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外食の業界団体「日本フードサービス協会」が、高市政権の公約である「食品の消費税を2年間ゼロ」に反対を表明した。
2月25日、同協会が都内で記者会見を実施。回転寿司チェーン「がってん寿司」などを展開するアールディーシー会長で、同協会の久志本京子会長が「物価高騰対策としての即効性には疑問が残る」とし、「客離れを招き、飲食店の経営に重大な影響を及ぼす」と苦言を呈したのである。
この「悲観論」に批判的な反応を示しているのが、高市首相の熱心な支持者や「消費減税で日本経済復活」を主張する人々だ。彼らは「減税で庶民の懐に余裕ができれば外食の機会も増える」「回転寿司はファミリー層に人気だからそんなにダメージを受けない」などと主張している。
回転寿司市場は右肩上がりで成長していて、業界トップの「スシロー」や「はま寿司」などは、いずれも売上高、顧客数ともに好調をキープしている。この盤石な人気を踏まえれば、たとえ食料品やテークアウトの消費税がゼロになったところで客足が離れないというのだ。
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ただ、「驕(おご)れるものは久しからず」という言葉もある。自店から客離れが起きなくとも、食品消費税ゼロ実現をトリガーに競合が急成長して、スシローやはま寿司といえども足をすくわれてしまうかもしれない。
「そんな競合いたっけ?」と首をかしげる人もいるだろうが、実は近年、ネットやSNSで「回転寿司よりも安くてうまい」と口コミが広がり、店には大行列ができることから、回転寿司業界が脅威に感じている「パック寿司の雄」がいる。
それは「角上魚類」(かくじょうぎょるい)だ。
●じわじわと人気が広がっている「角上魚類」とは
関東甲信越以外に住む人には、あまりピンとこないかもしれないが、角上魚類とは、新潟県長岡市にある「寺泊魚の市場通り」を発祥として東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬、長野の1都5県に23店舗を展開する鮮魚専門店だ。
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いわゆる「昔ながらの魚屋」なので、注文を受けて一匹丸ごとさばいてくれるのはもちろん、スーパーの鮮魚コーナーではお目にかからないような魚も取りそろえ、店内には、魚の種類や調理法の相談に乗ってくれる「親切係」というスタッフを配置しているのが特徴だ。何よりの強みは、新潟で水揚げされ、その日のうちに届くネタの新鮮さである。
そんな角上魚類では、「刺身の盛り合わせ」や「お造り」とともに「パック寿司」も提供しているのだが、これがネットやSNSで「思っていた以上にハイレベル」「回転寿司の上位互換」など非常に評判が良く、じわじわと人気が広がっている。その人気のすさまじさを象徴するのが、年末年始に発生する“角上渋滞”だ。
年末年始においしい刺身や寿司を食べたい人たちが角上魚類に殺到、店舗の多くが「ロードサイド型」であるために車の渋滞が発生して、そのあまりの混雑ぶりは「コストコ以上」と評されたこともある。
・大人気鮮魚店「角上魚類」 コストコを超える渋滞はなぜできる?(日経ビジネス 2023年4月12日)
ちなみに、2026年2月19日にオープンした埼玉県の狭山店にも早速客が押し寄せており、その盛況ぶりを複数のテレビ番組やWebメディアが取り上げている。
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●角上魚類が人気のワケ
そんな飛ぶ鳥を落とす勢いは、数字にも表れている。2020年3月に353億1900万円だった売上高は右肩上がりで、2024年3月には426億5900万円に達している。
なぜ角上魚類がそこまで人気なのかというと、「えっ! こんな大きくて新鮮なネタがこんな安さでいいの?」と驚くほどのクオリティーだからだ。実際に角上魚類で「パック寿司」を買った人は驚くだろうが、スーパーの総菜コーナーや回転寿司ではあまり見かけない、しっかりとしたネタがのっているにもかかわらず、価格は回転寿司よりも安い場合もあるのだ。
例えば、角上魚類の公式Webサイトに掲載されている「パック寿司」は、本マグロの大とろ、中とろ、赤身、ぶり、ウニ、いくら、ホタテという豪華なラインアップで10貫1800円。新潟や豊洲をはじめ、全国の取引のある漁港から仕入れた新鮮なネタを使用している。
では、これだけの価格を回転寿司チェーンで払うとどうか。「くら寿司」の公式Webサイトに掲載されている「特上極旨セット」も10貫で1900円(税別)だ。こちらの内容は熟成中とろ、厳選サーモン、熟成真鯛、赤えび、はまち、うなぎ、あわび、うに入り海鮮、いくら、かに身軍艦である。
ネタの好みは人それぞれなので、中には「くら寿司のほうが魅力的じゃん」と感じる人もいらっしゃるだろうが、ネタの充実度やお得感など、総合的に見れば角上魚類に軍配が上がるのではないか。
●「パック寿司」の魅力が広まるきっかけに
そこで、回転寿司チェーンの立場になって考えていただきたい。
自分たちが提供する寿司よりも安く、ネタも大きい角上魚類のパック寿司は、「目の上のタンコブ」のような存在だ。しかも、政府が肝いりで進めている「食品の消費税ゼロ」が実現した場合、さらに安くなるので、人気が一段と高まる恐れがある。
これは回転寿司業界にとって非常に大きなリスクだ。
「角上魚類の寿司」が人気を集めていると聞けば、当然、競合の鮮魚専門店チェーンもこの分野に力を入れていく。「食料品の消費税ゼロ」という追い風もあるので、東証プライム市場に上場している「魚力」、北海道から岡山までデパートや商業施設で店舗を展開する「中島水産」、地場の鮮魚専門店、スーパーの鮮魚コーナーなどが、それぞれの強みを生かした「回転寿司より安くてうまいパック寿司」を打ち出していくのだ。
そうなると、いつもはスシローやはま寿司に足しげく通う回転寿司ファンたちが、こんな「不都合な真実」に気付いてしまう。
「えっ? 消費減税でお得だからって一度試しにパック寿司買ってみたけど、クオリティーも価格も回転寿司行くよりもぜんぜん良くない?」
つまり、今回の消費減税によって大手回転寿司チェーンですぐに客離れが起きなくても、角上魚類のような「パック寿司」の魅力が広まるきっかけとなって、中長期的には回転寿司への顧客ロイヤルティー(消費者が商品に対して抱く信頼や愛着)が低下していく恐れがあるのだ。
という話をすると、スシローやはま寿司のファンからは「回転寿司ってのはラーメンとかスイーツとか、寿司以外のメニューも充実しているからパック寿司にはない楽しみがあるんだよ」という反論があるだろう。
筆者もそう思う。飲食店は、ただ「安くてうまい」を提供するだけではなく、「食事の場の楽しさ」「食べる喜び」も提供するエンターテインメント企業であるべきだと思っている。スシローやはま寿司などは、そうした価値も高めている優れた外食チェーンである。
●回転寿司チェーンの弱点である「写真と違う」問題
一方で、もし減税によって「パック寿司」の人気が広まると、そういう回転寿司チェーンのプラス面をチャラにしてしまうほどの「弱点」というものが、残酷なまでにクッキリと浮かび上がってしまうことも忘れてはいけない。
それは「写真と違う」問題である。
テレビやネットで大手回転寿司チェーンのCMや広告を見て、ボリューム満点のネタがのった寿司を、有名タレントがうまそうに食べているのを見て「ああ、回転寿司行きたい」と思って、いざ店に行ってみたところ、「え? 写真とぜんぜん違うんだけど……」と戸惑うほどペラペラの寿司ネタが出てきた――。そんな経験をしたことがある人も多いはずだ。
もちろん、全ての回転寿司がそうだと言っているわけではない。店舗やネタによって違いもあるだろう。ただ、大手回転寿司チェーンの名前と一緒に「写真と違う」と検索すれば、「写真詐欺」などと訴える声が山ほど出てくる。
そんな回転寿司の「写真と違う」問題は、あまりガチャガチャ騒がないのが日本人のマナーというか、暗黙の了解だった。時折、クレームを入れる強者がいたり、SNSでバズったりする騒動もあるが、多くの人は、こう自分に言い聞かせる。
「ま、あれは広告だから仕方ないか。マックでも何でもテレビCM通りなわけないし、この安さで文句を言うのもアレだし」
しかし、食品の消費減税がスタートして、多くの回転寿司ファンが「パック寿司」を試してみるとこのような「寛容のムード」が一変するかもしれない。
角上魚類に限らず、「パック寿司」というのはその場で客に「うわっ、大きなネタ!」とか「おいしそうなマグロ」と購買意欲をかき立てるものなので、回転寿司チェーンのように「写真と違う」という事態は起きにくいからだ。
●クオリティーが上がっているスーパーの「パック寿司」
チラシ広告や公式Webサイトの写真と大きく違うパック寿司が売っていたら、ただ買われないだけだ。だから近年の角上魚類の快進撃もあって、大手スーパーの総菜コーナーにある「パック寿司」のネタも、かなりクオリティーが上がっている。
分かりやすいのは、東急電鉄系のスーパー「東急ストア」である。2025年8月、首都圏のスーパーとして初めて、青森の八戸港で水揚げされた鮮魚を当日販売し、話題になった。JR東日本の新幹線を使った荷物輸送サービス「はこビュン」を活用したという。
・東急ストア、八戸のとれたて鮮魚を販売 水揚げから9時間(日本経済新聞 2025年8月29日)
筆者は東急ストアのパック寿司をよく購入するのだが、角上魚類のように「水揚げ当日」というスピードにこだわり始めたからか、最近は安さのわりに、かなりネタが良くなったように思う。
こういう企業努力を続けている鮮魚専門店やスーパーの鮮魚コーナーの「パック寿司」に注目が集まれば、回転寿司の「写真と違う寿司」にモヤモヤを感じる人は間違いなく増えるだろう。
「CMを見てうまそうだから」「川口春奈さんみたいに“はまい”と言いたくて」と店を訪れて、着席して注文したところで「写真と違う寿司」が流れてきても「食べない」選択肢はない。その場ですぐに店を立ち去る人はまれで、ほとんどの人は楽しい食事の場を壊したくないので不満をぐっと飲み込む。文句を言ったところで、つくっているのはマニュアルに従うバイトの若者なので、単なるカスハラになりかねず、互いに嫌な思いをするだけだ。
つまり、厳しいことを言わせていただくと「回転寿司」というのは、「この安さで目くじら立ててもな」という寛容の精神で成り立っているビジネスモデルなのだ。その厳しい現実が、今回の食品の消費税ゼロによって、くっきりと浮かび上がる可能性がある。
●回転寿司業界はこの問題にどう立ち向かうか
もちろん、先ほども述べたように回転寿司は楽しい。小さな子どもがいるファミリーにとっては、寿司以外にもさまざまな料理があり、デザートも楽しめる回転寿司という「食事体験」はそれだけで価値があり、日本人のみならず海外の人々にも通用する強みであり続ける。
しかし、これだけ日本が貧しくなってコストにシビアになっていくと、「写真と違う」というような、これまでなあなあにされてきた部分にも、消費者からシビアな目が向けられていくだろう。
角上魚類のような「コスパのいいパック寿司」が人気になればなるほど、そのリスクは高まる。右肩上がりで成長する回転寿司業界が、この問題をどう乗り越えていくのか、注目したい。
(窪田順生)
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