今井美樹、歌手活動40周年を迎え新作アルバム『smile』をリリース ベテラン・シンガーが見せる“自然体”の歌唱と表現の極み

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2026年03月06日 16:00  オリコンニュース

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歌手活動40周年を迎え新作アルバム『smile』をリリースした今井美樹
 1986年にシングル「黄昏のモノローグ」で歌手デビューし、今年で40周年を迎えた今井美樹が、約8年ぶりとなる通算21枚目のオリジナル・アルバム『smile』をリリースした。制作に1年をかけたという本作のトータルプロデュースは今井本人と布袋寅泰。昨年、NHK『みんなのうた』のために書き下ろした「青空とオスカー・ピーターソン」や、さだまさしが初めて今井に詞・曲を提供した「美しい場所〜Final Destination〜」など全10曲が収録されている。

【写真】今井美樹ニューアルバム『smile』ジャケット写真

 ソングライター/アレンジャー陣に岩里祐穂、川江美奈子、諸見里修、カワノミチオ、河野圭、佐藤準、梅堀淳、倉田信雄らを迎え、レコーディングには、真壁陽平、山木秀夫、高水健司、今剛といった“今井美樹ソング”を知り尽くす熟練ミュージシャンたちに加え、石若駿やなかむらしょーこといった今注目の新進気鋭プレイヤーも参加するなど、豪華メンバーによって今井の歌の魅力が最大限に引き出された作品に仕上がっている。

■一歩引くことで「Our Songs!!」になる 穏やかな陽射しのように心地よい、大人のためのアルバム

 アルバム『smile』の源流は、2023年に開催された5年ぶりとなる全国ホールツアー『今井美樹 CONCERT TOUR 2023 “Our Songs!!”』にさかのぼる。今井曰く、「これがピリオドになってもいい」という気持ちから、ファンのみんなに「ありがとう!」という感謝を伝えるべく、「ピリオドをつけるんだったら、どうしてもツアーをやりたい」と組んだツアーだったという。そうしたツアーを経て、「Our Songs!!」の最新版を作りたいという気持ちから本作の制作がスタートした。こうした制作の経緯や最新作に込めた想いは、特設サイトの公式インタビューでたっぷりと語られているので、そちらをご一読いただきたい。

 こうして生み出された『smile』には、実に今井らしさが十分に内包された珠玉の10曲が収まっている。そんな彼女の歌の魅力は、何と言っても“自然体”という点に尽きるだろう。誤解を恐れずに言えば、音楽的あるいはキャラクター的な個性を前面に押し出すのではなく、むしろ一歩引くことによって、個々のリスナーにとって「彼女の歌」は自分自身を投影できる「私の歌」となる。つまり、“今井美樹”という看板を大々的に掲げないことにとって、むしろ“今井美樹”というアーティストの存在感がより際立ってくるという、ベテラン・シンガーの中でも唯一と言える稀有な独自性を持ち合わせているのだ。

 もちろん彼女の歌は、歌唱力が高く、表現力も豊かであり、都会的センスが抜群であることは、いまさら言うまでもない。だが彼女は、そうした表面的な部分で勝負するのではなく、あくまでも“歌”というものの本質に、アーティストとしての想いを傾けようとしているのではないだろうか。だからこそ彼女の歌は、たとえるならば、何か目を引くような豪華絢爛な物や他を圧倒するような類の物よりも、ミネラルたっぷりの水や澄んだ空気、穏やかで心地よい陽射しといった、真の意味でとても大切な存在に近いように思える。だからこそ、聴き手の身体にすっと馴染み、聴き手が自身の感情で歌を彩っていくことができるのだろう。まさしく「Our Songs!!(私たちの歌)」であり、その“自然体”は、とても強くて、しなやかだ。

■“自然体”が成熟度を増し40周年でたどり着いた『smile』

 そうした今井の存在感が時代によらず多くの人々を魅了してきたことは数字にも表れている。1988年にアルバム『Bewith』で1988/7/4付オリコン週間アルバムランキング1位を獲得したのを皮切りに、アルバムでは計4作品(『Bewith』のほか、『Lluvia』1991年、『flow into space』1992年、『Ivory II』1993年)、シングルでは3作品(「PIECE OF MY WISH」1991年、「Miss You」1994年、「PRIDE」1996年)でオリコン週間シングルランキング1位となり、アルバム『Ivory』(1989年)と『PRIDE』(1997年)、シングル「PIECE OF MY WISH」と「PRIDE」の4作品でミリオンセラーを記録。これらの歌は今なお90年代の名曲として歌い継がれており、彼女の“自然体”がもたらす歌は流行り廃りとは別の次元で、長く、深くリスナーの心に流れ続けている。その“自然体”はさらに成熟度を増し、40周年という節目に、『smile』へとたどり着いた。

 その中でも、さだまさしが手がけた「美しい場所〜Final Destination〜」は、さだにより書き上げられた、多くの人の歩みに寄り添った物語性のある詞・曲を今井が歌うことで、より洗練されつつもほのかな人肌の温かみを感じる楽曲となっており、そこに、さだのバイオリンソロと布袋のギターソロが交差するといった形で3人のコラボレーションが実現。まるで映画音楽のような深みと余韻が味わえる一曲となっている。そのスタジオ・レコーディングの様子は、同曲のPV Short Version(アルバム特設サイトから視聴可能)に収められているので、ぜひチェックしてみてほしい。

 もちろん他にも、華やかに心躍るような幕開感を彩る「Because of you」や、年齢を重ねてふと心に浮かぶ“あの人”の笑顔を美しい大切な想い出として振り返りながら、それを前向きな気持ちで静かに自分自身の笑顔へとつなげていくような「One more smile」、今の時代にマッチするシティポップ的な空気感が心地よい「ワンマイル」、そして、“終わり”ではなく“これから”を感じさせるバラード曲「Life is a journey」で、アルバムのエンディングを飾っている。

 この曲で今井は、出会いと別れ、再会という人生の旅路を「生きていた」「生きてゆく」「生きている」と穏やかに歌い、その時々の辛さや苦しみすらも含め、今につながるものとしてすべてを柔らかに肯定する。しかもそれを感情の抑揚ではなく、声色の透明感で表現することで、具体的には歌われてないここから先の人生の光すらも感じさせる、そんな余韻を味わわせてくれる聴きどころたっぷりの大人のアルバムだ。アルバムのエンディングを飾りつつも、“終わり”ではなく“これから”を感じさせるバラード曲「Life is a journey」など、聴きどころたっぷりの大人のアルバムだ。

 前作『Sky』(2018年)から8年の歳月を経てのオリジナル・アルバムということになるが、良い意味で「満を持して」「待望の」といった過度に力んだところがなく、いわば“平熱”の今井の歌が聴けるところが、何よりも嬉しく、だからこそ貴重な作品だと言える。一般的に、彼女と同じように30周年、40周年といった記念すべき年を迎えると、派手にアニバーサリーイヤーを祝ったり、あるいは、それまでの活動を総括するような企画性の高い作品をリリースしたりするベテラン・アーティストたちが多い。それは、音楽こそが人生であり、歌い続けることが自分自身のすべてであるというタイプのアーティストにとって、至極当然のことである。

 ただそうした中で今井の“平熱”さ――これは先述の“自然体”に通じることだが――は、他のアーティストにはないものであり、彼女があくまでも音楽を、人生を謳歌するためのひとつとして純粋な気持ちで大切にしていることの表れのように感じられる。つまり、ライフワークではなく、ライフワークとしての音楽へのリスペクト。だからこそ、40周年と言えども音楽に対するスタンスを崩すことなく、導かれるように彼女が歌うべき10曲が必然的に生まれたのではないだろうか。むしろ、アルバム『smile』がこうしたまたとないタイミングで完成したこと自体が喜ばしいことであり、音楽的にもとても価値ある作品だと言えるだろう。

 なお、本アルバムの初回限定盤Aには、2023年に開催された全国12公演のホールツアー『今井美樹 CONCERT TOUR 2023 “Our Songs!!” 』から、2023年12月1日のTACHIKAWA STAGE GARDEN(東京)のライブ映像を全曲収録。初回限定盤Bには、2024年に開催された全国22公演のホールツアー『今井美樹 CONCERT TOUR 2024 “Our Songs!!”』から2024年11月3日のBunkamuraオーチャードホール(東京)のライブ映像が全曲収録されている。

 2026年5月から始まる全国ホールツアー『今井美樹 40th Anniversary “Our Songs!!” TOUR 2026 〜smile〜』は、近年では最大規模でのリリースツアーとなっており、5月16日(土)のサンシティ越谷市民ホール(埼玉)公演を皮切りに、最終公演となる8月6日(木)の東京国際フォーラム ホールAまで、全国23ヶ所・全25公演を開催。アルバム『smile』に収められた楽曲たちが、きっと今井とファンたちによって新たな「Our Songs」へと広がりをみせていく、そんなまたとないツアーとなることだろう。

文・布施雄一郎

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