戦が終了し、IGTCの参加者は5月16日〜17日に開催される第2戦、ニュルブルクリンク24時間レースに向けての準備に意識を移すことになる。このドイツの耐久レースの伝統に先駆けて、今後数カ月間にNLS(ニュルブルクリンク耐久シリーズ)のラウンドがいくつか予定されている。
[オートスポーツweb 2026年02月17日]