ハメネイ師死亡で中東はどう変わるのか?山口真由が読む「イラン後継問題と新秩序」

0

2026年03月11日 09:20  日刊SPA!

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

日刊SPA!

写真/AFP=時事
2月28日、アメリカとイスラエルがテヘランにあるイラン最高指導者ハメネイ師の住居を攻撃。同氏とその家族・軍幹部を殺害した。その後、イランの軍事組織は近隣国を空爆し、ホルムズ海峡を封鎖するなどの報復を開始。トランプ大統領は長期戦も辞さないと表明しており、収束の見通しは立たない。
さらに8日、イランの最高指導者を選出する権限を持つ「専門家会議」が、ハメネイ師の後継として次男のモジタバ師(56)を新たな最高指導者に選出したと現地メディアなどが報じた。革命防衛隊と近い関係を持つ強硬派で、反米路線を継承するとみられており、戦争の早期終結は遠のくとの見方も出ている。

信州大学特任教授の山口真由氏は「この一連の出来事が中東問題の構図転換を象徴している」と指摘する(以下、山口氏の寄稿)。

◆変わる中東の対立構図

少なくとも1990年代まで中東問題と言えば「パレスチナ問題」を指した。そして「アラブの大義」を掲げパレスチナを支援する湾岸諸国の中でイスラエルが孤立していた。

ところがいま、中東問題は「イラン問題」に転じ、この構図において孤立するのはイスラエルよりもイランなのだ。

際どい一線で代理戦争の体裁を保ってきたアメリカは、2月28日、イランを“直接”攻撃し、最高指導者ハメネイ師を葬った。そして、“間接”的には中国の体力も奪う。ベネズエラに続き中国への安価な原油の供給源を叩き、加えてイランは上海協力機構という地域安全枠組みの加盟国でもあるのに、実質なんら援助できない中国の現実を明らかにし、その国際的な信認を失墜させる。ということで、多くが批判するイラン攻撃だが、作戦としての合理性はある。

確かにトランプ大統領にも誤算はあったのだろう。イランの政治・軍事指導者を一網打尽にできるとのイスラエルからの情報に乗っかった今回の作戦によって、逆に、アメリカに比較的柔軟な後継候補まで爆撃の犠牲になったとも聞く。結果、マドゥロ大統領の拘束と同時に勝利を宣言できたベネズエラとは異なり、ハメネイ師亡き後もなお、先行きはやや混沌としている。

◆アブラハム合意が進める再編

だが、1993年のオスロ合意によってパレスチナ問題が解決すると全世界が興奮し、それゆえにその挫折に失望した数十年を経て、トランプ大統領は、彼なりのやり方で中東の秩序を構築しつつある。それが、オスロ合意に代わるアブラハム合意である。

第1次トランプ政権の’20年、イスラエルはUAEやバーレーンなどのアラブ諸国との間で国交を正常化した。この歴史的な合意を、中東の雄サウジアラビアなどにも拡大していくのが、現在のアメリカの外交方針となっており、実際、いまだに宗教的な大義を掲げてイスラエルと本気で敵対しているのは、中東ではイランくらいなのだ。世俗の利益を優先する近隣諸国は、時代遅れの原理主義者を内心煙たがっていた。今回、米政権に影響力を持つとされる富裕な湾岸諸国をイランが反撃の対象としたことで、この苛立ちがついに表立って表明されるに至る。イランの孤立はさらに深まり、アメリカのパートナーであるイスラエル一強のもとに、今後、中東の秩序が整理されていく可能性は高い。

だが曲がりなりにも「大義」を掲げた国が、いまや自国の安定という「便宜」を優先してパレスチナを黙殺している。人間の理性を夢見たカントの美しい幻想は、利己性こそ本能だと指摘するホッブズの暗い現実に取って代わられていくのだろうか。

<文/山口真由>

【山口真由】
1983年、北海道生まれ。’06年、大学卒業後に財務省入省。法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。帰国後、東京大学大学院博士課程を修了し、’21年、信州大学特任教授に就任

    前日のランキングへ

    ニュース設定