
ブランドのサンプル品が次々と消え、社員の財布からも現金が盗まれる。そんな職場では安心して働くことはできない。現在、翻訳の仕事をしている佐藤さん(仮名 50代女性)は20代のとき、大手アパレル企業で働いていた。そこで発生した大胆な“窃盗事件”を今でも忘れられないという。
「ある時、サンプルが保管場所から大量になくなっていることが明るみに出たんです。それと同時に、社員の財布からお金が抜き取られる事件も数回起こりました」
しかも、犯人は新入社員だったという。佐藤さんに当時を振り返ってもらった。(文:天音琴葉)
「高価な皮革製品を何十枚も」社用車で古着屋へ
アパレル業界でのサンプルとは、展示会、プレスへの貸出や撮影に使用される見本品だ。中には商品化されず、1点物として価値を持つものもあるようだ。
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「大量に作ったサンプルは会社の倉庫に保管されていて、皮革製品など、高価なものも多くありました。サンプルは社内販売やファミリーセールで売られますが、その直前に数が足りないことが発覚しました」
犯人は、新入社員の20代男性だった。仕事上のつながりはなかったが、海外事業部に所属していた佐藤さんは全事業部の企画を海外の合弁会社に送る業務を担っていたため、顔を合わせる程度の関係性だったという。
「彼は生産担当で、倉庫の鍵を持っていました。おそらく誰もいない残業中に持ち出したのでしょう。ただ、盗まれたのは高価な皮革製品が多く、何十枚も運ぶのはかなり重いです。社用車を使って運搬したのだと思われます」
当時はまだネットオークションやフリマアプリが普及する前。かつて都内に多く存在したデザイナーブランド専門の高級古着店に、売り飛ばしていたようだ。
「疑われないように気をつけて」職場に漂う不穏な空気
さらに、この新入社員が狙ったのはサンプル品だけにとどまらなかった。
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「私が頻繁に打ち合わせに行っていた部署のチーフデザイナーが、離席中に財布から何度もお札を抜かれていたんです。これも彼の仕業でした」
社内では箝口令が敷かれていたが、佐藤さんは親しい先輩社員からこっそり忠告を受けたことで知ったそうだ。
「『こんな話があるから、疑われないように気をつけてね』と言われました。親切心からのアドバイスだったのでしょうが、私も疑惑の目を向けられているのかも……と思うと、とても嫌な気持ちになりました」
そう思ってしまうほど、言葉にできない疑心暗鬼の空気が職場に漂っていたのだろう。
一方で、会社側は水面下で周到に証拠集めを進めていたようだ。ついに男は追い詰められ、両親が会社に呼び出される事態となった。
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「社長は、罪を認めて全額弁償するなら、警察には届けないという条件を出したようです」
佐藤さん曰く「人間味があった」という社長は、新入社員だった彼の将来をわずかながら慮ったのかもしれない。おそらく両親も弁償を選んだのではないだろうか。結局、問題社員は懲戒解雇となり、管理責任を問われた上司の生産部長は、激しく叱責されたという。
入社早々、信頼を売って金に換えた新入社員。その代償は、あまりにも大きかったようだ。
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