
南極の象徴ともいえるコウテイペンギン。極寒の地で吹雪に見舞われながらたくましく子育てをしている姿を、テレビなどで一度は目にしたことがあるではないでしょうか。
いま、そのコウテイペンギンに深刻な異変が起きています。
地球温暖化によって海氷が急速に減少する中、彼らが毎年行う「換羽(かんう)」という重要な生理現象が、命取りになりかねない状況に陥りつつあります。
コウテイペンギンは毎年、南極の夏に「換羽」と呼ばれる羽の生え変わりを行います。古くなった羽毛をすべて落とし、新しい防水性の高い羽毛へ入れ替えるのです。
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換羽の期間はおよそ30〜40日間。その間、コウテイペンギンは海に入れません。古い羽は水を通してしまい、新しい羽が生えそろうまでは、いわば“防水スーツなし”の状態になる──つまり、泳げば凍死してしまう可能性があるからです。
そのため、彼らは安定した海氷の上にとどまり、体内に蓄えた脂肪だけでじっと耐え続けます。体重の最大50%を消費するともいわれる、まさに命がけの“衣替え”です。
これまでこのサイクルは、比較的安定した海氷のリズムと一致していました。しかし今、その前提が崩れつつあります。
2022年から2024年にかけて、南極の海氷は記録的な低水準となりました。かつて平均およそ280万平方キロメートルあった夏の海氷は、2023年には過去最低のおよそ179万平方キロメートルにまで減少しています。
英国南極調査所(BAS)の研究チームは、衛星画像を使ってコウテイペンギンのコロニーを追跡。その衛星観測記録は、2023年に『Communications Earth & Environment』に掲載されました。
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2019年から2021年までは、換羽後に残る大量の羽毛の痕跡が確認されていました。ところが、2022年以降、多くの群れの痕跡がほとんど見られなくなったのです。
「本来なら多くのペンギンがいるはずなのに、確認できたのはわずかだった」
そう語るのは、20年以上にわたってコウテイペンギンを研究してきたピーター・フレットウェル博士。研究者たちは、多くの個体が不安定な氷の崩壊に巻き込まれ、換羽途中に命を落とした可能性を懸念しています。
実は、異変は換羽期だけではありません。
2022年末、西南極のベリングスハウゼン海では、コロニー下の海氷が早期に崩壊。泳げないヒナたちが海に落ち、最大1万羽が死亡したとも報告されました。監視対象だった5つのコロニーのうち4つで繁殖が完全に失敗するという、衝撃的な結果でした。
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コウテイペンギンの繁殖も換羽も、安定した海氷を土台として成り立っています。その基盤が失われれば、生存戦略そのものが裏目に出てしまうのです。
現在、コウテイペンギンは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで「準絶滅危惧種」に分類されています。予測では、温暖化がこのまま進めば、今世紀末までに90%以上のコロニーがほぼ消滅する可能性もあるとされています。
フレットウェル博士は「二酸化炭素の排出を削減できれば、まだ希望はある。しかし何もしなければ、この美しい鳥を絶滅の危機に追い込むことになる」とも語ります。
南極の氷の上で、静かに進む変化。それは遠い場所の出来事ではなく、地球全体の未来に直結する問題でもあります。コウテイペンギンが生き延びられるかどうか──そのカギは、私たち人間の地球温暖化との向き合い方にかかっているのかもしれません。
BBC 「Why scientists fear Emperor penguins' annual moult may be killing them」
People「Emperor Penguins’ Annual Molt Is Now a Growing Risk as Antarctic Ice Disappears, Scientists Say」
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