「身体から変なにおい……」高齢親の異変は本当に認知症? 安易な免許返納で「要介護リスク2倍」の衝撃

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2026年03月12日 21:20  All About

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高齢の親に急な変化が見られた時、すぐさま認知症と結びつけてはいませんか。安易な運転免許の返納がもたらす悪影響や、メディアが煽(あお)る認知症への偏見に迫ります。 ※サムネイル画像:PIXTA
3カ月ほど前は元気だったはずなのに、高齢の親が荒れ放題の部屋の中で入浴もせずに暮らしていた……。その状況を目の当たりにしたら「もしかして認知症?」と思いがちですが、こうした、あまりに急激な変化には別の原因がひそんでいる可能性もあるといいます。

『「高齢者ぎらい」という病』(和田秀樹著)は、30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる精神科医の視点から、高齢者に対するネガティブなイメージが蔓延する日本の問題点に鋭く切り込みます。今回は本書から一部抜粋し、認知症に対する誤解や偏見、高齢ドライバーの免許返納が社会全体にもたらすかもしれない悪影響について解説します。

急な異変は「認知症」より「うつ病」を疑う

「前の日に連絡を入れて、ちゃんと確認をとった上で帰省したのに、『いきなりどうしたの?』と親に驚かれて、こっちが驚いた。しかも、部屋は荒れ放題で、洗濯をしている様子もないし、長い間風呂にも入っていないのではないだろうか、身体も変なにおいがする。つい3カ月前に会ったときには何の問題もなかったのに、ここまで急激に認知症が進んでいるなんて……」

そう言って高齢の親御さんとともに、私のもとを訪れる方は結構多いのですが、同じような経験がある人は、「認知症はゆっくり進む」というこれまでの話に納得できないかもしれません。

でも、3カ月という短期間のうちに、着替えも掃除も入浴もしなくなるほどの急激な変化が見られる場合、私であれば認知症の可能性は低いと判断します。

むしろ可能性が高いのは「うつ病」です。高齢者のうつ病には記憶障害が伴うため、しばしば認知症と混同されるのですが、これもまた、「認知症になると、いきなり何もかもわからなくなる」という誤解を生む理由の一つになっているのだと思われます。

特に女性の場合は60歳を過ぎるとうつ病を発症しやすくなることがわかっていて、免疫力の低下や食欲減退による栄養不足をも引き起こします。それがいろいろな疾患のリスクも高めるので、高齢者にとってはある意味認知症よりも怖い病気です。

もしも、「いきなりいろんなことが急にできなくなった」のだとしたら、認知症ではなくうつ病のほうを疑って、早めに適切な対処をすることが大切です。

報道が広める「認知症」に対する偏見

本来であれば、正しい知識を提供して、認知症に対する誤解を解くのが、テレビという影響力があるメディアの重要な役割であるはずです。けれども実際には、高齢者の事故と認知症を結びつけるような報道をして、逆に誤解を煽っているのです。

みなさんは、2024年に「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」という法律が施行されたのをご存じでしょうか?

この法律では、共生社会を実現するために、「国民一人ひとりが認知症について正しい理解に努め、誤解や偏見を広めてはならない」と明記されています。

「認知症の疑い」「認知症の可能性」などという言葉が軽々しく使われ、認知症が危険運転の原因であると決めつけるようなテレビの報道姿勢は、まさにこの法律が禁じている「誤解や偏見を広める行為」にほかなりません。罰則こそありませんが、法律の理念を真っ向から踏みにじる行為であり、こんなことが許されていいはずはないのです。

高齢ドライバーの免許返納がもたらすこと

認知症に対する誤解が広まることの弊害は、実に大きいものです。

まず、高齢者専門の精神科医という観点から最も深刻だと思うのは、そうした誤解が高齢者本人の心を過剰に追い詰めてしまうという点です。

「認知症になったらもうおしまいだ」「家族や社会に迷惑をかけるだけだ」と思い込み、将来を絶望視する人は少なくありません。中には、その恐怖からうつ状態になってしまうケースさえあります。

しかも、「認知症の疑いがあるから」「年齢的に危ないから」といった理由で、運転免許を取り上げられることも含め、まだ十分にできることを制限されたりすれば、心身の機能低下を無駄に早めてしまうリスクも高まります。

実際、筑波大学などの研究チームが2019年に行った調査によると、65歳以上で運転をやめた人が6年後に要介護状態になるリスクは、運転を続けている人に比べて2倍以上にもなると報告されています。

ここで注目すべきは、運転をやめたあとに電車やバス、自転車などで移動していた人でも、要介護になるリスクは1・69倍だったという点です。つまり、別の移動手段が確保されたとしても、運転をやめること自体が心身に悪影響を及ぼすということなのです。

海外の研究でも、高齢者が車の運転をやめると、うつ状態になるリスクが約2倍に上がり、外出機会や社会参加の頻度も大幅に減ることが示されています。

要介護の人が200万人増えれば、介護費用は年間でおよそ4兆円増加するとも言われています。つまり、過剰な「運転やめろ」ムードの広がりや、認知症の高齢者は何もできなくなるという思い込みは、めぐりめぐって、高齢者のせいだということになっている「社会全体の負担の増大」をもたらすことにもつながるのです。

和田 秀樹(わだ・ひでき)プロフィール
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。幸齢党党首。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹 こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。ベストセラー『80歳の壁』(幻冬舎)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社)、『60歳からはやりたい放題』『90歳の幸福論』『60歳からはやりたい放題[実践編]』『医者という病』『60歳から女性はもっとやりたい放題』『ヤバい医者のつくられ方』『65歳、いまが楽園』『なぜあの人はいつも上機嫌なのか』(扶桑社)など著書多数。
(文:和田 秀樹)

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